宿日直断続的業務
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
宿日直断続的業務は、通常の勤務時間外において緊急事態などに備える仕事をいいます。業務内容が特殊なことから、労働基準法の一部の規定が適用されないのが特徴です。
事業主にとってはメリットが大きいですが、誰でも該当するわけではありません。様々な厳しい基準をクリアし、行政の許可が下りた場合にのみ認められます。
では、宿日直断続的業務とは具体的にどんな仕事でしょうか。また、その認定基準はどういったものでしょうか。本記事でわかりやすく解説します。
目次
宿日直断続的業務とは
宿日直断続的業務とは、通常の勤務時間以外に、一定の場所で緊急事態などに備える業務をいいます。簡単にいうと、緊急の作業が必要となる状況まで「待機」し、それまでは実作業が発生しない業務のことです。
例えば、
- 緊急電話の対応
- 来訪者の対応
- 定時巡回
- 防犯モニターの監視
- 非常事態に備えての待機
等です。看護師やビルの警備員が日替りで行うのが代表的です。
宿日直業務従事者については、行政官庁の許可があれば、労働基準法における労働時間・休憩・休日の規定が適用されません。つまり、割増賃金や休憩を与えなくても良いということです。
これは、宿日直業務は実作業が生じるまでは心身への負担が比較的少なく、労働時間を規制しなくても健康上支障がないと考えられるからです。
ただし、断続的業務の要件は非常に厳しいため注意が必要です(認定基準については、後ほど詳しく解説します)。
監視労働の詳細や具体例は、以下のページをご覧ください。
労働基準監督署長の許可
宿日直を労働基準法の適用外とするには、必ず行政官庁(労働基準監督署長)に申請し、許可を得なければなりません。
つまり、「断続的業務の要件を満たしている」と認められた場合に限り、宿日直業務従事者は労働時間などが規制されないことになります。したがって、1日8時間を超えて働かせたり、休憩を与えなかったりしてもそれ自体で違法とはなりません。
一方、労働基準監督署の許可が下りなかった場合、宿日直業務は通常の「時間外労働」とみなされるので、法律上の割増賃金を支払う必要があります。
また、許可を受けたとしても、深夜労働に関する規定の適用は除外されないため、深夜労働割増賃金は支払う必要があります。
宿日直断続的業務の許可申請の内容
宿日直の許可を得る場合、労働基準監督署長宛に許可申請書を提出します。申請書では、以下の項目について記載します。
- 事業場の基本情報
- 宿日直を担う労働者の総数
- 1回の宿日直員数
- 宿日直勤務の開始・終了時刻
- 1人あたりの宿日直回数(月1回など)
- 宿直手当の金額
- 就寝設備の内容(宿直のみ)
- 勤務の態様
また、提出書類は申請書だけではないので注意しましょう。
提出書類は次のとおりです。
- 断続的な宿直又は日直勤務許可申請書
- 対象労働者の労働の態様が分かる資料(所定労働時間内におけるタイムスケジュール等)
- 就業規則の該当部分
- 支払われるべき宿日直手当の最低額が分かる資料
- 勤務数が分かる資料
- 睡眠設備の概要が分かる資料
また、各書類は2部の提出が必要です。
申請後は実地調査などを経て、数週間で認定結果が届くのが一般的です。
宿日直断続的業務の一般的許可基準
ここからは、宿日直断続的業務の判断基準を具体的にみていきます。以下の要件を満たさないと、行政官庁の許可は下りないためご注意ください。
まず、一般事業場(病院や福祉施設以外)の判断基準をご紹介します。
※昭和22年9月13日発基17号、昭和63年3月14日基発150号を参照しています。
勤務の態様
「基本的に作業する必要が生じない」業務のみ宿日直として認められます。具体例として、以下が挙げられます。
- 定期的な巡回
- 緊急電話の対応
- 非常事態に備えての待機
よって、頻繁にトラブルや呼出が発生するような業務は対象外となります。その他、来訪者の案内などが続く業務も含まれません。
なお、宿日直勤務を通常の始業・終業時刻と隙間なく行う場合、宿日直として認められない可能性が高いです。
宿日直手当
宿日直業務に対しては、通常の賃金ではなく宿日直手当を支給します。
ただし、手当の金額には定めがあり、同事業場で宿日直業務を行う労働者1人あたりの1日平均賃金の3分の1以上を支給する必要があります。
以下の式で計算して、宿日直手当が基準以上であるかを確認しましょう。
宿日直手当の最低額 = 宿直勤務総員数の1ヶ月所定内賃金額合計 ÷(1ヶ月所定労働日数 × 宿日直勤務総員数 × 3)
なお、複数の事業場で手当を統一する場合、事業場によって平均賃金にバラつきがあるとも考えられます。その場合、全事業場における宿日直業務従事者1人あたりの1日平均賃金を算出し、その3分の1以上を支給します。
もっとも、宿日直の勤務時間が非常に短いケースや、他の労働者と比較するのが難しいケースでは、上記基準に従わなくても許可される可能性があります。
宿日直の回数
労働者1人あたりの宿日直回数は、以下のとおり制限されています。
- 宿直業務:週1回
- 日直業務:月1回
これは、「宿日直を行う労働者の総数」÷「1回の宿日直員数」で求めることができます。
宿日直回数は申請書に記載するため、上限を超えると基本的に許可がおりません。事業場内であらかじめ調整してから申請しましょう。
また、宿日直の予定表(当番表)の提出を求められることもあります。
ただし、労働者数などの都合により制限内に抑えるのが難しいケースで、18歳以上の労働者で一定時間内の業務量が少ない場合には、上限を超えても許可される可能性があります。
その他の基準
宿直の場合、ベッドや仮眠室などの睡眠設備を設置する必要があります。
また、労働基準監督署の許可が下りても、宿直中に通常業務が頻発するような場合、十分な仮眠時間を与えるのが望ましいでしょう。
それが難しい場合、宿直ではなく「日勤と夜勤の交代制」を検討すべきといえます。
医師・看護師の宿日直における許可基準
総合病院や緊急外来の医師・看護師は、交代で宿日直業務に就くのが一般的です。また、症状が突然現れやすい“急性期”の患者がいる病院も同様です。
ただし、宿日直業務は「ほとんど作業する必要がないもの」に限られます。また、認定基準は業務内容だけではないため、病院側は漏れなく把握しておく必要があります。以下で詳しくみていきましょう。
※厚生労働省の通達「医師、看護師等の宿日直許可基準について」(令和元年7月1日基発0701第8号)を参照しています。
通常の勤務時間終了後であること
医師や看護師の宿日直は、通常の業務とはっきり区別する必要があります。具体的には、以下のような解釈が一般的です。
- それぞれの勤務の間に空き時間を作ること
通常勤務が終わった瞬間から宿日直に入ることはできないという考え方です。例えば、通常の勤務時間が9:00~18:00の場合、宿直を18:00~翌日8:00にすることは認められません。
ただし、空き時間に明確な定めはなく、労働基準監督署によって判断が異なります(15分・30分・1時間など)。 - 業務内容が全く異なること
通常の業務をきっちり止め、宿日直業務に移れているかがポイントとなります。つまり、通常業務をダラダラと続けていたり、業務内容がほぼ同じだったりする場合、宿日直とは認められません。
逆に、業務内容が明確に区別されていれば、それぞれの勤務の間に空き時間を作る必要はないということになります。
ただし、判断基準は労働基準監督署によって異なるため、申請前に確認することをおすすめします。
軽度かつ短時間の業務であること
医師や看護師の宿日直業務は、以下のように軽微で短時間のものに限られます。
業務内容 | |
---|---|
医師 |
|
看護師 |
|
夜間に十分睡眠がとり得ること
宿直の場合、勤務形態や業務内容だけでなく「夜間に十分な睡眠をとれること」も認定要件となります。
これは時間的余裕に限らず、事業主の配慮が重要です。例えば、深夜の定期巡回をなくしたり、仮眠スペースを個室にしたりする方法が考えられます。
なお、その他の要件(宿日直の回数や手当など)は、一般事業主と同様です。
通常の勤務時間と同態様の業務があった場合
医師や看護師の場合、宿日直中に突然通常の業務を行わなければならないケースもあります。例えば、入院患者の容態急変や多数の救急患者の受入れ、出産などに対応する場合です。
これらは宿日直の業務とはいえませんが、直ちに許可が取り消されるわけではありません。稀に通常業務を行っても、基本的にほぼ作業する必要がなく、また宿直では十分な睡眠時間を確保できる場合、宿日直として認められます。
一方、通常業務が常態化していたり、医師の人数が極端に少なかったりする場合、宿日直の許可は下りない可能性が高いでしょう。
なお、宿日直中に突発的に通常業務を行った場合、その時間については手当ではなく労働基準法上の割増賃金が発生します。
限定的な許可
それぞれの病院は、診療科や職種、時間帯、業務の種類などに分けて宿日直の許可を受けることができます。
例えば、医師を「病棟担当」と「救急外来担当」にグループ分けする方法があります。主に日中に業務を行う「病棟担当」のみ宿直を申請し、深夜に来院者が多い「救急外来担当」は日勤・夜勤制にすることが可能です。
また、診療科ごとに多忙な曜日・時間帯を調べ、それぞれ別の条件で申請することもできます。
この方法により、病院の実態に即した宿日直勤務を行うことができると考えられています。
診療所等に住み込んでいる場合
小規模な病院やクリニックでは、医師や看護師が住み込みで働いているケースもあります。この場合、通常の勤務時間以外の労働は、宿日直として扱わなくて良いとされています。したがって、宿日直手当を支払う必要もありません。
ただし、通常の勤務時間と同様の業務を行う場合、時間外労働にあたり、労働基準法上の割増賃金が発生します。
社会福祉施設の宿日直における許可基準
社会福祉施設の職員も、交代で宿日直を担うのが一般的です。入居者の多くは介護や日常生活のサポートが必要であり、24時間体制の見守りが欠かせないためです。
ただし、宿日直業務と認められるのは「軽微で短時間の業務のみ」です。通常の業務と同じ肉体労働や、入居者に直接指導する業務などは含まれません。
では、その他の要件も次項からみていきましょう。
※昭和49年7月26日基発387号を参照しています。
通常の勤務時間終了後であること
通常の勤務時間と宿日直勤務をしっかり切り離す必要があります。
具体的には、まずそれぞれの勤務を連続させないことが重要です。例えば、通常勤務が8:30~17:30の場合、宿直勤務を17:30~とすると許可が下りない可能性が高いです。そこで、基本的には、30分程度の空き時間を作り18:00~とするのが少なくとも必要になります。
ただし、具体的な判断基準は労働基準監督署によって異なるため、申請前に確認するのが良いでしょう。
軽度かつ短時間の業務であること
社会福祉施設の宿日直業務は、軽度かつ短時間の作業に限定されており、主に以下のようなものです。
- 少数の入所児や入所者に対する夜尿起こし
- おむつ交換
- 検温
- 定時巡回
- 緊急時の電話対応
軽度な作業とは、通常よりも身体的負担が少ない業務をいいます。例えば、おむつ交換や夜尿起こしなどの介助作業でも、対象者を抱きかかえるような肉体労働がないものを指します。
また、短時間の作業とは、軽度な作業が一勤務中に1~2回含まれ、1回にかかる時間が10分程度のものをいいます。
なお、一勤務中に長時間の作業が混在している場合には、当該作業が終了するまでは宿日直勤務として認められません。
また、勤務中に急病への対応などの通常業務が発生した場合、その時間は宿日直業務ではなく時間外労働となり、割増賃金を支払う必要があります。
夜間に十分睡眠がとり得ること
宿直の場合、「夜間に十分な睡眠がとれること」も認定要件となります。ベッドや仮眠室を設置し、労働者がゆっくり休める環境を整えることが重要です。
一方、会議室のソファやデスクでの仮眠は認められない可能性が高いです。申請後の実地調査においてマイナス評価となりやすいため、注意しましょう。
なお、宿日直勤務の手当については、一般事業場と同じように、同事業場で宿日直業務を行う労働者1人あたりの1日平均賃金の3分の1以上を支給します。
また、宿日直勤務の回数も、一般事業場と同じで以下のとおり制限されています。
- 宿直業務:週1回
- 日直業務:月1回
施設等に住み込んでいる場合
社会福祉施設では、保母などが住み込みで勤務するケースもあります。
しかし、「住み込み=宿直」として扱う必要はありません。
住み込みであったとしても、夜間に従事する軽度かつ短時間の作業が存在しない場合には、宿直勤務であると扱う必要はありません。
したがって、住み込みだからといって常に宿日直手当が発生するわけではありません。
宿日直業務について違反した場合の罰則
労働基準監督署の許可を受けていない場合、通常の勤務時間外の労働は“時間外労働”となります。したがって、法定以上の割増賃金(残業代)を支払わなければならず、違反した場合は6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられます。
また、労働基準監督署の許可を得ていても、実態が認定基準に反する場合(慢性的な人手不足である、通常の夜勤と業務内容が変わらない等の場合)、許可が取り消される可能性があります。
なお、労働者は、事業主の違反行為について労働基準監督署に申告することができます。それにより、事業主は報告・出頭を命じられる可能性もあるため注意が必要です。
宿日直の許可基準を満たすのが難しい場合、日勤と夜勤の交代制を導入するなど、別の策を講じるべきでしょう。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある