休職制度
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
休職制度とは、労働契約関係そのものは維持させながら労務への従事を免除すること又は禁止するための制度です。
労働政策研究・研修機構の調査(2013年)によると、休職者が1人以上いる企業の割合は52.0%となっており、多くの会社において休職制度が活用されています。
休職制度は会社ごとに定めるものであり、休職制度がない会社でも法的には問題ありません。しかし、うつ病の労働者が発生したときなどには、休職制度がないと退職を巡ってトラブルになるリスク等があるため、前もって制度を整備しておくことが望ましいでしょう。
本稿では、休職制度について、概要やメリット・デメリット等を解説します。
目次
休職制度とは
休職制度とは、従業員を就労させるのが適切でない場合に、会社が当該従業員の就労を一時免除又は禁止する制度のことです。
休職制度の主なものとして、業務上以外の理由で負傷したり病気になったりした場合に利用される、傷病休職があります。
私傷病の場合は、業務上の災害(労働災害)とは違い、休職する権利が法的に保障されている訳ではないため、会社の制度によって休職させることとします。
このほか、出向時等、給与を発生させずに会社との労働契約を維持させることを目的として、休職制度が活用される場合があります。
なお、多くの就業規則においては、休職期間の満了により、当然に退職する旨の規定が設けられています。
欠勤や休業との違い
休職とは、従業員を休ませることをいい、“休業”や“欠勤”とは違う概念になります。
それぞれ、次のような意味があります。
休職 | 会社が従業員の就労を一時免除又は禁止すること |
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休業 | 本来的には労働義務があった日について、使用者により労働義務が免除されること |
欠勤 | 従業員が、会社との契約上労働義務を負う時間について労働をしないこと |
これらのうち“休業”については、業務上災害を含む会社側の都合によって生じる休業では休業補償を支払う必要がある等、様々な労働基準法上の規制があります。
休職の種類
傷病休職 | 業務に関係のない負傷や疾病(私傷病)による休職です。 |
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自己都合休職 | 従業員の私的な都合で利用する休職です。 従業員からの申し出により、使用者が承諾することで実施されます。 |
起訴休職 | 従業員が起訴されてしまった場合に活用される休職です。 次のいずれかの事情があるときに利用されます。 ①当該従業員の職務遂行が難しい場合や、会社の信用毀損にかかわる場合 ②身体拘束されており、現実に出社することが困難である場合 |
出向休職 | 従業員が別の会社に出向する場合に活用される休職です。 従業員を自社に在籍させつつ、給与の支払いをしない場合に活用されます。 |
組合専従休職 | 従業員が労働組合の業務に専従する場合に活用される休職です。 会社が在籍専従者に給与を支払うことは、労働組合が会社に逆らえないようにする手段となるおそれがあるため労働組合法で禁止されており、休職が活用されます。 |
公職就任休職 | 従業員が公職(議員等)に就任した場合に活用される休職です。 近年では、裁判員裁判に参加する期間について、休職できるようにしている企業も出てきています。 |
事故欠勤休職 | 従業員が傷病休業以外の事情で、従業員側の都合(事故)により欠勤が続く場合に活用される休職です。 従業員側の落ち度が認められるような場合に、解雇の猶予措置として活用されることが想定されています。 |
留学休職 | 従業員が会社に認められて留学等を行う場合に活用される休職です。 留学終了後、同じ会社での勤務を希望する従業員が活用することが想定されます。 |
休職の適用対象者
従業員に就業規則上の休職事由が認められると、その従業員には休職制度が適用されます。
もっとも、休職には「解雇の猶予措置」という一面もあるため、就業規則上の要件に形式的に該当するだけでは不十分です。
実質的にも、その従業員について「就労させることが適切でない」といえることが必要であると考えられます。
休職期間
休職制度は様々な場面で活用されるため、目的に応じた休職期間の定めをしておく必要があります。
必要以上に長い休職期間を設けてしまうと、新しい労働者を雇えない等のデメリットが大きくなるおそれがあるため注意しましょう。
詳しくは以下のページで、解説を行っています。
就業規則における休職規程の必要性
休職制度は、基本的には各会社に定められている就業規則に記載する方法が適切だと考えられます。
なぜなら、休職に関して定めるべき事項はいくつもあるため、労働契約書に記載することは煩雑ですし、休職制度を変更するときに労働契約書の内容を書き替える手間がかかるからです。
また、休職制度を解雇の猶予措置として活用する場合には、その合理性が厳しくみられるため、休職の要件やその期間の合理性を担保する必要があります。
就業規則には、次のような事項を規定しましょう。
- 休職できる社員の範囲(1年以上勤務している社員への限定等)
- 求職を認める条件(診断書の提出等)
- 休職できる期間と延長の可否
- 休職中の生活の送り方
- 休職期間中給与の有無
- 休職期間中の受診義務や診断書提出義務
- 復職の判断基準と復帰後の待遇
- 休職期間が満了した場合には自然退職となること
休職期間中の労働者に関する社内規定について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
休職制度を導入するメリット・デメリット
休職制度を導入することについて、企業側と労働者側のメリット・デメリットを以下で解説します。
企業側のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
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休職制度を設けることによって、労働者には治療など、休職期間中に行うべきことに専念してもらえます。また、休職期間満了によって退職してもらうことができるので、解雇の有効性について争われるリスクを下げることができます。
しかし、休職期間が満了するまでは雇い続ける必要があり、状況によっては定期的な現状の確認をしなければならない等、会社の負担が増すおそれがあります。
労働者側のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
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休職制度があることによって、労働者は仕事のことを気にすることなく、私傷病の治療などに専念することができます。休職期間中に解雇・退職となるリスクは低く、職場復帰できる可能性があることから、労働者にとってメリットがあるでしょう。
しかし、休職期間内に復帰できなければ解雇・退職となるリスクが高く、復帰するときには後ろめたい気分になることも少なくないようです。
休職期間中の給与・賞与
休職中の労働者の給与は、無給としている会社が多いようです。「ノーワーク・ノーペイの原則」により、働いていない労働者には、基本的に給与を支払う義務がないからです。
代わりに、健康保険から「傷病手当金」という金銭が労働者に対して支給されます。
傷病手当金について
傷病手当金とは、従業員が仕事と関係なく負傷したり、病気になったりした場合に、健康保険から受け取れる手当金のことです。
おおむね1日当たりの賃金の2/3が支給されますが、連続して4日以上休み、会社から給与が支払われていない等の支給要件があります。
傷病手当金について、より詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
社会保険料・住民税の納付義務
休職中の従業員については、給与を支払わないとしている会社も多いですが、厚生年金や健康保険料といった社会保険料の納付義務は免除されません。そのため、給与からの天引きができないことに注意しましょう。
社会保険料の労働者が負担する部分について、取扱いを定めておかなければ、休職期間中は使用者が負担し続けることになりかねません。休職後退職に至った場合には、その回収も企業にとっては負担になります。
そこで、傷病手当金の受取人を会社にして、そこから社会保険料を支払う方法が考えられます。
休職手続きの流れ
休職手続は、主に次のような流れで進めましょう。
- 従業員に休職事由があると考えられる事情を把握した場合には、その事情について確認する
具体的には、それぞれの休職事由によりますが、本人や直接の上司への聞き取りを前提に、例えば傷病休職の場合には、医師の診断書を提出させ、休職が必要となる期間を把握する必要もあると考えられます。 - 休職事由が確認できれば、休職期間を設定する
休職事由や医師の診断書に応じた、合理的な休職期間を設定する必要あります。 - 休職期間が決定すれば、その内容を記載した、休職通知を従業員に交付する
いつからいつまでが休職期間であるかを従業員に明示することは、後に紛争となった場合に、重要な事実関係となると考えられるからです。
休職中から復職までの流れ
休職中から復職までに必要な会社側の対応として、主に次のものが挙げられます。
- 休業の開始
- 職場復帰のためのプランの作成
- 定期的な状況の確認
- 本人からの復帰の申出及び主治医の判断等
- 職場復帰の決定
休職者の復職を支援する「リハビリ出勤制度」
休職中の労働者が復職しようとする場合に、「リハビリ出勤制度」が活用される場合があります。
休職明けの労働者が、すぐさま連続勤務の生活リズムに対応できない場合もあることから利用される制度です。
リハビリ出勤は、主に次のように行います。
- 労働者の体調や希望を確認する
- 労働者の出勤日数や勤務時間を定める
- 無理をしないように指導し、必要であれば出勤日数や勤務時間を調整する
詳しくは以下のページをご覧ください。
休職期間満了時の退職及び解雇について
休職制度の多くには、休職期間満了時において従業員が復職できない場合に、当該従業員は当然に退職する旨の定めが設けられています。
そのため、労働者は早期に復職しようとすることもありますが、復職させるか否かの判断を行う権利は会社にあります。
仮に医師が復職を可能と判断していても、その判断に従う義務はありません。
ただし、医師が復職できると判断しており、労働者から復職したいという申し出があるにもかかわらず、復職させないまま休職期間満了により退職させると、有効な退職だと認められないおそれがあるため注意しましょう。
詳しくは以下のページをご覧ください。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある