休職制度とは|給与の扱いや会社側の手続きなどわかりやすく解説

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
厚生労働省の令和3年度の調査によると、1年間のうち1ヶ月以上休職した労働者がいる企業は、87%にのぼっています(従業員数500人以上の企業が対象)。
休職制度を設けるかは企業の自由ですが、厚生労働省の調査をみると、多くの企業で実施されているとわかります。また、休職制度は労働者のみならず企業にとってもさまざまなメリットがあるため、実施していない企業も導入を検討することが有用でしょう。
本記事では、休職制度のルールや導入の流れ、注意点などを詳しく解説していきます。ぜひ参考にしてみてください。
目次
休職制度とは
休職制度とは、業務外での病気やケガなどにより、就労が難しくなった労働者について、一定期間解雇を猶予することなどを目的とした制度です。就労が困難な労働者に対し、企業が「休職命令」を出して休職させることが一般的です。
また、私傷病のほか、企業命令による出向や公職就任などの場合も対象となることがあります。
休職制度の目的の一つとして、「労働者の雇用を守る」という点が挙げられます。
近年、変わりつつあるものの、依然として「終身雇用」が根強く残っている日本では、解雇することは、労働者の生活を危ぶませるものであるため、休職によって一定の保護を図っていると考えられます。
また、それまでの労働者の働きを考慮し、一時的に働けなくても、すぐに解雇するのではなく、復帰を待つという側面もあります。
欠勤や休業との違い
休職 | 就労が困難な労働者の就労義務を一時的に免除ないし禁止すること |
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休業 | 本来就労義務がある日について、使用者都合や法律上の定めにより就労義務が免除されること |
欠勤 | 就労義務がある日について、労働者が労務を提供しないこと |
欠勤とは、就労義務がある日に、自己都合で仕事を休むことです。休職と違い、労働義務が免除されるわけではありません。
一般的には、私傷病による欠勤が続き、有給休暇も0になったような場合に、休職命令を出すという定め方をしている企業が多いようです。
休業とは、労働者の就労義務を免除するという点では休職と同じです。しかし、休業は「育児休業」「介護休業」「労働災害」など法律で定められたものが多く、手当なども明確に規定されています。
例えば、経営難による自宅待機など「会社都合の休業」の場合、企業は労働者に対し、平均賃金の6割以上の休業手当を支給することが義務付けられています(労働基準法26条)。
一方、「休職」は法律上の定めがなく、期間や手当なども企業の判断に委ねられています。
休業手当については、以下のページも併せてご覧ください。
休職の種類
傷病休職 | 業務に関係のない負傷や疾病(私傷病)による休職です。 |
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自己都合休職 | 労働者の私的な都合で利用する休職です。 労働者からの申し出により、使用者が承諾することで実施されます。 |
起訴休職 | 労働者が起訴されてしまった場合に活用される休職です。
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出向休職 | 労働者が別の会社に出向する場合に活用される休職です。 労働者を自社に在籍させつつ、給与の支払いをしない場合などに活用されます。 |
組合専従休職 | 労働者が労働組合の業務に専従する場合に活用される休職です。 会社が在籍専従者に給与を支払うことは、労働組合が会社に逆らえないようにする手段となるおそれがあるため労働組合法で禁止されており、休職が活用されます。 |
公職就任休職 | 労働者が公職(議員等)に就任した場合に活用される休職です。 近年では、裁判員裁判に参加する期間について、休職できるようにしている企業も出てきています。 |
事故欠勤休職 | 労働者が傷病休業以外の事情で、労働者側の都合(事故)により欠勤が続く場合に活用される休職です。 労働者側の落ち度が認められるような場合に、解雇の猶予措置として活用されることが想定されています。 |
留学休職 | 労働者が会社に認められて留学等を行う場合に活用される休職です。 留学終了後、同じ会社での勤務を希望する労働者が活用することが想定されます。 |
休職期間
休職期間は企業の制度設計や休職事由などによって異なりますが、一般的には3ヶ月~設定される例が多いとされています。調査によると、「半年~1年」が最も多く、長くても「2~3年」とする企業がほとんどです。
もっとも、労働者の体調等によっては休職期間の延長も検討すべきでしょう。その場合、延長期間や復帰条件、復帰が難しい場合の対応等を取り決めておくことが重要です。
また、休職期間のルールは就業規則に明記しておきましょう。例えば、「一律で〇ヶ月とする」「勤続年数に応じて決定する」「都度労使間で話し合う」等の規定の仕方が考えられます。
休職制度を設ける義務はあるか
法律上、企業が休職制度を設ける義務はないため、実施するかは企業の判断によります。よって、制度がなくても違法とはなりません。
しかし、労働者保護や人材確保の観点から、企業としては休職制度を導入するのが望ましいと考えられます。
また、制度を導入する際は、取得要件などを就業規則に明記しておくことが重要です。
具体的には、
- 休職命令を出すケース(欠勤日数が〇日を超えた場合、療養が必要と認められる場合など)
- 休職制度の対象者(試用期間や非正規労働者、有期雇用労働者を除くなど)
- 休職期間
などを明確化することが重要となります。
休職制度を設けるメリット・デメリット
メリット |
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デメリット |
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休職制度を設けることによって、労働者には治療など、休職期間中に行うべきことに専念してもらえます。また、休職期間満了によって退職してもらうことができるので、解雇の有効性について争われるリスクを下げることができます。
しかし、休職期間が満了するまでは雇い続ける必要があり、状況によっては定期的な現状の確認をしなければならない等、会社の負担が増すおそれがあります。
休職期間中の給与・賞与等の取扱い
休職期間中の給与や賞与の支払いについては、法律上の規定がないため、企業の判断に委ねられています。ただし、手当金や社会保険料、税金などは取扱いが決まっているため、注意が必要です。
では、以下で具体的にみていきましょう。
給与
休職中の労働者については、無給として問題ありません。
これは、「ノーワーク・ノーペイの原則」、すなわち、労務を提供していない者には給与を支払う義務がないという考え方に基づくものです。実際に、多くの企業では休職者を無給扱いとしているようです。
もっとも、企業の判断で休職者に給与を支払うことは可能です。
また、出向休職の場合、使用者都合による休職であるとして、出向元(自社)に賃金の支払い義務が生じる可能性もあるため注意が必要です。
賞与
賞与についても、支給するかどうかは企業の判断によります。そのため、不支給としても問題ありません。
一般的には、労務を提供していないことから、不支給とする企業が多いようです。
ただし、賞与の査定期間に勤務実績がある場合、出勤日数や貢献度に応じて「一部支給」とするのが望ましいでしょう。
また、労働トラブルを避けるため、最低出勤日数や賞与の計算方法なども明確化しておくことが重要です。
傷病手当金
傷病手当金とは、従業員が仕事と関係なく負傷したり、病気になったりした場合に、健康保険から受け取れる手当金のことです。
おおむね1日当たりの賃金の2/3が支給されますが、支給要件として、「連続して4日以上休んだこと」「会社から給与が支払われていないこと」などが定められています。
傷病手当金について、より詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
社会保険料・住民税
休職中の労働者については、厚生年金や健康保険料といった社会保険料の納付義務は免除されません。よって、給与を不支給とする場合、保険料の天引きができない点に注意が必要です。
この場合、企業が一旦立て替えることになりますが、退職された場合は回収が難しくなる可能性もあります。そこで、以下のような対策が考えられます。
- 傷病手当金の受取人を会社にして、そこから社会保険料を支払う
- 労働者に納付書または請求書を郵送し、直接納めてもらう
- 復帰が確実な場合、復帰後の給与や退職金から天引きする(協定書が必要となります)
休職制度の策定手順
休職制度を導入する際は、以下のような流れで進めます。
- 休職制度に関するルールを決める
【検討事項】
- 休職の対象となる事由
- 休職期間
- 休職期間を延長する場合の取扱い
- 休職中の給与や勤続年数の取扱い
- 休職の申請手続き
- 復職の条件や復職時の手続き
- 復職が難しい場合の対応など
- 就業規則で規定する
休職制度を実施する場合、就業規則に必ず記載する必要があります(労働基準法89条10号)。また、作成後は所轄の労働基準監督署へ届出が必要です(同法柱書)。
- 全労働者に休職制度の導入や内容を周知する
就業規則の作成後は、社内でその内容を周知しなければなりません(同法106条1項)。また、労働者がいつでも閲覧できるよう、周知方法にも注意が必要です。
休職制度の詳しい定め方は、以下のページをご覧ください。
休職から復職までの会社側の手続き
- 休職事由の把握
休職の理由が、就業規則上の取得要件と合致するか確認します。具体的には、勤務中の様子、残業時間、勤怠状況、ストレスチェックの結果、主治医の診断などをもとに判断します。
- 休職期間の設定
休職期間も、基本的に就業規則に沿って決定します。労使の話し合いで決める場合、本人の希望も踏まえたうえで、現実的な期間を設定する必要があります。
- 休職通知の交付
休職事由や休職期間、給与の取扱い、社会保険料の支払い方法、復職の条件、復職できない場合の対応などを具体的に記載し、労働者に交付します。
- 定期的な状況確認
連絡の頻度や方法は、労働者の事情に合わせ柔軟に対応する必要があります。特にうつ病などで休職中の場合、頻繁な連絡は避けるべきでしょう。
また、担当者は1人にしぼる、次回のおおよその連絡日を伝えるといった配慮も必要です。 - 職場復帰の可否判断
職場復帰の可否は、本人の意思、主治医及び産業医の見解、症状の回復状況、職場環境などさまざまな要素を踏まえ、総合的に判断する必要があります。
- 職場復帰後のフォロー
復帰後は、管理監督者や産業保健スタッフによる十分な支援が必要です。「職場復帰プランは機能しているか」「症状の再発リスクはないか」「勤務時間は適切か」などをしっかり観察しましょう。
休職期間満了時の退職・解雇の注意点
休職期間満了による退職・解雇が認められるかは、就業規則の定めなどによります。
就業規則において、「休職期間満了までに休職事由が消滅しない場合には、退職とする」旨が定められている場合には、当該労働者は、期間満了により当然に退職したものと判断される可能性があります。
一方、就業規則において「休職期間満了までに休職事由が消滅しない場合には解雇する」と規定していた場合に、就業規則に則って休職期間満了を理由に解雇したとしても、以下のようなケースでは、当該解雇が、「不当解雇」にあたると判断される可能性があるため注意が必要です。
- 業務上負った傷病で休職していた
- 主治医が復職可能と判断している
- 休職期間を多少延長すれば、治癒の見込みがある
- リハビリ出勤や配置転換などの配慮を怠った
また、解雇とする場合、解雇日の30日前までにその旨を労働者へ通知する必要があります(労働基準法20条1項)。
なお、退職扱いとする場合、事前に労働者へ通知する義務はありませんが、トラブルを避けるため、書面で退職となる旨を通知しておくことをおすすめします。
退職金の支払いについても、就業規則の定めに従うのが基本です。支払い時期や計算方法を確認のうえ、適正額を支給しましょう。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある