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退職金制度とは|種類や企業のメリット・デメリットなどわかりやすく解説

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

退職金制度は、労働者のモチベーションアップや離職防止につながるため、企業にも大きなメリットがあります。
しかし、「資金繰りが心配」「導入手続きが大変」などの理由から導入をためらう企業も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、退職金制度の種類や金額の定め方、導入の流れなどを詳しく解説していきます。導入を検討されている方や、制度の見直しをお考えの方は、ぜひご覧ください。

退職金制度とは

退職金制度とは、従業員の退職時に、勤続年数や業績に応じたお金を支給する制度です。定年退職時だけでなく、会社都合や自己都合での退職、従業員が亡くなった場合にも支給されることがあります。
退職者の生活支援や在職者のモチベーションアップなどを目的に、多くの企業で実施されています。

なお、退職金制度の内容や支給方法はいくつか種類があるため、自社に合ったものを選択することが重要です。
また、退職金の支給時は一度に多くのお金を動かすことになるため、資金管理はしっかり行っておく必要があります。

退職金制度を導入する義務はあるか

法律上、企業が退職金制度を導入する義務はありません。よって、退職金を支給するかどうかは企業が任意で決めることができます。また、支給対象者、支給方法なども企業によって異なります。

ただし、就業規則や雇用契約書に「退職金に関する規程」が設けられている場合、その内容に従い退職金を支払う義務が発生します。

退職金制度を導入している企業の割合

厚生労働省の令和5年度の調査によると、退職金制度を導入している企業の割合は74.9%となっています。なお、企業規模別の導入率は下表のとおりです。

【従業員数】 【制度の導入率】
1000人以上 90.1%
300~999人 88.8%
100~299人 84.7%
30~99人 70.1%

このように、企業規模が大きいほど退職金の実施率も高くなっています。
また、退職金の支払形態をみると、かつて主流だった「退職一時金」に加え、「退職年金」を実施する企業も増加しています。
なお、勤続年数が短い(目安として3年未満の)従業員については、支給対象外とする企業も多いようです。

退職金制度の種類

退職金制度には、以下のように大きく分けて4種類あります。

  • 退職一時金制度
  • 確定給付企業年金制度
  • 企業型確定拠出型年金制度
  • 中小企業退職金共済

退職一時金や中小企業退職金共済は、一時金として支払われるのが一般的です。
一方、確定給付企業年金や確定拠出年金は、60歳以降数年間にわたって分割で支払われる傾向があります。
それぞれ支給方法やメリット・デメリットが違うため、自社の現状に合う制度を選択するのが望ましいといえます。

退職一時金制度

退職一時金制度は、退職時に退職金を一括で支給する制度です。かつての主流の制度で、「退職金」=「退職一時金」をイメージされる方も多いでしょう。

【メリット】

  • 退職後すぐ支給されるため、従業員に安心感を与えられる。
  • 一括で支給されるため、制度の内容を理解しやすい。
  • 制度の設計がしやすい。

【デメリット】

  • 積立金は損金算入されないため、税制優遇措置を受けられない。
  • 内部留保で退職金をまかなうため、退職者が多いと資金繰りに苦労するおそれがある。

確定給付企業年金制度

確定給付企業年金制度とは、あらかじめ確定した金額を、退職後に年金として支払う制度です。
企業が生命保険会社などの外部機関に掛金を拠出し、運用を任せる仕組みです。給付額は前もって決められるため、過不足なく従業員に支払う必要があります。

【メリット】
掛金を損金に算入できるため、税制優遇措置を受けられる。

【デメリット】
運用に失敗した場合、企業が不足分を補填する必要がある。

企業型確定拠出年金制度

確定拠出年金制度とは、企業が毎月一定の掛金を拠出し、従業員自身が運用していく制度です。運用によって得た利益は、退職後に年金として支給されます。
掛金の拠出先は従業員本人が選択し、運用リスクも本人が負担するのが特徴です。また、外部の金融機関が運用を担うため、支給元も外部機関となります。

【メリット】

  • 掛金を損金に算入できるため、税制優遇措置を受けられる。
  • 損失が発生しても、企業が補填する必要がない。

【デメリット】
運用結果によっては、年金の支給額が不十分になる可能性がある。

中小企業退職金共済

中小企業退職金共済とは、単独では退職金制度を導入するのが難しい“中小企業”を対象とした制度です。
企業から共済へ毎月一定の掛金を拠出し、管理や運用は中退共に一任されます。また、掛金額は従業員ごとに選択可能です。

ただし、加入させる従業員を選ぶことはできません。導入する際は、基本的に全従業員を加入させなければなりません(試用期間中の者、短時間労働者、有期雇用労働者、休職者などを除く)。

退職時は、従業員が共済に請求手続きを行い、一定額が共済から振り込まれる仕組みになります。

【メリット】

  • 掛金を法人が支払っている場合は損金、個人事業主の場合は必要経費として算入できる。
  • 掛金の一部を国から助成してもらえる。

【デメリット】

  • 掛金の減額は簡単に認められない。
  • 短期間で退職した労働者には退職金が支給されない。
  • 中小企業に勤める労働者しか加入できない。
  • 経営者や役員等は加入できない。

退職金制度を導入する企業側のメリット・デメリット

退職金制度を導入することで、企業にはどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。以下でご紹介します。

メリット

優秀な人材の確保

退職金制度があることで、求職者に対し、「労働条件が良く、長く働きやすい職場」であることをアピールできるため、採用において優位性を獲得でき、優秀な人材の確保が期待されます。

労働者の離職防止

退職金は基本的に勤続年数が長い方が高額になるため、長く働こうという従業員のモチベーションがアップし、労働者の退職防止効果が期待されます。

コスト削減

退職金制度として、企業年金や中退共などを利用する場合、会社負担の掛金は全額損金とされるため、節税効果が生じます。また、退職金には社会保険料がかからないというメリットがあります。

退職後のトラブル防止

経営状態の悪化などにより、やむを得ず従業員に退職してもらうこともあります。退職金が支給されれば、従業員の退職後の生活が安定するためトラブルを回避できる可能性があります。

デメリット

資金繰りが悪化するおそれ

退職金を用意する時、定年退職者については予測がつきますが、中途退職者は予測がつきません。多くの従業員が同時期に退職するような場合は、会社の資金繰りが悪化するおそれがあります。

運用にコストがかかる

退職金を用意するには、一定の資金が必要となります。企業規模や経営状況に相応しくない退職金制度を導入すると、経営状態が悪化する場合があります。

導入後の廃止は難しい

退職金制度は、一度導入すると簡単に廃止したり、内容を変更したりすることができません。
なぜなら、制度を廃止するには、従業員の同意を得るなど多くの手続きが必要となるからです。また、信頼関係が破綻することで、多くの労働者が退職するおそれもあります。

退職金の算定方法

退職金の算定方法は、主に以下の4つが用いられます。

  • 定額方法
    勤続年数だけで退職金額を決定する方法です。基本的に、勤続年数が長いほど退職金も高額になります。
  • 基本給連動型
    勤続年数に加え、退職時の基本給も考慮して計算する方法です。また、退職理由に応じて一定割合が減額されます。
  • 別テーブル方式
    勤続年数に加え、役職や等級も考慮して計算する方法です。あらかじめ、役職や等級に応じた「基本金額」のテーブルを定めておく必要があります。
  • ポイント制方式
    勤続年数や等級、貢献度などをポイントに換算し、退職時の累計ポイントによって支給額を決定します。

いずれの方法でも、勤続年数が長いほど退職金の相場も高くなるのが一般的です。それぞれの詳しい計算方法は、以下のページで解説しています。

退職金の算定方法

退職金制度の導入方法

退職金制度を導入する際は、以下の流れで進めましょう。

  1. 導入目的の設定
    自社の課題を洗い出し、退職金制度を導入する目的を明確にします。例えば、「応募者を増やすため」「従業員の定着率を上げるため」などと設定します。
    導入目的を明確にすることで、より自社に合った制度を見極めることができます。
  2. 導入する制度の決定
    4つの退職金制度のうち、どれを導入するか決定します。
    「わかりやすい制度が良い」「資金に余裕がある」などの場合、退職一時金の特徴と合致します。
    一方、「内部留保が難しい」「企業の運用リスクを減らしたい」という場合、企業型確定拠出年金が良いです。
  3. 社内規定の策定
    就業規則や退職金規程を整備します。規程では、支給対象者、支給日、支給方法、計算方法、減額事由などを定めます。
    なお、制度の導入により手取り額が減るなどの不利益が生じる場合、基本的に従業員から個別に同意を得る必要があります。
  4. 労働基準監督署への届出
    就業規則の作成・変更時は、所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。
  5. 社内での周知
    制度の内容を社内で周知します。就業規則を備え付ける、説明会を実施するなどの対応が必要です。

既存の退職金制度を変更する方法

「退職金の支給水準を引き下げたい」と思われても、会社が一方的に判断することはできません。退職金の減額は「労働条件の不利益変更」にあたるため、基本的に従業員から個別に同意を得る必要があります。

ただし、以下の事情を考慮し、制度の変更に合理性が認められる場合、従業員の同意なく変更が認められる可能性があります。

  • 制度の変更の必要性
  • 従業員が受ける不利益の程度
  • 変更後の内容の相当性
  • 代償措置の内容
  • 従業員側との交渉の経緯
    など

もっとも、合理性が認められるケースは少ないのが現状です。よって、制度を変更する際は、従業員にしっかり事情を説明し、同意を求める必要があるでしょう。

退職金制度の導入で利用できる助成金

退職金制度を導入すると、以下のような助成金を受給できる可能性があります。

①キャリアアップ助成金

すべての有期労働者(契約社員、アルバイト・パート等)を対象とした退職金制度を導入し、支給・積立てを行った企業に支給されます。
支給額は、中小企業が40万円、大企業が30万円となっています。また、賞与も同時に導入すれば、さらに助成金が増額されます。

②中小企業退職金共済制度への助成金

【新規加入助成】
新しく中退共に加入する事業主に、掛金月額の2分の1(従業員ごとに上限5000円)にあたる金額を、加入後4ヶ月目から1年間助成されます。短時間労働者の特例掛金月額(掛金月額4000円以下)加入者については、さらに助成金が増額されます。

【月額変更助成】
掛金月額が1万8000円以下の従業員の掛金を増額する事業主に、増額分の3分の1にあたる金額を、増額月から1年間助成されます。ただし、2万円以上の掛金月額からの増額は助成の対象になりません。

助成金の詳細については、それぞれ以下の記事をご覧下さい。

退職金制度を廃止する場合の注意点

退職金制度を廃止することも可能です。ただし、退職金の廃止は就業規則の不利益変更にあたるため、前述の「退職金の変更」と同様の手順を踏むことが必要です。

まずは、労働者に廃止の必要性等に関する説明を行い、同意してもらうことが原則となります。また、退職金の不支給は労働者に大きな不利益を与えるため、打切り支給など、廃止による不利益が緩和される措置を講じることも必要です。
仮に同意が得られない場合は、就業規則を変更して、強行的に廃止の手続きを取ることになります。

ただし、①変更後の就業規則を従業員に周知し、②退職金の廃止に合理性がある、という要件を満たさない限り、この方法は認められないため注意が必要です。合理性については、経営的に緊迫していることが客観的に証明でき、不利益緩和措置が講じられているかといった厳格な基準により判断されます。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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