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働き方改革が目指す最低賃金について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

2019年4月に始まった働き方改革では、最低賃金の引上げという計画が掲げられています。最低賃金の引上げは労働者の生活を豊かにするだけでなく、国の景気アップにもつながるため、非常に重要な施策といえます。

では、最低賃金の具体的な目標はどのように設定されているのでしょうか。また、使用者にはどういった責務が課せられているのでしょうか。本記事で詳しく解説していきます。

働き方改革が目指す最低賃金の引き上げ

政府の働き方改革実行計画では、最低賃金の継続的な引き上げを目標に掲げています。具体的には、年率3%程度を目安に、全国加重平均を1,000円にすることを目指しています。

この背景として、企業収益は増加傾向にある中で、労働分配率は低迷しているという現状があります。労働分配率とは、会社の利益をどれだけ労働者に分配しているかを示す指標で、いわば人件費のことです。

政府は、企業の増益を労働分配率の向上につなげ、経済の好循環や総雇用者所得の増加を図る狙いがあると考えられます。

ただし、目標設定においては中小企業への配慮も必要とされています。中小企業の賃上げ率は大企業と比べて低く、不用意に高い目標は経営を圧迫するおそれがあるためです。

そこで政府は、中小企業の賃上げをサポートするための様々な仕組みも整備しています。

対象となる労働者

最低賃金は、雇用形態に関係なくすべての労働者に適用されます。よって、正社員・契約社員・パートタイマー・アルバイト・嘱託・臨時などすべての労働者が対象となります。

賃上げと生産性向上の目的

働き方改革では、賃上げと共に生産性向上も目標に掲げています。労働者1人1人の労働生産性を高めることで、人手不足でも業務をしっかりこなすことができるためです。また、業務効率が上がり、残業時間の削減にもつながると考えられます。

これは、少子高齢化が進み労働力不足が懸念される日本では重要なポイントです。厚生労働省は、生産性向上に向けた取組みとして、中小企業の下請け取引条件(支払方法など)の改善・厳格化や、実際に生産性を向上させた企業への助成金といった支援制度を整備しています。

最低賃金制度とは

最低賃金制度とは、国が定めた最低賃金額以上の賃金を支払うよう使用者に義務付ける制度です。正社員・アルバイト・派遣といった雇用形態にかかわらず、すべての労働者に適用されます。

最低賃金はいわば働く人のセーフティネットですので、使用者は必ず把握しておきましょう。

最低賃金制度の目的や詳細は、以下のページでも解説しています。ぜひご覧ください。

企業が遵守すべき「最低賃金制度」について

最低賃金の種類

最低賃金には、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の2種類があります。
地域別最低賃金は、都道府県ごとに設定された最低賃金で、その地域で働くすべての労働者に適用されます。
一方、特定(産業別)最低賃金は、特定の業種に就く労働者にのみ適用される最低賃金です。

ただし、いずれも例外があり、最低賃金が適用されなかったり減額されたりするケースもあります。また、2種類の最低賃金が同時に適用される場合、使用者はいずれか高い方の最低賃金を適用しなければなりません。

2つの最低賃金の詳細や例外については、以下のページをご覧ください。

最低賃金の種類

派遣労働者は派遣先の最低賃金を適用

派遣労働者は、派遣元企業の所在地にかかわらず、派遣先の最低賃金が適用されます。つまり、実際に働く地域のルールに従うということです。また、派遣先の業種によっては特定(産業別)最低賃金が適用されることになります。

よって、給与を支払う派遣元は、労働者ごとの最低賃金をきちんと把握しておくことが重要です。

使用者の責務

最低賃金を引き上げ、労働者の生活を安定させることは、使用者の責務といえます。また、所得が増えれば消費活動が盛んになり、景気アップにもつながります。

企業ができる賃上げ対策としては、まず設備投資や労働者のスキルアップが挙げられます。これによって生産性が向上し、人件費の削減が見込めるためです。また、能力に基づいた人事評価制度を確立することで、労働者が自主的にスキルアップに取り組むようになるでしょう。

その他、節税による経費削減もあります。例えば、退職金を「退職一時金」ではなく「企業年金」として支払うことで、掛金を損益算入でき、課税対象から控除することができます。

最低賃金を下回った際の罰則

最低賃金より低い賃金で働かせることは、最低賃金法違反にあたります。よって、最低賃金を下回る賃金で労働契約を結んでも、法律違反として無効になります。また、無効になった部分は最低賃金と同様の定めをしたものとみなすので、使用者は実際に支払った賃金と最低賃金の差額を支払わなければなりません。
また、地域別最低賃金以上の賃金を支払わない使用者は、50万円以下の罰金が科せられる可能性があります(最低賃金法40条)。

一方、特定(産業別)最低賃金以上の賃金を支払わない場合、労働基準法の「賃金全額払いの原則」に抵触し、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります(労働基準法120条)。

最低賃金の変更に伴う注意点

最低賃金の改定時、使用者は労働者の賃金を確認し、基準を下回っていないか調べる必要があります。また、下回る場合は賃金を見直したり、必要に応じて就業規則や求人情報、給与システムを変更したりと様々な対応が求められます。
そこで、最低賃金が改定された際の注意点をいくつか整理しておきましょう。

事業場ごとの確認

各事業場には、事業場が所在する都道府県の最低賃金が適用されます。そのため、全国に拠点がある企業は、所在地が異なる事業場ごとに最低賃金を下回っていないか確認する必要があります。

ただし、事業場が小規模で独立性を持たない場合、所在地と本拠地(本社がある地域)の最低賃金を比べたうえで、どちらか高額な方を適用しなければなりません。これは、独立性がない事業場は単独で機能せず、本社と同一の事業場とみなされるためです。

この点、人事異動で都道府県をまたぐ際も、異動先の最低賃金を下回らないよう注意が必要です。

時間給に換算して確認

給与形態が日給や月給の場合、時間給に換算したうえで最低賃金と比較する必要があります。

日給の場合、日給÷1日の所定労働時間で時間給を求めることができます。なお、日額が決まっている特定(産業別)最低賃金では、日額そのものと最低賃金を比較します。

月給の場合、月給÷1ヶ月平均所定労働時間で時間給を求めます。ただし、月給に含むのは、毎月支払われる基本給や職務手当のみです。残業手当・休日手当・通勤手当・家族手当・その他臨時的に支給される手当は含みませんので、控除して計算する必要があります。

また、出来高払制の場合、支給額÷出来高払制による総労働時間で時間給を計算します。

固定残業手当の見直し

固定残業手当は時間外手当の一種であり、基本給とは異なるため、最低賃金の計算では除外する必要があります。

ただし、固定残業手当そのものが最低賃金を下回ると、最低賃金法違反にあたるため注意が必要です。
例えば、基本給の最低賃金が1,000円の場合、時間外手当の最低賃金は1,250円となります(割増率1.25倍のため)。ここで、1時間当たりの固定残業手当が1,250円を下回る場合、使用者は手当の見直しが必要となります。

固定残業手当の算出にあたっても、最低賃金の変更が影響を与えることから、使用者としては、常に最低賃金について、頭に入れておく必要があるでしょう。

改定の時期

最低賃金が改定された場合、給与の締め日や支払い日にかかわらず、改定日の給与から適用する必要があります。
例えば、発効日が10月1日の場合、10月1日分の給与から改定後の最低賃金を反映しなければなりません。また、給与の締め日が毎月20日の場合、9月末までは従来の最低賃金が、10月1日以降は改定後の最低賃金が適用されることになります。

もっとも、このような複雑な状況を避けたい場合、当該給与期間すべてに改定後の最低賃金を適用しても構いません。
特に、給与期間中にシフト変更等があった場合は間違いやすいため、十分注意しましょう。

最低賃金の引上げに積極的な企業への支援

最低賃金の引上げに積極的な中小企業・小規模事業者に対し、政府は様々な支援を行っています。

まず、機械設備やコンサルタント導入、教育訓練等の設備投資によって生産性を向上し、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた事業主に対し、業務改善助成金を支給しています。

また、時間外労働の削減や賃金引上げに向けた取組みを行う事業団体は、働き方改革推進支援助成金(団体推進コース)を受給できる可能性があります。

その他、賃金の引上げや賃金規定の改定について個別相談を行う働き方改革推進支援センターも各都道府県に設置しています。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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