育児・介護休業法|概要や法改正のポイントをわかりやすく解説
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
育児・介護休業法は毎年のように改正されており、新たな制度も次々と生まれています。令和4年度には、男性の育休取得を支援するものや、より柔軟な働き方を実現させるための仕組みが追加されました。
事業主はこれらの内容をしっかり把握し、適切に実施することが求められます。
本記事では、育児・介護休業法の概要や改正のポイント、事業主が講じるべき措置などを詳しく解説します。ぜひご覧ください。
育児・介護休業法とは
育児・介護休業法とは、“育児や介護”と“仕事”の両立を図るための法律です。育児や介護の必要に追われている労働者が安心して仕事を続けられるよう、さまざまな制度が設けられています。
この法律が制定された背景には、日本の少子高齢化による労働力不足があります。人手不足が進む中、育児や介護を理由に社員が離れてしまうのを防ぐため、法律によって支援を明確化しました。
育児・介護休業法の制度は、正社員だけでなく、パートやアルバイト、契約社員も利用可能です。また、法律上の定めなので、会社の就業規則に定めがなくても取得することができます。
また、制度を実施すると企業にもさまざまなメリットが期待できます。例えば、女性社員でもキャリアアップを目指しやすいため、モチベーションの向上が期待できます。さらに、企業イメージのアップにもつながるため、優秀な人材を多く確保できる可能性もあります。
育児・介護休業法で定める4つの制度
育児・介護休業法で定められている制度には、以下の4つがあります。
- ①育児休業制度
- ②子の看護休暇制度
- ③介護休業制度
- ④介護休暇制度
以下でそれぞれ詳しくみていきます。
①育児休業制度
育児休業制度は、1歳未満の子供を持つ労働者を支援するための制度です。子供が1歳になる誕生日の前日まで、男女関係なく仕事を休むことができます。
なお、「パパ・ママ育休プラス」という制度により、父母が一緒に育児休業を取得した場合、子供が1歳2ヶ月になるまで休業期間を延長できます。
また2022年には、有期雇用労働者の取得要件が以下のように緩和されました。
・入社後継続して1年以上経っていること → 2022年4月1日より撤廃
・子供が1歳6ヶ月までの間に契約が満了することが明らかでないこと
これにより、雇用されてすぐの契約社員も、育休を取得できるようになりました。(ただし、入社後1年未満の有期雇用労働者については、労使協定の締結によって取得対象者から除外することもできます。)
以下のページでは、育児休業についてさらに詳しく解説しています。
②子の看護休暇制度
子の看護休暇は、小学校就学前の子供が病気やケガをしたとき、その看護をするために休暇を取得できる制度です。自宅での看護だけでなく、通院の付き添いや健康診断、予防接種の目的でも取得が可能です。
取得可能日数は子供の人数により以下のように定められています。
・子供が1人:年5日
・子供2人以上:年10日
なお、2021年の法改正により、子の看護休暇の1時間単位での取得が可能となりました。
これにより、1日の所定労働時間が4時間以下の労働者でも、短時間の看護休暇を取得できるようになりました。
より詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
③介護休業制度
介護休業は、要介護状態の家族を介護するため、一定期間仕事を休める制度です。通算93日までを、最大3回に分けて取得できます。なお、「要介護状態」とは、2週間以上付きっきりの介護が必要な状態を指します。
正社員だけでなく、アルバイトやパートでも取得が可能です。一方、日雇い労働者は対象外となります。
また、有期雇用労働者については、2022年の法改正により取得要件が以下のとおり緩和されました。
・入社後継続して1年以上経っていること → 2022年4月1日より廃止
・取得予定日から起算し、93日を経過する日から6ヶ月を経過する日までに、雇用契約が満了することが明らかでないこと
ただし、以下の社員は、労使協定の締結によって介護休暇の取得対象外にすることもできます。
- 入社後1年未満
- 取得の申し出から93日以内に雇用期間が終了する
- 1週間の所定労働日数が2日以下
介護休業の取得については、以下のページでより詳しく解説しています。
④介護休暇制度
介護休暇は、要介護状態の家族を介護するため、休みを取得できる制度です。自宅での介護だけでなく、通院の付き添いや介護サービスの代行手続き、ケアマネージャーとの打ち合わせなどでも利用できます。
取得可能日数は、対象家族の人数によって以下のように定められています。
・対象家族が1人:年5日
・対象家族が2人以上:年10日
なお、2022年の法改正により、介護休暇の1時間単位での取得が可能となりました。これにより、1日の所定労働時間が4時間以下の労働者も、短時間で休暇を取得できるようになりました。
介護休暇の詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
育児・介護休業法の改正ポイント(令和4年~)
令和4年以降、育児・介護休業法はさまざまな改正が行われました。下表で整理しましょう。
令和4年4月1日施行 |
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令和4年10月1日施行 |
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令和5年4月1日施行 | 育児休業取得状況の公表の義務化 (従業員数が1000人超の企業) |
改正点について、次項から詳しく解説していきます。
育児休業を取得しやすい雇用環境の整備
社員が積極的に育児休業を取得できるよう、事業主は以下のいずれかの措置を講じなければなりません。
- ① 育児休業・産後パパ育休に関する研修
可能な限り全社員(少なくとも管理職を対象)が、研修を受けた状態にすること - ②育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備
形だけでなく、実際に対応が可能な窓口を設置し、社内で周知すること - ③自社の社員の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
さまざまな社員の取得事例を社内に掲示し、社員が閲覧できるようにすること - ④自社の社員への、育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
企業の方針を取り決め、ポスターなどに記載したうえで社内に掲示すること
ただし、どれか1つではなく複数の措置を講じるのが望ましいとされています。
労働者に対する個別の周知・意向確認の措置
本人または配偶者から“妊娠”や“出産”の申し出があった場合、以下4つの事項すべてを個別に周知し、休業取得について意向を確認しなければなりません。
- ①育児休業・産後パパ育休に関する制度の内容
- ②育児休業・産後パパ育休の申出先(人事部や総務部など)
- ③育児休業給付に関する制度の内容
- ④社員が育児休業・産後パパ育休期間に負担すべき社会保険料の取扱い
出産予定日の1ヶ月半以上前に申し出があった場合、出産予定日の1ヶ月前までにこれらを対応する必要があります。また、それ以降や出産後に申し出があった場合も、できるだけ速やかに対応すべきとされています。
また、個別の周知や意思確認の方法は、面談や書面、FAX、メールなどがあります。
有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
2022年の法改正で、有期雇用労働者が育児・介護休業を取得する要件が緩和されました。
①継続して雇用された期間が1年以上 → 2022年4月1日より廃止
②子供が1歳6ヶ月までの間に契約が満了することが明らかでない
これにより、入社後間もない契約社員なども、育児休業や介護休業を取得できるようになりました。
よって就業規則に①の要件が記載されている場合、削除して周知し直す必要があります。
ただし、労使協定の締結があれば、雇用期間が1年未満の社員は引き続き取得対象外にすることも可能です。
産後パパ育休(出生時育児休業)の創設
令和4年(2022年)10月1日より、出生時育児休業(産後パパ育休)が導入されました。
この制度の概要は以下のとおりです。
対象期間/取得可能日数 | 子供の出生後8週間以内/最大4週間 |
---|---|
申出期間 | 休業の2週間前まで (ただし、義務付けられている内容を上回る取り組み実施を労使協定で定めている場合、1ヶ月前まで) |
分割取得 | 分割して2回取得可能 (申し出時にまとめて申請が必要) |
休業中の就業 | 労使協定を締結していれば、社員が同意した範囲内で就業が可能 【就業可能日数の上限】 ・休業期間中の所定労働日・所定労働時間の半分 ・休業開始日または終了日に終了する場合、その日の所定労働時間数未満 |
産後パパ育休は、通常の育児休業と併用することができます。後述するように通常の育児休業も2回までの分割取得が可能ですので、父親は子供が1歳になるまで最大4回まで分割的に育休を取得できることになります。
育児休業の分割取得
令和4年(2022年)10月1日より、通常の育休を分割して取得できるようになりました。産後パパ育休と併せると、子供が1歳になるまでに、最大で4回に分割した育休の取得が可能となっています。
法改正後の育児休業の概要は、以下のとおりです。
取得可能な期間 | 子供が1歳(最長2歳)になるまで |
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申出期間 | 1ヶ月前まで |
分割取得 | 分割して2回取得可能 (取得のタイミングでそれぞれ申請する) |
休業中の就業 | 就業不可 |
1歳以降の延長 | 延長の開始日を柔軟化 |
1歳以降の再取得 | 特別な事情がある場合に限り、再取得可能 |
本改正により、1歳以降に育休を延長する場合、父母で開始日をズラし、交代で育休を取得することも可能となりました。
また、1歳以降に再取得できる“特別な事情”とは、例えば第2子の産休により育休が終了したが、その後第2子が亡くなってしまったケースなどです。
育児休業取得状況の公表の義務化
2023年4月1日より、年1回、育児休業の取得状況を公表することが義務付けられました。詳細は以下のとおりです。
対象企業 | 従業員数が1000人以上の企業 (過去1年以上にわたり雇用契約が反復更新されている、有期雇用労働者や日雇い労働者も含む) |
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公表内容 | 以下のいずれか ・男性の育児休業等の取得率 ・男性の育児休業等と育児目的休暇の取得率 |
取得率の算定期間 | 公表日を含む事業年度の直前の事業年度 |
公表方法 | 一般の方が閲覧できるもの ・自社のホームページ ・厚生労働省のウェブサイト「両立支援のひろば」 |
注意点 |
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ただし、2025年4月以降、公表義務の対象が「従業員が300人以上の企業」に拡大される予定となっているため要注意です。
育児・介護に関する事業主が講ずべき措置
法律で事業主は以下の措置を講じることが義務付けられています。
- 所定外労働・時間外労働・深夜業の制限
- 育児・介護のための短時間勤務等の措置
- 育児・介護休業に関するハラスメントの防止
- 育児・介護における不利益取扱いの禁止
また、法的な行為義務とまではいえないものの、実施することが望ましい措置や努力義務として挙げられている措置として、以下のものが挙げられます。
- 休業取得者の代替要員の確保
- 職業家庭両立推進者の選定(努力義務)
- 再雇用特別措置(努力義務)
それぞれ次項から詳しくみていきます。
所定外労働・時間外労働・深夜業の制限
所定外労働・時間外労働・深夜業について、一定年齢未満の子供を養育する労働者が申し出た場合に、以下のような制限が設けられています。事業主は労働者の申し出を拒むことはできないため、注意が必要です。
満3歳に満たない子供を養育する労働者が申し出たとき | 所定外労働をさせてはならない(所定外労働の制限) |
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小学校入学前の子供を養育する労働者が申し出たとき | ・1ヶ月24時間、1年間150時間を超えて残業させてはならない(時間外労働の制限) ・午後10時から午前5時までの深夜労働をさせてはならない(深夜業の制限) |
上記の制限について、詳しくは以下のページをご参照ください。
育児・介護のための短時間勤務等の措置
子育てや介護をする労働者が、就業しつつそれらを容易に行えるよう、事業主は短時間勤務制度を講じなければなりません(育介法23条)。
対象となる労働者は、次に挙げる者のうち所定労働時間の短縮を希望した者です。
- 3歳に満たない子を養育する労働者
- 要介護状態にある対象家族を介護する労働者
なお、措置を講じている状態とは、就業規則等で制度化されていることをいいます。
労働時間の短縮措置について、詳細は以下のページをご参照ください。
育児・介護休業に関するハラスメントの防止
事業主は、相談窓口の設置その他のマタニティ(パタニティ)ハラスメント防止に必要な措置を講じなければならないと定められています(育介法25条1項)。
具体的には、労働者が育児休業、介護休業、その他の制度や措置を利用することによって、上司や周囲から「非正規社員になれ」と言われたり、同僚から「お前だけが楽をしていて迷惑だ」と言われたりして、働きにくくなることがないようにします。これは性別や雇用形態にかかわらない義務です。
また、労働者が相談をしたことを理由に、解雇や不利益な扱いをすることは禁じられています。
具体的にどんな内容がハラスメントに当たるのか等、詳しくはこちらのページをご参照ください。
育児・介護における不利益取扱いの禁止
育児・介護休業の取得等を理由に、事業主が労働者に対し以下のような不利益扱いをすることは禁止されています。
- 解雇
- 降格
- 減給
- 不利益な異動
- 非正規職員への変更の強要
- いやがらせを行う
これらは、育児・介護休業を取得した男女労働者に対してだけでなく、妊娠・出産した女性労働者に対しても男女雇用機会均等法で禁じられています。
休業取得者の代替要員の確保
社員が育児・介護休業を取得しても業務に支障が出ないよう、事業主は、有期の代替職員を雇う等、ほかの労働者の配置、雇用を管理する必要があります。
なお、有期の代替職員は、休業中の労働者が予定より早く休業を終えても、あらかじめ定められた雇用期間が終了する前に解雇することはできません。
また、育児・介護休業を取得している労働者が職場に復帰したとき、事業主は、原則として元の職またはそれに相当するポジションに復帰させるように配慮しなければいけません。
具体的には、次のような点に注意しましょう。
- 職務上の地位が休業前より下がっていないこと
- 休業前後で職務内容が異なっていないこと
- 勤務する場所が同一であること
職業家庭両立推進者の選任
事業主は、職場において、職業家庭両立支援推薦者を選任するよう努めなければならないと定められています。
この「職業家庭両立支援推薦者」とは、育児・介護休業法21条から27条に定められている措置、子供の養育や家族の介護を行う労働者の仕事と家庭の両立を図るための業務を担当するものとされています(育介法29条)。
具体的には、
②育児・介護休業をしている労働者の職業能力の開発等に関する措置の企画立案、周知
③短時間勤務の企画立案、周知
④転勤をともなう異動をしようとする際の各社員への配慮
⑤育児等離職者の再雇用の企画立案、周知
等です。
再雇用特別措置
妊娠、出産、育児、介護を理由として退職する労働者について、事業主は、希望があれば再雇用をするよう努めなければならないと定められています。
前述の理由で退職した労働者(育児等退職者)が、退職の際、「復帰可能になったら再雇用を希望する」旨を申し出ていた場合には、求人募集をする前に、再雇用の希望があるかを改めて確認しましょう。
また、労働者の募集や採用にあたって、再雇用を希望していた育児等離職者に特別の配慮をしなければなりません(育介法27条)。
これについても、女性だけでなく男性労働者も対象となります。
育児・介護休業法に違反した場合の罰則
育児・介護休業法に違反した企業は、以下の対応を受ける可能性があります。
- 厚生労働大臣から報告を求められる
- 厚生労働大臣から、必要な措置を講じるよう、助言・指導・勧告を受ける
- 厚生労働大臣の勧告に従わなかった場合はその旨が公表される
- 報告をしなかったり、虚偽の報告をした場合、20万円以下の過料が科される
特に、企業名が公表された場合は社会的信用を失墜させ、経営にも大ダメージとなるため、注意が必要です。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある