育児・介護休業法|所定外労働・時間外労働・深夜業の制限について
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
育児・介護休業法では、対象となる労働者について、所定外労働・時間外労働・深夜業の3つが制限されています。子育てや介護で忙しい社員も安心して働けるよう、本人の希望に応じて柔軟に対応することが重要です。
本記事では、育児・介護休業法における3つの制限についてわかりやすく解説していきます。対象者やルールなどを具体的に取り上げますので、ぜひ一度ご確認ください。
目次
育児・介護休業法による就業制限
育児・介護休業法では、以下の3つについて労働時間の制限が設けられています。
【所定外労働】
雇用契約上の勤務時間(定時)を超えて働くこと、いわゆる残業
【時間外労働】
労働基準法における法定労働時間(1日8時間、1週間40時間)を超えて働くこと
【深夜業】
労働基準法における深夜の時間(午後10時から午前5時まで)に働くこと
このほか、3歳未満の子供がいる社員は「短時間勤務制度」の対象となります。短時間勤務制度については、以下のページで詳しく解説しています。
所定外労働の制限とは
3歳未満の子供がいる社員※や要介護状態の家族がいる社員から申し出があった場合、その社員に所定労働時間を超えて勤務させることが禁止されています。
社員の性別や雇用形態は問わないため、男性でも、またパートや契約社員でも申し出ることができます。
なお、所定労働時間の制限については就業規則で定め、社内に周知しておくことが重要です。もっとも、就業規則で定めがなくても、社員から申し出があれば応じなければなりません。
※2025年4月以降、子供の対象期間が小学校就学前までに拡大されることが検討されています。
対象外となる労働者
所定外労働の制限は、以下のように適用対象外となるケースがあります。
【対象外となる労働者】
・日々雇用される者(1日単位の雇用契約で雇われる者)※期間を定めて雇用される者は請求が可能
【労使協定に定めがあれば対象外となる労働者】
・継続して雇用された期間が1年未満の者
・1週間の所定労働日数が2日以下の者
上記の労働者は、所定外労働の制限を請求することができません。
利用回数・期間
所定外労働の制限の請求は、1回につき、1ヶ月以上、1年以内の期間を指定することができます。また、請求回数に上限はありませんので、対象となる労働者ならば何回でもこの請求をすることができます。
制限期間の終了事由
以下に該当する場合、本人の意思にかかわらず、所定外労働の制限は終了します。
【育児を行う労働者】
- ①子を養育しないことになった場合
・子の死亡
・子が養子の場合、離縁や養子縁組の取消し
・子が他人の養子になったこと等による同居の解消
・特別養子縁組の不成立
・制限終了までの間に、労働者が病気やケガで子を養育できなくなった - ②子が3歳に達した場合
- ③所定外労働の制限を受けていたが、産休や育休、介護休暇に入った場合
【介護を行う労働者】
- ①対象家族を介護しないことになった場合
・対象家族の死亡
・離婚や離縁による対象家族との親族関係の消滅
・制限終了までの間に、労働者が病気やケガで対象家族を介護できなくなった - ②所定外労働の制限を受けていたが、産休や育休、介護休暇に入った場合
産前産後休業や育児休業、介護休業について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
時間外労働の制限とは
小学校就学の始期に達するまでの子供を養育する社員※や要介護状態の家族がいる社員から申し出があった場合、会社は1ヶ月につき24時間、1年につき150時間を超える時間外労働をさせることが禁止されます。※子供が6歳に達する日が属する年度の3月31日まで
対象社員の性別は問わないので、男性でも請求が可能です。また、パートやアルバイトの方も対象となります。
なお、就業規則などで定めた時間外労働の上限がこれを下回る場合、就業規則などの規定が優先されます。
時間外労働については以下のページでも解説していますので、あわせてご覧ください。
対象外となる労働者
時間外労働の制限は、以下のとおり適用対象外となるケースがあります。
【対象外となる労働者】
- 日々雇用される者(1日単位の雇用契約で雇われる者)
※期間を定めて雇われる者は請求が可能 - 継続して雇用された期間が1年未満の者
- 1週間の所定労働日数が2日以下の者
上記の労働者は、時間外労働の制限を請求することができません。
利用回数・期間
時間外労働の制限の請求に関しての回数・期間は、所定外労働の制限と同様です。1回の請求につき、1ヶ月以上、1年以内の期間を指定することができ、また、対象となる労働者ならばその請求回数に上限はありません。
ただし、所定外労働の制限の請求と、時間外労働の制限の請求は、その期間が重複しないようにしなければなりません。
制限期間の終了事由
以下に該当する場合、本人の意思にかかわらず、時間外労働の制限は終了します。
【育児を行う労働者】
- ①子を養育しないこととなった(具体例は、“所定外労働の制限の終了”と同じ)
- ②子が小学校就学の始期に達した
- ③時間外労働の制限を受けていたが、産休や育休、産後パパ育休、介護休業に入った
【介護を行う労働者】
- ①対象家族を介護しないことになった(具体例は、“所定外労働の制限の終了”と同じ)
- ②時間外労働の制限を受けていたが、産休や育休、産後パパ育休、介護休業に入った
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深夜業の制限とは
小学校就学の始期に達するまでの子供がいる社員※や要介護状態の家族がいる社員から申し出があった場合、その社員を深夜の時間帯(午後10時~午前5時)に勤務させることは禁止されます。
社員の性別や雇用形態は問わないので、男性でも、またパートや契約社員でも請求できます。また、残業が深夜にかかるケースでも請求が可能です。
これらの点は、就業規則に明記して社内に周知しておきましょう。
なお、深夜労働の割増賃金などについては、以下のページで解説しています。
対象外となる労働者
深夜業の制限は、以下のとおり適用対象外となるケースもあります。
【対象外となる労働者】
- 日々雇用される者(1日単位の雇用契約で雇われる者)
※期間を定めて契約される者は請求が可能 - 継続して雇用された期間が1年未満の者
- 1週間の所定労働日数が2日以下の者
- 所定労働時間の全部が深夜帯である者
- 深夜に子供を常態として保育できる同居の家族がいる者
「子供を常態として保育できる者」とは、16歳以上で、以下の要件をすべて満たす者を指します。
- 深夜に就業していないこと、または深夜の就業日数が1ヶ月につき3日以下であること
- 病気やケガで子供の保育が困難な状態でないこと
- 産前6週間(多胎妊娠なら14週間)、産後8週間以内でないこと
利用回数・期間
深夜業の制限に関しては、1回の請求につき、1ヶ月以上、6ヶ月以内の期間を指定することができます。また、請求回数に上限はありませんので、対象となる労働者ならば何度でもこの請求をすることができます。
制限期間の終了事由
以下の場合、本人の意思にかかわらず、深夜業の制限は終了します。
【育児を行う労働者】
- ①子を養育しないこととなった(具体例は、“所定外労働の制限の終了”や“時間外労働の制限の終了”と同じ)
- ②子が小学校就学の始期に達した
- ③深夜業の制限を受けていたが、産休や育休、産後パパ育休、介護休業に入った
【介護を行う労働者】
- ①対象家族を介護しないこととなった(具体例は、“所定外労働の制限の終了”や“時間外労働の制限の終了”と同じ)
- ②深夜業の制限を受けていたが、産後パパ育休、産後パパ育休、介護休業に入った
労働者から請求された際の手続き
請求方法は、書面に必要事項を記入し、提出してもらうのが基本です。そのほか、ファックスやメール、SNSのメッセージなどに添付して送ってもらうことも可能です。
記入してもらうのは、対象家族の名前や続柄、制限の開始日と終了日などです。特に制限の期間には定めがあるため、以下が守られているか確認しましょう。
- 所定外労働の制限、時間外労働の制限 → 1ヶ月以上1年以内
- 深夜業の制限 → 1ヶ月以上6ヶ月以内
また、いずれも開始日の1ヶ月前までに請求が必要なため、開始日が直近になっていないかも確認しましょう。
なお、申請書類と一緒に、家族が要介護状態だと証明する書類の提出を求めても問題ありません。
事業の正常な運営を妨げる場合
所定外労働の制限などによって「事業の正常な運営が妨げられる」場合、会社は社員からの請求を拒否することができます。
これに該当するかは、社員の業務内容や仕事の繁閑、代替要員確保の可否などを考慮し、客観的に判断すべきとされています。例えば以下のようなケースでは、拒否が認められる可能性があります。
- 代替要員を探したが見つからず、最低限必要な人員がいない
- 繁忙期に、専門性の高い職種の社員複数人から請求があった
一方、ただ人手が足りないからという理由では、拒否は認められないでしょう。
正当な理由なく社員の請求を拒否した場合、労働局から勧告を受ける可能性があります。また、勧告に従わず拒否し続けたり、虚偽の報告をしたりした場合、社名の公表や過料などさまざまな制裁を受けることになります。
不利益取扱いの禁止について
事業主は、育児・介護休業法で義務づけられた休業、休暇、所定外労働・時間外労働・深夜業の制限、所定時間労働の短縮等を労働者が申し出たこと、またはそれらの措置を労働者が利用したことを理由に、当該労働者に対して不利益な取扱いをすることは禁じられています。
具体的には、解雇、降格、減給、不利益な配置変更、人事評価を下げること等です。
不利益取扱いに関しては、以下のページで詳細に解説していますのでご参照ください。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある