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二重派遣とは|該当するケースや罰則、予防策などを解説

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

派遣労働者を受け入れる企業は、「二重派遣」を行わないよう注意が必要です。二重派遣は、労働者の賃金や労働環境に不利益をもたらすおそれがあるため、法律によって禁止されています。
しかし、派遣先が無意識のうちに二重派遣を行っているケースも存在します。

本記事では、どのようなケースが二重派遣にあたるのか、どんな予防策を講じればよいのかなどについて詳しく解説していきます。
派遣労働者を受け入れる前に、ぜひご確認ください。

二重派遣とは

二重派遣の概要としくみ

二重派遣とは、人材派遣会社から派遣されてきた労働者を、派遣先がまた別の企業に派遣することをいいます。上図の場合、B社がA社から派遣労働者を受け入れたのち、別のC社にその労働者を派遣している点が、二重派遣にあたります。

二重派遣は、労働者の賃金や業務内容、指揮命令権などさまざまな面で不利益を生じさせ得るものであり、以下の2つに違反すると考えられています。

  • 職業安定法44条(労働者供給事業の禁止)
  • 労働基準法6条(中間搾取の排除)

それぞれの条文の内容や罰則などは、後ほど解説します。

「そもそも派遣労働とは?」「派遣労働の仕組みから知りたい」という方は、以下のページをご覧ください。

派遣労働

業務委託との違い

業務委託とは、一定の業務を他の企業や個人に委託することをいいます。業務委託は、基本的には、以下の2つの形態に分けられます。

  • 請負契約(民法632条)
    委託先が業務の完遂を約束し、その“完成された成果物”に対して依頼主が報酬を支払うもの(例:プログラムの開発、建物の建築)
  • 委任契約または準委任契約(民法643条、656条)
    委託先が業務を行い、その“委託された事務の遂行”に対して依頼主が報酬を支払うもの(例:弁護士による法律業務の代行)

業務委託において、基本的に依頼主に指揮命令権はなく、どのように進めるかは委託先が決定できると考えられています。
また、業務委託については、基本的には業務を外部に依頼するもので、労働者の派遣や雇用は問題にならない場合が多いため、違法と判断される可能性は低いと考えられます。

二重派遣が起こりやすい業種

IT系や製造業では、特に二重派遣が起こりやすいとされています。

IT系の企業は、他社のシステム開発などを請け負っていることが多く、このような場合に、派遣元から自社へ派遣されてきたエンジニアを依頼主の企業に常駐させるケースが多いです。これ自体は「請負契約」における請負人の義務履行方法の一つであり問題はないと考えられますが、常駐先の企業の指揮命令下で業務を行うと「二重派遣」と判断される可能性が高いです。

製造業では、受注量が少ない日は人手が余るため、派遣スタッフを他社に送るというケースがみられます。この場合に、派遣した労働者が他社の指揮命令下で業務を行う場合には、「二重派遣」にあたると判断される可能性が高いです。

ポイントは、派遣元から派遣されてきた派遣労働者が、派遣先以外の使用者の指揮命令によって働くことは「二重派遣」と判断される可能性が高いということです。

二重派遣に該当するケース

派遣の派遣

派遣の派遣とは、派遣会社から派遣されてきた労働者を、また別の企業に派遣することをいいます。二重派遣の典型例ともいえます。具体的には、取引先に二重派遣するケースや、人手不足を理由に子会社や関連会社へ二重派遣するケースなどが考えられます。
派遣元から派遣されてきた労働者を派遣先以外の指揮命令下で働かせることは、二重派遣にあたる可能性が高いため注意しましょう。

この点、「自社の社員を同行させ、同行した社員が派遣労働者に対して指揮命令を行えばよいのでは?」と思うかもしれませんが、派遣労働者の労働条件にもかかわるため、事前に派遣会社と派遣労働者との間で相談し、合意しておく必要があります。

偽装請負

偽装請負とは、形式的には「請負契約」だが、実態は「労働者派遣」となっているものをいいます。
例えば、人材派遣会社A社からB社に労働者が派遣されたとします。また、B社はC社の業務を請け負っており、仕事を受注しているとします。

このとき、C社から受注した仕事を、B社の指揮命令下で派遣労働者に行わせることは、「請負契約」における請負人の義務履行方法の一つとして問題はないと考えられます。

しかし、派遣労働者に対し、C社が直接仕事の指示をすることは「偽装請負」であり、違法となります。また、C社が、B社を介して労働者へ細かい業務指示を出すというケースも、偽装請負にあたる可能性が高いです。

請負人と発注者どちらが労働者に対して指揮命令をするか、という点が、違法性判断のポイントと考えられます。

派遣労働者の出向

出向(在籍)とは、自社との雇用契約を残したまま、労働者を関連会社などの業務に従事させることです。勤務先や労働時間などは、出向先のルールに従うことになります。また、指揮命令権も出向先に移ります。

そもそも派遣先と派遣労働者には雇用契約がないため、派遣先が出向を命じることはできません。それにもかかわらず、労働者を他社に出向かせることは労働者供給にあたり、違法と判断されます(職業安定法44条)。

二重派遣が禁止される理由

派遣労働者が不利益を被る

二重派遣によって、労働者の給与が下がるおそれがあります。

通常、派遣元は派遣先から“派遣料金”を受け取り、その中から労働者の給与を支払います。
しかし、二重派遣では、「二重派遣先→派遣先→派遣元」というお金の流れができ、派遣先(二重派遣を行った企業)が“仲介手数料”を得ることになります。これは、派遣元に支払われるべき派遣料金の一部を派遣先が搾取することになるため、労働者の給与減額につながります。

 

また、二重派遣先が労働者に指揮命令を行うため、労働条件などが本来の雇用契約と変わってしまう可能性があります。「二重派遣先の労働条件に従わないと受入れを継続しない」などと脅され、労働者が不利益を負うリスクもあります。

責任の所在が曖昧になる

業務上発生した問題について、派遣先と二重派遣先どちらが責任を負うのか争いになることがあります。問題となることが多いのは、二重派遣先で労働災害が起こり、労働者が怪我をしたケースです。

労災保険の申請では、「安全措置は十分だったか」「業務指示は適切だったか」など事故状況を調査することになりますが、派遣先と二重派遣先で責任の押し付け合いが起こり、正確な調査ができないおそれがあります。

また、派遣先が実質2つあるので、事故状況の調査に時間がかかる可能性が高いと考えられます。

二重派遣の罰則

二重派遣は違法行為ですので、さまざまな罰則が設けられています。

また、二重派遣を行った事業者(派遣先)は行政処分の対象となり、事業許可の取消し・業務停止命令・業務廃止命令などを受ける可能性もあるため注意が必要です。

職業安定法第44条の違反

二重派遣は、職業安定法44条で禁止する「労働者供給事業」にあたり、処罰の対象になります。
労働者供給事業とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令下で働かせ、利益を得ることをいいます(職業安定法4条8項参照)。

この点、派遣先と派遣労働者には雇用関係がなく、あるのは指揮命令関係のみです。そのため、派遣先が当該労働者を別の企業に派遣することは、職業安定法44条で禁止する「労働者供給事業」にあたると考えられます。

職業安定法44条に違反すると、派遣先と二重派遣先両方に対し、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます(職業安定法64条10号)。
ただし、二重派遣だと知らずに労働者を受け入れていた場合、二重派遣先には罰則が適用されない可能性があります。

労働基準法第6条の違反

二重派遣は、労働基準法6条で禁止する「中間搾取」にあたる場合があります。中間搾取とは、労働者と企業の間を取り持ち、仲介手数料を得ることをいいます。いわゆる“ピンハネ”です。

本来、派遣料金はすべて派遣元に支払われ、派遣元はそこから労働者の給与を支払います。しかし、派遣先が派遣料金から仲介手数料を抜き取ることで、労働者の給与が下がってしまう可能性があるのです。

労働基準法6条に違反した場合、派遣先に1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます(同法118条1項)。なお、二重派遣先への罰則はありません。

二重派遣に該当しないケース

労働者に対する指揮命令権が派遣先にある場合、二重派遣には該当しません。

例えば、派遣元A社から労働者を受け入れた派遣先B社が、下請負人であるC社に労働者を再派遣したとします。このとき、労働者がC社に常駐していても、B社の指揮命令下で労働者が業務に従事していれば、二重派遣にはあたりません。

つまり、「誰が指揮命令権を持っているか」が、二重派遣の判断基準となります。

具体的には、IT企業が、自らが指揮命令を及ぼすシステムエンジニアを請負契約先に常駐させるケースなどが考えられます。

二重派遣を回避するための予防策

二重派遣を防ぐには、派遣先がチェックを怠らないことが重要です。

労働者派遣の定義上、労働者と雇用関係があるのは派遣元ですが、実際に働くのは派遣先になります。そのため、労働者の就労環境に常に配慮する必要があるでしょう。

また、二重派遣が行われると、労働者からハローワークなどの相談窓口に通報され、行政処分や罰則を受けるおそれがあるため注意が必要です。

二重派遣の予防策を以下で具体的にご紹介します。

指揮命令系統の確認

二重派遣にあたるかは、「誰が派遣労働者に対して指揮命令をするのか」で判断されます。指揮命令権については「労働者派遣契約書」に記載されているので、それに従いましょう。契約書の内容と実際に指揮命令を行っている人物が異なる場合、二重派遣が疑われやすくなります。

また、うっかり二重派遣をしてしまうことがないよう、二重派遣の知識を社内に周知することも重要です。例えば、他社の業務を請け負う際、指揮命令はこちらが行うよう指導しておく必要があります。

定期的な勤務実態の確認

二重派遣になっていないか、定期的に確認しましょう。
具体的には、まず派遣労働者の雇用主(派遣元)の企業名を確認します。その雇用主と、自社が派遣契約を結んでいる企業名と異なる場合、二重派遣が行われている可能性があります。

また、請負契約であるにもかかわらず、発注先に指揮命令権があるような場合は、偽装請負となってしまっているおそれがあります。契約書に記載された労働条件と、勤務の実態が同じかどうかもチェックしましょう。相違があると、二重派遣が疑われやすくなります。

派遣労働者への聞き取り調査の実施

勤務の実態を把握するには、労働者に直接ヒアリングすると安心です。指揮命令系統などの実態は、周りから観察するだけでは把握しきれないからです。

ヒアリングすべき事項としては、「派遣元とどんな雇用契約を結んでいるか」「誰の指揮命令で働くと聞いているか」「契約した内容と実態に相違がないか」などが挙げられます。

これらのヒアリングは、二重派遣を防ぐだけでなく、職場の隠れた問題を発見するためにも有効です。
なお、質問に回答したことで労働者に不利益が生じないよう、十分な配慮も必要です。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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