女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画とは|策定方法や流れ
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
女性活躍推進法では、一般事業主行動計画の策定を義務付けています。
この計画は、女性の活躍に関する自社の状況を把握して、それを改善するための具体策を検討・実施するためのものです。
女性の活躍を推し進めることにより、会社が社会的に高い評価を受けるだけでなく、社内の労働者の満足度を高めることもできるでしょう。
本記事では、女性活躍推進法における一般事業主行動計画に焦点をあて、策定の流れ等を詳しく解説します。
目次
女性活躍推進法に基づく「一般事業主行動計画」とは
一般事業主行動計画とは、女性の職場における活躍を推進するための取組みについて定めた計画です。
女性活躍推進法では、一定規模の事業主に対して一般事業主行動計画の策定を義務付けており、2022年には対象事業主が拡大されています。
計画を策定するときには、厚生労働省が定める適切な流れを踏む必要があります。まずは自社の女性の活躍に関する状況の把握と課題分析を行い、目標を設定します。その後、目標を達成するために、どのような取組みをしていくのか、内容や計画期間を具体的に定めていかなければなりません。
一般事業主行動計画の策定が義務付けられる事業主については、次項で解説します。
なお、女性活躍推進法について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
一般事業主行動計画の策定が義務付けられる事業主
女性活躍推進法の改正により、2022年4月1日からは一般事業主行動計画の策定が義務付けられる対象事業主が拡大されました。
改正前は、常時雇用する労働者が301人以上で義務付けられていましたが、常時雇用する労働者が101人以上300人以下である事業主についても義務化されています。
また、常時雇用する労働者が301人以上の事業主については、改正前よりも義務の内容が重くなっています。
常時雇用する労働者とは、正社員だけに限定されません。契約社員やパート等であっても、期間の定めなく雇用されている者や、1年以上の雇用期間が見込まれる者については労働者数に加えます。
労働者数により義務付けられる事項については、表をご確認ください。
常時雇用する労働者 | 義務付けられる事項 |
---|---|
301人以上 |
|
101人以上300人以下 |
|
一般事業主行動計画への取り組みの流れ
一般事業主行動計画の流れは、主に次のようになっています。
- 状況把握・課題分析
- ⼀般事業主⾏動計画の策定
- 一般事業主⾏動計画の社内周知・公表
- ⼀般事業主⾏動計画の届出
- 取組みの実施・効果の測定
この流れについて、次項より解説します。
①状況把握・課題分析
行動計画の策定は、自社の女性の活躍に関して、なるべく直近の事業年度の状況を把握して、課題分析を踏まえて行う必要があります。
対象となる項目が定められていますので、それに沿って対応します。
具体的には、必ず把握すべき「基礎項目」と、必要に応じて把握する「選択項目」に分けられています。
それぞれの項目について、以下で解説していきます。
基礎項目
基礎項目とは、事業主が必ず状況把握と課題分析を行わなければならない項目です。
基礎項目を把握して分析することにより、女性の活躍推進において多くの企業が抱える問題の改善を図ることを目的としています。
具体的なチェック項目は、以下の4つが定められています(女性活躍推進法8条3項)。
●採用した労働者に占める女性労働者の割合
直近の事業年度における女性の採用者数÷直近の事業年度における採用者数×100(%)
男性に偏った採用を行っていないかを確認します。
●管理職に占める女性労働者の割合
⼥性の管理職数÷管理職数×100(%)
女性が管理職に昇進できているかを確認します。
●男女の平均継続年数の差異
女性の平均勤続年数÷男性の平均勤続年数
女性が出産等により退職していないかを確認します。
●労働時間の状況
「各月の対象労働者の(法定時間外労働+法定休日労働)の総時間数の合計」÷「対象労働者数」
女性の活躍を妨げる要因の1つである長時間労働が行われていないかを確認します。
選択項目
選択項目とは、基礎項目に加え、必要に応じて把握することが望ましい項目をいいます。
基礎項目をより具体化した内容となっているため、基礎項目で課題だと判断された事項を選択するようにしましょう。
また、以下の2つの観点から、どれだけ女性の活躍推進が図られているかをチェックします(女性活躍推進法省令2条)。
- 女性労働者に対する機会の提供
- 職業生活と家庭生活の両立に資する雇用環境の整備
②⼀般事業主⾏動計画の策定
状況把握と課題分析の結果を踏まえ、行動計画を策定します。行動計画には、次の事項を盛り込まなければなりません(女性活躍推進法8条2項)。
- 計画期間
- 数値目標
- 取組内容及び実施時期
また、状況把握と課題分析によって複数の課題が見つかった場合、最も重大な課題を行動計画の対象にしつつ、積極的に複数の課題に対処することが効果的とされています。
なお、事業主は対象期間を2~5年ほどに区切り、定期的に行動計画の進捗を検証しながら改定することが望ましいとされています。
数値目標の設定については、次項でご説明します。
数値目標の設定
数値目標は、定められた項目のうち、会社の実情に沿ったものを選び設定します。
具体的には、「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」、「職業生活と家庭生活の両立に資する雇用環境の整備」の2つの区分から項目を選択し、実数・割合・倍数等の数値を用いて定める必要があります。
このとき、状況把握や課題分析によって最も重大と判明した項目を優先しましょう。また、数値目標の水準については、会社の実情において達成できる水準にしましょう。
なお、数値目標の設定が必要な項目数は、会社の規模によって異なります。
常時雇用する労働者 | 必要な項目数 |
---|---|
301人以上 | 各区分から1つ以上の項目を選択し、数値目標を設定 |
101人以上300人未満 | 合計1つ以上の項目を選択し、数値目標を設定 |
行動計画の策定例
一般事業主行動計画の策定例として、以下のようなものが挙げられます。
達成しようとする目標の内容:女性労働者の割合を30%以上にする
定めた目標の取り組みの内容:女子学生を対象とした会社説明会の実施、出産や育児等のために退職した女性を対象とする再雇用制度の導入、フレックスタイム制やテレワークの導入による柔軟な働き方の実現
③一般事業主⾏動計画の社内周知・公表
一般事業主行動計画を策定したら、労働者に周知しましょう。そのときには、非正規社員も含めたすべての労働者に知らせる必要があります。
周知方法に定めはありませんが、労働者全員が漏れなく把握できるよう配慮します。例えば、次のような方法が一般的です。
- 事業所の見やすい場所への掲示
- 電子メールでの一斉送信
- 社内ネットワークや社内報への掲載
- 書面の配布
- 事業所への備え付け
事業所への備え付けによって周知を行う場合には、労働者が容易に手に取れるように、休憩室や共用の棚等に備え付けると良いでしょう。
また、事業主は、策定した一般事業主行動計画を外部に公表しなければなりません(女性活躍推進法8条5項)。
公表方法は、自社のホームページに掲載するか、厚労省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」に掲載するのが一般的です。
各企業が策定した行動計画や、各社の女性の活躍に関する状況について確認されたい方は、以下のサイトをご覧ください。
④⼀般事業主⾏動計画の届出
策定した一般事業主行動計画は、会社を管轄する都道府県労働局に届け出ることが義務付けられています(女性活躍推進法8条1項)。
届出には、厚生労働省のサイトからダウンロードできる所定の書式を用いるのが基本です。しかし、女性活躍推進法省令1条に定められた事項(会社の基本情報・行動計画の計画期間・状況分析や取組内容の概況・周知や情報公表の方法等)が記載されていれば、他の書式でも受理されるとしています。
届出の方法としては、労働局への持参や郵送、電子申請が可能です。
一般事業主行動計画の書式の記入例が、以下のサイトに掲載されていますので参考にしてください。
⑤取組みの実施・効果の測定
行動計画は、策定して終わりでは意味がありません。定期的に数値目標の達成度合や取組内容の実施状況を点検・評価し、必要に応じて行動計画を見直すことが重要です。
このように、改善・実行・評価・改善というPDCAサイクルを定着化させ、より有意義な行動計画へブラッシュアップしていきましょう。
一般事業主行動計画策定支援ツールの活用
行動計画策定支援ツールとは、一般事業主が行動計画を策定するときに助けとなるものです。
女性の活躍に関する自社の状況の把握と課題分析のやり方等を記載した「策定支援マニュアル」と、現状把握や課題分析等を支援する「入力支援ツール」があります。
一般事業主行動計画策定支援ツールは以下のサイトで公開されていますのでご利用ください。
次世代育成法における一般事業主行動計画との違い
次世代育成法の一般事業主行動計画とは、労働者の子供の世代が健やかに育つようにすることを目的として作成する計画です。
女性活躍推進法の一般事業主行動計画とは、表のような違いがあります。
女性活躍推進法 | 次世代育成法 | |
---|---|---|
①⼥性の活躍に関する状況把握、課題分析 | 101人以上で義務 | 推奨 |
②①を踏まえた一般事業主行動計画の策定、社内周知、公表 | 101人以上で義務 | 101人以上で義務 |
③都道府県労働局へ行動計画策定届 | 101人以上で義務 | 101人以上で義務 |
④女性の活躍に関する毎年の情報公開 | 101人以上で義務 | なし |
⼀般事業主⾏動計画策定における留意点
行動計画の策定にあたっては、男女雇用機会均等法に違反しないよう注意が必要です。
男女雇用機会均等法では、募集・採用・配置・昇進等において、女性労働者を男性労働者よりも優先的に取り扱う措置を基本的に禁止しています(ただし、女性の割合が4割未満の雇用管理区分等では例外的に優遇措置が認められます)。
そのため、女性労働者を過度に優遇する行動計画とならないよう十分配慮しましょう。
法違反となるケースと、法違反とならないケースを以下で挙げます。
【法違反となるケース】
- 女性労働者だけを対象とした昇進試験を実施する
- 女性労働者の評価基準を緩くして、優先的に昇進させる
【法違反とならないケース】
- 「管理職に占める女性労働者の割合を〇%に増やす」という目標を掲げる
- 男性労働者だけが昇進しやすい評価制度になっていないかを検証する
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある