労働者性の判断基準

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
「労働者」には、労働基準法上の様々な保護が適用されます。例えば、時間外労働の上限規制や残業手当の支給、有給休暇の取得義務などが代表的です。
ただし、「労働者性」については一定の基準が設けられており、基準を満たさない者は法律上の保護を受けることができません。使用者は従業員の権利保護や労働トラブル回避のため、法律上の「労働者性」についてしっかり理解しておくことが重要です。
本記事では、従業員の労働者性の判断基準、経営に携わる者の労働者性、実際の裁判例などをわかりやすく解説していきます。
目次
労働基準法における労働者性の判断基準
労働基準法9条では、「労働者」について、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています。そのうえで、実際に労働者に該当するかどうかは以下の2点を基準に判断されています。
- 労働が他人の指揮監督下において行われているか
- 報酬が「指揮監督下における労働」の対価として支払われているか
これらの基準は、総称して「使用従属性」と呼ばれています。使用従属性が認められる場合、委任契約や請負契約など契約の名称にかかわらず、基本的に労働基準法上の保護が適用されることになります。
なお、近年は働き方の多様化を受け、労働者性の判断基準を見直す動きが本格化しています。2025年5月には研究会が設置され、プラットフォームワーカーなどの個人事業主についても広く労働者性を認めるか否かといった点等について検討がされています。
「使用従属性」に関する判断基準
労働基準法における「労働者」に該当するためには、以下の2つの要素を満たし、「使用従属性」が認められることが必要です。
- 「指揮監督下の労働」
- 「報酬の労務対償性」
現状、それぞれの具体的な要素は、労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日)で定義されたものが用いられています。
「指揮監督下の労働」
使用従属性における考慮要素として、「指揮監督下での労働の有無」が挙げられます。これは、指揮監督下において労働が行われているかどうか、すなわち実態的に他人に従属して労務を提供しているかどうかを判断基準として定めています。その判断基準は、以下の4つに分類できます。
(1)仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
使用者からの具体的な仕事依頼、業務従事の指示等に諾否の自由があれば、使用者と従業員が対等な関係となるため、指揮監督関係が否定される要素となります。
一方、諾否の自由がない(従業員に拒否権がない)場合は、指揮監督関係を推認させる重要な要素となります。
(2)業務遂行上の指揮監督の有無
業務の内容や遂行方法について、使用者から指揮命令を受けている場合、指揮監督関係を認める要素となります。
また、命令や依頼等によって通常の業務以外の業務を行うことは、使用者の指揮監督を受けているとの判断を補強する要素となり得ます。
一方、労務の範囲が広範囲であること、労務の性質上専門性が高いことなどは、指揮監督を受けていることを否定する要素になります。
(3)場所的時間的拘束性の有無
使用者が勤務場所、勤務時間の指定や管理をしている場合、指揮監督関係を認める基本的要素となります。
ただし、講師業や建設業など、業務の性質上、必然的に勤務場所や勤務時間が指定されるケースもあります。その場合、場所的時間的拘束性があることのみをもって「指揮監督関係」が認められるわけではないため注意が必要です。
(4)代替性の有無(指揮監督関係の判断を補強する要素)
他の従業員が代わって労務を提供すること、本人の意思で補助者を使うことが認められているなど、労務提供の代替性が認可されている場合は、指揮監督関係を否定する要素になります。
「報酬の労務対償性」
報酬が、使用者の指揮監督下で一定時間労務を提供したことに対する対価として支払われている場合、「使用従属性」を補強する要素になり得ます。
一方、報酬が仕事の成果(完成物など)に応じて支払われる場合は、労務対償性がないと判断される傾向があります。
例えば、以下のようなケースでは使用従属性が認められやすいでしょう。
- ①労働の成果によって報酬に大きな差が出ない(=成果主義ではない)
- ②欠勤した場合はそれ相応の報酬が控除される(欠勤控除される)
- ③残業した場合は、通常の報酬とは別に手当が支給される
「労働者性」の判断を補強する要素
「労働者性」について争いがあるケースでは、「使用従属性」の判断が難しい場合もあります。その場合、以下の3つの要素も勘案して総合的に判断することになります。
- 事業者性の有無
- 専属性の程度
- その他
事業者性の有無
(1)機械・器具の負担関係
従業員は生産手段を持たないことが通例ですが、自己所有のトラックを利用する傭車(ようしゃ)運転手などは、自己所有の機械・器具を利用して労務を提供する場合があります。
自己所有する機械・器具が高価であれば、自らの計算と危険負担に基づいて事業経営を行う「事業者」としての性格が強くなり、「労働者性」を弱める結果になり得ます。
(2)報酬の額
報酬額が、業務内容が同じ正規従業員に比べて著しく高額だった場合、自らの計算と危険負担に基づいて事業経営を行う「事業者」に対する代金と認められやすく、「労働者性」を弱める結果になり得ます。
専属性の程度
「専属性の程度」とは、特定の発注者等への専属性の高さを指します。
例えば、以下のようなケースは事実上1つの業者に専属して仕事を行うことが想定されます。また、経済的にも当該業者に従属していると考えられるため、労働者性を補強する要素となり得ます。
- 他社の業務を行うことが制度上制約されている
- 時間的余裕がなく、事実上他社の業務を行うことが難しい
- 報酬に固定給部分があるなど、報酬の生活保障としての要素が強い
その他
その他、「労働者性」を肯定する補強事由としては以下のものがあります。
- 採用、委託などの選考過程が正規従業員の採用の場合とほぼ同様である
- 労働保険の適用対象としている
- 服務規律を適用している
- 退職金制度、福利厚生を適用している 等
企業の経営に携わる者の労働者性
企業経営に携わる者としては、会社の“取締役”や“執行役員”等が挙げられます。
取締役や執行役員は、会社の業務執行に関する意思決定を行う、または自ら業務執行を行う立場にあることから、従業員を指揮監督する立場にあり、労働者には該当しないのが基本です。
ただし、従業員“兼”取締役のように、実際は一般社員と同じように業務を行っている者もいます。また、執行役員という肩書でも、実態的には業務の執行をほとんど行わないケースもあるでしょう。
企業経営に携わる者の「労働者性」については、名称だけでなくという実態(役割や業務内容など)も踏まえて個別的に判断する必要があります。
取締役の労働者性
取締役の労働者性については、以下のような要素をもとに判断するのが一般的です。
- 取締役に就任した経緯
選任手続きや就任登記が適切に行われていない場合、労働者性が認められやすくなります。 - 業務執行権限の有無
取締役会に出席しない、企業経営について発言権がない等の場合、労働者性を強める要因となります。 - 業務内容
経営に携わるだけでなく、一般社員と同様の業務も担っている場合、労働者性が認められやすくなります。 - 報酬の性質
一般社員と報酬が同等の場合や、欠勤控除や残業代が発生する場合、労働者性が認められやすくなります。
一方、報酬が著しく高額な場合や、報酬が実際の勤務時間に影響されない等の場合、労働者性は弱まります。
執行役員の労働者性
執行役員の労働者性についても、責任や業務内容を踏まえ、ケースごとに判断されます。具体的には、以下のような場合は労働者性が認められやすいといえます。
- 企業と雇用契約を締結している
- 上層部の指揮命令下で業務を遂行している
- 勤務時間や勤務場所が拘束されている
- 報酬体系が一般社員と同様である
- 部長“兼”執行役員のように、従業員としての地位を保っている
一方、取締役を兼任している場合や、業務執行のみに従事している場合などは、労働者性が否定される可能性が高くなります。
労働者性の判断基準に関する判例
個人請負型就業者の労働者性
個人請負型就業者とは、企業と雇用関係を結ばず、個人事業主として業務を請け負う者をいいます。例えば、フリーのライターやデザイナー、フランチャイズ店舗の店長、近年増加しているフードデリバリーの配達員などが該当します。
個人請負型就業者に関する裁判例としては、特定の企業・業務に専従的に従事する「傭車運転手」について、以下の理由から「労働者にはあたらない(労働者性は認められない)」と判断したものがあります〈平成7(行ツ)65 最高裁 平成8年11月28日 第一小法廷判決、横浜南労基署(旭紙業)事件〉。
- 自己所有するトラックを使用し、ガソリン代などの金銭を負担していたこと
- 業務遂行にあたり必要以上の指示命令を受けていなかったこと
- 場所的・時間的拘束が緩やかであったこと
- 報酬が出来高制であること
- 報酬を事業所得扱いにしていたこと
- 所得税の源泉徴収や社会保険料等の控除がなかったこと
ただし、近年は働き方の多様化もあり、個人請負型就業者が労働者として認められるケースもみられるため注意が必要です。
研修医の労働者性
研修医には教育的側面もありますが、医療機関での労務提供を前提としているため、一般的には労働者性が認められると考えられています。
実際の裁判例でも、最低賃金を大きく下回る報酬のみ支払われていた研修医について、以下の理由から労働者性が認められたものがあります〈平成14(受)1250 最高裁 平成17年6月3日 第二小法廷判決、関西医科大学研修医事件〉。
- 研修医が医療行為などに従事することは、“病院のための労務遂行”にあたること
- 指導医の指揮命令下で医療行為などを行っていたこと
- 場所的・時間的拘束が強かったこと
これにより、当該研修医は労働基準法9条における「労働者」に該当し、最低賃金法が適用されると判断されました。また、病院側には研修医に支払った報酬と最低賃金との差額の支払いが命じられています。
労働者ではない者の使用従属性
企業と直接的な雇用関係がない者や、労働者性が薄い者についても、実質的な使用従属性が認められる場合は「労働契約法」の適用を受ける可能性があります。
例えば、元請業者から依頼を受けて作業を行っていた一人親方について、以下の理由から元請側の安全配慮義務が認められた裁判例があります。
本件では、一人親方が作業中に高所から転落し、頚椎骨折などの怪我を負ったことから、元請側の安全配慮義務違反が認められるかが争点となりました〈平成20(ネ)39号 大阪高等裁判所 平成20年7月30日判決、H工務店事件〉。
- 元請業者が現場を管理し、材料を用意したうえで、一人親方を呼んでいたこと
- 一人親方が日当2万円の形で報酬を受けていたこと
- 元請業者と一人親方との間には“実質的な使用従属性”が認められること
以上の理由から、元請側の安全配慮義務違反が認められ、元請には一人親方に対する損害賠償金の支払いが命じられました。
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この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

