就業規則とは|労働基準法上の義務や作成手順、変更などを解説

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
就業規則とは、簡単にいうと職場での規律や働き方を定めた「会社のルールブック」です。
就業規則は労使間のトラブルを防止するために欠かせないものであり、賃金や手当、休日、福利厚生など労働者にとって重要な情報が網羅されています。
そのため、使用者は必要な事項を漏れなく記載し、社内でしっかり周知することが重要です。
本記事では、就業規則の作成義務やメリット、就業規則への記載事項、就業規則を作成・変更する手順などについて詳しく解説していきます。
就業規則とは
就業規則とは、労働条件や職場で働く上で守るべき規律を会社が定めた規則集です。
労働基準法は、常時10人以上の労働者を雇用する事業場に、就業規則の作成・届出・周知を義務付けています。
職場内でのルールを明確にし、会社と労働者双方がルールを守ることで、労働者は安心して働くことができるうえ、労使トラブルも未然に防止することが可能です。また、解雇や懲戒処分、ハラスメントなど職場で起こる問題にも、就業規則をもとに適切に対応することができます。
就業規則には、労働者の賃金や労働時間、退職、解雇など人事の取扱いや、服務規律、福利厚生などの内容を定めることが通例です。
就業規則の作成義務
常時10人以上の労働者を雇用する事業場では、労働基準法によって以下の対応が義務付けられています(労基法89条、106条)。
- 就業規則の作成
- 所轄の労働基準監督署への届出
- 労働者への周知
就業規則の適用範囲は、正社員だけでなく、契約社員、パートやアルバイトなどの非正規社員も含みます。また、就業規則の作成義務は“事業場ごと”にあるため、複数の支店や営業所、工場などを構えている場合は各拠点で対応が必要です。
就業規則の作成の流れや適用範囲の詳細は、以下のページで解説しています。
作成義務に違反した場合の罰則
就業規則の作成義務に違反した事業者は、30万円以下の罰金が科せられるおそれがあります(労働基準法120条1号)。
また、労働基準監督署による行政指導の対象となり、指導や是正勧告、企業名公表などを受けるリスクも伴います。
なお、労働者が10人未満の場合は就業規則の作成義務はありませんが、社内ルールを明確化するためにも作成することが推奨されています。
就業規則の法的効力
就業規則は、事業場の全労働者を規律する法的効力があります。
ただし、労働基準法92条では「就業規則は法令に反してはならない」と定められているため、法令の基準を下回る就業規則の規定は無効となります。
例えば、
- 勤務時間が法定労働時間を超えている
- 残業代を支払わない旨の規定がある
- 有給休暇の付与日数が法令を下回っている
といった内容の規定は認められません。また、無効となった部分については法令の基準で合意したものとみなされます。
一方、就業規則の規定が法令の基準を上回っている場合は、就業規則の内容がそのまま適用されます。つまり、法令と就業規則の内容が異なる場合、労働者にとって有利な方が適用されることになります。
就業規則の効力についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。
就業規則を作成する目的・メリット
就業規則を作成する目的やメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 労使トラブルの予防・対応に役立つ
- 業務命令や懲戒処分が可能になる
- 優秀な人材確保と定着に繋がる
- 助成金を受給できる可能性が広がる
労使トラブルの予防・対応に役立つ
就業ルールが明確になることで、労使間で認識が統一され、労働トラブルが発生するのを未然に防止できます。例えば、有給休暇の申請や退職の申し出、残業代の支払いなどはトラブルになりやすいため、あらかじめルールを明確化しておくと安心です。
仮にトラブルが発生した場合や、裁判に発展した場合も、就業規則を指標に対応できるためスムーズに解決できる可能性が高まります。
また、就業規則に沿って適切に対応していたことが証明できれば、裁判でも会社側の主張が認められやすくなるでしょう。
業務命令や懲戒処分が可能になる
労働者に業務命令や懲戒処分を行うには、就業規則上の根拠が必要です。
例えば、無断欠勤や遅刻を繰り返すような問題社員については、反省を促すためにも何らかの処分を検討すべきといえます。しかし、就業規則に懲戒規定がないと、どれだけ悪質な行為をした者でも懲戒処分にはできないのが基本です。
優秀な人材確保と定着に繋がる
社内ルールが公正だと、社員の安心感やモチベーションアップに繋がります。会社への帰属意識が高まり、優秀な人材が定着する効果も期待できます。
また、労働条件が明瞭な会社は求職者にとっても魅力的です。労務管理が徹底され、快適な就労環境が整備されていることをアピールできれば、「入社したい」と前向きに考える者が増えるでしょう。
さらに、求職者は入社後の労働条件(募集要項)に納得したうえで応募してくるため、入社後のミスマッチも未然に防止できます。
助成金を受給できる可能性が広がる
多様な働き方を支援する会社は、国や自治体から助成金を受給できる可能性があります。例えば、高齢者雇用、障害者雇用、両立支援などに取り組む会社が支給対象となり得ます。
助成金の中には、支給要件として「就業規則に規定があること」と定めているものもあります。
〈例〉65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)
→支給要件:制度を規定した労働協約または就業規則を整備している事業主であること
就業規則をきちんと整備することで、多様な助成金を受給できるチャンスが広がります。
就業規則の記載事項
就業規則に記載するべき事項として、以下の3つが挙げられます。
- ① 絶対的必要記載事項:必ず記載しなければならない事項。労働時間や賃金、退職など。
- ② 相対的必要記載事項:ルールを設ける場合は、必ず記載しなければならない事項。退職金や職業訓練、表彰・制裁など。
- ③ 任意記載事項:記載を会社の判断で決められる事項。企業理念や服務規律など。
使用者はこれらのルールに基づき、必要な記載事項を漏れなく定めることが重要です。記載漏れがあった場合、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
なお、記載事項の一部を欠いた就業規則でも、労働者への周知などその他の要件を満たしていれば“有効”とされていますが、罰則は適用されるため注意が必要です。
また、正社員や契約社員、パート・アルバイトなどの雇用形態によって労働条件が異なる場合、それぞれに応じた就業規則を作成するか、非正規社員への適用についても明示しておく必要があります。
| 記載事項 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 絶対的必要記載事項 | 労働に関すること | ・始業および就業の時刻 ・休憩時間 ・休日 等 |
| 賃金に関すること | ・賃金の決定 ・計算方法 ・支払方法 等 |
|
| 退職に関すること | 退職・解雇・定年の事由 等 | |
| 相対的必要記載事項 | 退職手当に関すること | ・対象となる労働者の範囲 ・計算方法 ・支給方法 等 |
| 労働者の費用負担に関すること | ・食費 ・作業用品 等 |
|
| 職業訓練に関すること | ・訓練の種類 ・時期 ・対象者 等 |
|
| 表彰や制裁に関すること | 表彰・制裁の種類 等 | |
| その他 | ・就業規則を制定した趣旨 ・企業理念 ・服務規律 ・就業規則の用語の解説 等 |
就業規則の記載内容について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
就業規則の作成・届出の手順
就業規則を作成する手順は、以下のとおりです。
- 就業規則の原案作成
- 労働者からの意見聴取・意見書の作成
- 就業規則を労働基準監督署へ提出
- 従業員がいつでも閲覧できるよう周知
①就業規則の原案作成
就業規則の原案は、会社の人事・労務部門で作成するのが通例です。
厚労省のモデル就業規則を参考に、自社に適した内容に修正しながら作成すると良いでしょう。
モデル就業規則は、時代や法改正にあわせて規定が追加・変更されているため、最新の傾向を確認するためにも有効です。例えば、近年では“副業・兼業の解禁”に伴い、原則として副業を認める旨の規定が追加されました。
また、自社独自のルールを定める場合は法令違反がないよう十分注意する必要があります。弁護士などの専門家に相談し、リーガルチェックを依頼するのもおすすめです。
就業規則の全体像としては、いわゆる「本則」にメインの規程を定め、詳しい内容については「別規定」として定めるのが一般的です。また、職種ごと、雇用形態ごとに就業規則を作成したり、記載事項ごとに規程を分けたりすることも可能です。
テンプレートやモデル就業規則を利用する際の注意点
厚生労働省が公表する「モデル就業規則」は参考例にすぎないため、そのまま使用することは避けましょう。ネットに掲載されているテンプレートやサンプルも同様です。
モデル就業規則やテンプレートには、自社が導入する制度について記載がなかったり、会社の実態と乖離があったりする可能性があるため、そのまま使うのはリスクが大きいといえます。
必要な記載事項が漏れていた場合、労働トラブルを招くだけでなく、労働基準法違反にあたるおそれもあるため注意が必要です。
また、古いテンプレートには直近の法改正の内容が反映されていないこともあるため、弁護士に相談しながら作成すると安心です。例えば、ハラスメントやうつ病などのメンタルヘルスは対策が強化されているため、記載方法には注意が必要です。
②労働者からの意見聴取・意見書の作成
就業規則を作成したら、労働者代表の意見を聴かなければなりません。
労働者代表とは、「労働者の過半数で組織する労働組合」または「労働者の過半数を代表する者」をいいます。過半数代表者は投票や挙手などの“民主的な方法”で選出する必要があり、会社側が指名した社員や部長などの役職者を選任することはできません。
意見聴取は、労働者に就業規則の内容をチェックさせ、一定の範囲内で意見を陳述する機会を与えることを目的としたものです。労働者代表と話し合い、場合によっては就業規則の原案を修正することも検討しなければなりません。
聴取した意見は、「意見書」として書面にまとめ、署名か記名・押印を得ておく必要があります。
労働者からの意見聴取については、以下のページで詳しく解説しています。
③就業規則を労働基準監督署へ届出
就業規則の作成後は、所轄の労働基準監督署に届け出ることが義務付けられています。
作成した就業規則に、労働者代表の意見をまとめた「意見書」を添付し、速やかに労基署へ届け出ましょう。
なお、意見書は必ずしも労働者の同意を求めるものではないため、反対意見が書かれていても届出が不受理となることは基本的にありません。
しかし、労働トラブルを回避するためにも、異議が出た場合は会社側の事情を十分説明するか、何らかの譲歩を行い、労働者側の理解を得たうえで届け出るのが望ましいでしょう。
④従業員がいつでも閲覧できるよう周知
作成した就業規則は、配布や掲示などの方法で労働者に周知することが義務付けられています(労働基準法106条)。具体的には、以下のような方法で、事業場の労働者全員を対象に周知を行う必要があります。
- 労働者1人1人に書面で配布する
- 作業場の見やすい場所に常時掲示する、または備え置く
- 電子媒体に記録し、労働者がいつでも閲覧できるようパソコンなどを設置する
就業規則は労働者に周知してはじめて効力が生じるため、周知がされていない、または周知方法が不適切な場合、就業規則は“無効”となります。
また、周知義務に違反した会社は労基署から指導や是正勧告を受けるほか、悪質なケースでは30万円以下の罰金が科せられる可能性もあります(労基法120条)。
就業規則の周知義務については、以下のページでも詳しく解説しています。
就業規則の変更について
就業規則を変更する際も、意見聴取や届出など一定の手続きが必要となります。特に、就業規則の変更時は以下の2点に注意が必要です。
- 労働基準監督署への変更届の提出
- 不利益変更には合理性や労働者の合意が必要
労働基準監督署への変更届の提出
就業規則は、会社の判断で勝手に変更することはできません。労働基準監督署に「変更届」を提出するなど、新たに就業規則を作成する場合と同様の手順を踏む必要があります。
就業規則を変更するおおまかな流れは、以下のとおりです。
- 変更後の就業規則について原案を作成する
- 過半数労働組合または過半数代表者から意見を聴取する
- 変更内容に対する労働者代表の意見をまとめた「意見書」を作成する
- 変更後の就業規則と意見書を、所轄の労働基準監督署に届け出る
- 変更後の就業規則を労働者に周知させる
不利益変更には合理性や労働者の同意が必要
不利益変更とは、就業規則の内容を労働者にとって不利なものに変更することをいいます。例えば、賃金の引き下げ、各種手当のカット、福利厚生の廃止などが代表的です。
不利益変更は労働者への影響が大きいため、基本的に労働者から個別に同意を得ないと行うことができません(労働契約法9条)。
ただし、赤字や業績悪化といった経営上の理由から、現在の給与水準や福利厚生を維持するのが難しいケースもあります。その場合、労働条件の引き下げに合理性があると認められれば、就業規則の変更・周知によって不利益変更を行うことが可能です(労契法10条)。
不利益変更の合理性については、以下の5つの要素をもとに判断されるのが一般的です。
- 労働者の受ける不利益の程度
- 不利益変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容と相当性
- 労働組合などとの交渉の経緯
- 代替措置や経過措置の有無
やむを得ず不利益変更を行う場合も、労働者と十分交渉を重ね、変更の必要性をしっかり説明しておくことが重要です。
不利益変更については、以下のページでも詳しく解説しています。
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この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
