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社内の風紀秩序を維持するための服務規律

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

労働者が守るべき服務規律を明確にすることは、企業の重要な役割です。特に、風紀秩序の維持は、職場の人間関係を良好に保ったり、業務をスムーズに進めたりするために欠かせないルールといえるでしょう。

ただし、風紀秩序に関する規定は、一歩間違えると労働者のプライバシーや人権を侵害するおそれがあります。また、風紀秩序のルールに反したからといって、直ちに懲戒処分を下せるわけでもありません。

このように、風紀秩序の維持については使用者の慎重な対応が求められます。ルールを定める際の注意点や規定すべき内容について、本記事でしっかり押さえておきましょう。

企業における風紀秩序の維持

企業の風紀秩序とは、職場の調和や統制を図るための決まりをいいます。具体的には、無断欠勤をしない・周囲に不快感を与えるような言動をしないといった社会生活上のルールのことです。

ただし、風紀秩序の考え方は人それぞれであり、労使間で認識が異なることがあります。また、倫理上のトラブルが明るみになれば、社会からの信用損失につながるおそれもあるでしょう。

そこで、使用者は風紀秩序の基準を明確化し、具体的なルールまで定めておくことが重要です。

労働者の人格的利益に配慮する義務

風紀秩序を定める際、使用者は、労働者の人権を侵害しないよう注意する必要があります。具体的には、労働基準法に違反する内容や、労働者の国籍・信条・社会的身分・性別を理由とした差別的取扱いは禁止されています(労基法3条)。

また、使用者は、労働者の身体や精神の自由・プライバシー・名誉感情等の人格的利益に配慮する義務をも負うものと考えられます。そのため、労働基準法に定めがない様々な人格的利益についても、十分に配慮することが重要です。

企業秩序遵守義務の定義

風紀秩序の維持は、「企業秩序遵守義務」のひとつにあたります。企業秩序遵守義務とは、企業秩序を遵守すべき義務です。職務遂行に関係のある行為のみならず、職場外であっても企業秩序に直接関係する行為や、企業の社会的評価の低下につながるおそれのある行為も規制の対象となることがあります。

企業秩序遵守義務は、企業の存立や事業の円滑な運営のために重要な概念です。したがって、使用者は労働者にこの義務を遵守させる権限を持ち、労働者はこれに従わなければなりません。

この他、労働者が負う義務には誠実労働義務・職務専念義務などがあります。それぞれ以下のページで解説していますので、併せてご覧ください。

労働者が守るべき職務専念義務と服務規律
服務規律の策定において重視すべき「誠実労働義務」

企業秩序遵守義務に関する服務規律

使用者は、労働者に企業秩序遵守義務を遵守させる権限を持ちます。しかし、風紀秩序の考え方は労使間で異なる可能性があるため、むやみに命令・指示するとトラブルになりかねません。

そこで、企業秩序遵守義務については、服務規律として就業規則で定めておくのが望ましいでしょう。服務規律は就業規則への記載が強制されない「任意的記載事項」ですが、社内トラブルを防ぐため、きちんと明記しておくことをおすすめします。

以下のページでは、服務規律の概要を詳しく解説しています。併せてご確認ください。

服務規律の策定と労働者の遵守義務

服務規律に規定する内容

服務規律に関する規定は、以下のようなものがあります。

  • 社員間での金銭貸借の禁止
    「貸したお金が返ってこない」といった金銭トラブルが起きないよう、社員間のお金の貸し借りを禁止します。また、他の社員の連帯保証人になることを禁止するのも良いでしょう。
  • 就業中の飲酒や飲酒運転の禁止
    就業中の飲酒は作業に大きな支障をもたらすだけでなく、酔った社員間でトラブルが発生するおそれもあります。また、使用者の指揮監督が及ぶ範囲で社員が飲酒運転をした場合、使用者が損害賠償責任(使用者責任)を負う可能性もあります。そのため、飲酒のルールは厳しく定めておくべきでしょう。
  • 欠勤、遅刻、早退
    所定の届出に記入のうえ、事前承認制にするのが望ましいでしょう。また、遅延等やむを得ない理由による遅刻についても、提出書類等を明確に定める必要があります。詳しくは以下のページをご覧ください。
    従業員の申告・届出義務に関する服務規律
  • 所持品検査
    所持品検査はプライバシーの侵害にあたるおそれがあるため、無制限には認められません。規定する際の条件や注意点は、以下のページで解説します。
    服務規律に基づく労働者への所持品検査について
  • 暴力団の排除
    暴力団関係者との関わりを禁止することは、企業の健全な姿勢を示すうえでも重要です。記載事項等は以下のページで解説しますので、ぜひご覧ください。
    暴力団排除を目的とした服務規律の策定
  • 施設利用、立入禁止、退去
    施設の利用方法が不適切だと、他の社員にも不快感を与えかねません。そのため、利用条件や禁止事項についても具体的に定めるべきでしょう。詳しくは、以下のページでご確認ください。
    会社の施設利用について服務規律を設ける必要性

企業秩序遵守義務の効力

就業規則に定めたからといって、無制限に服務規律が認められるわけではありません。例えば、労働者の服装や髪形など、業務とは直接関係ない事項に関する規定は、プライバシーや人格権保護の観点から認められない可能性があります。

このような規定の効力は、「業務遂行上の必要性が認められるか」「労働者の自由を過度に侵害していないか」といった合理性の面から判断されるのが一般的です。

企業秩序と職場外での行為

服務規律は職場で従うべきルールであり、基本的に職場外の行為にまで効力が及ぶものではないため、労働者の職場外の言動に対し、懲戒処分を下すことはできません。

例えば、兼業について考えてみましょう。兼業は、本来労働契約上の権限が及ばない私生活上の行為です。したがって、企業への労務提供に格別の支障がない限り、服務規律違反にあたらず、懲戒処分の対象にもならないと考えられます。

ただし、職場外であっても次項のような行為をした場合、例外的に服務規律違反として懲戒処分が認められる可能性があります。

義務違反となる職場外の行為

職場外の行為であっても、以下のものは服務規律違反にあたり、懲戒処分の対象となる可能性があります。

  • 事業の円滑な運営を妨げるなど、企業秩序に関係を有するもの
  • 企業の信用や社会的評価を損ねるもの

また、職場外での非行や犯罪行為(痴漢や路上での喧嘩等)についても、懲戒処分の有効性が争われることがあります。この場合、違反行為の重大性・企業規模や事業内容・労働者の地位・企業への影響等を考慮し、処分の可否が判断されることになります。

服装や身だしなみの制限

服装や髪形に関する規定は、業務上必要かつ合理的なもののみ認められます。というのも、服装や髪形は労働者の私生活にかかわる事項であり、基本的に個人の自由を尊重すべきだと考えられるためです。

これら規定の合理性については、企業の業種・労働者の職務や役割・規定の目的や内容・業務への影響等を考慮して総合的に判断されます。例えば、サービス業や営業職の労働者については、顧客に与える印象が企業の利益や信用につながるため、比較的厳しい規定が認められるでしょう。

ただし、服務規律は労働契約に基づくものですので、企業の風紀秩序を乱すおそれ等がなければ企業遵守義務違反は成立しません。そのため、当然に懲戒処分が認められるわけではないことに注意が必要です。

企業秩序遵守義務違反と懲戒処分

企業秩序遵守義務に違反した労働者は、懲戒処分の対象となりえます。ただし、懲戒処分をするには就業規則への記載や事実関係の調査等さまざまな対応が必要ですので、しっかり押さえておきましょう。

詳しくは以下のページで解説していますので、ぜひご覧ください。

服務規律違反における懲戒処分

男女関係に関する服務規律について

社内恋愛や不倫は労働者のプライベートの問題ですので、基本的に会社が規制すべき事項ではありません。したがって、これらの行為を理由とする懲戒処分も認められないことが通常です。

また、就業規則で社内恋愛や不倫を懲戒事由として定めたとしても、それだけで当然に懲戒処分が認められるわけではありません。

ただし、恋愛関係を職場に持ち込み、業務に支障が生じているようなケースでは、懲戒処分が認められる可能性があります。これは、一般的な懲戒事由である「企業の秩序や風紀を乱したり、乱したりするおそれがあるとき」に該当するためです。

この場合の懲戒処分の有効性については、企業規模や労働者の地位、業務への影響等を踏まえて慎重に検討されます。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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