退職・解雇
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
退職と解雇は、どちらも結果的に従業員が会社を辞めることになりますが、法律的には意味合いが異なります。
労働者が退職するケースと、労働者を解雇するケースとでは、対処する方法が異なることを理解しておかなければなりません。また、退職や解雇にも種類があり、それぞれについて注意するべき点が異なることがあります。
間違った手続で不当に解雇等をしてしまうと、その従業員の人生を狂わせてしまうおそれがあるだけでなく、会社の不利益につながるおそれもあります。そうならないためにも、本記事では、退職・解雇にかかわる法律上の定めについて解説していきます。
目次
退職と解雇の違い
「退職」とは、狭義では、従業員からの申し出により労働契約を終了することをいいます。一般的には、従業員が使用者に退職届(退職願)を提出して申し出ます。
一方、「解雇」とは、会社側からの申し出による一方的な労働契約の終了であり、労働者が承諾しなくても成立します。そのため、従業員を「解雇」するとトラブルになりやすいので注意が必要です。
退職と解雇とでは、労働契約を終了させる効果は同じでも、相違点も多くあります。双方の違いについて、以下で解説します。
会社都合退職と自己都合退職の違い
会社都合退職 | 自己都合退職 | |
---|---|---|
解説 | 主に会社側の事情により従業員が退職すること | 主に会社とは無関係な従業員側の事情により退職すること |
失業保険の 待機期間 |
7日間 | 7日間+2ヶ月 |
給付日数等 | 90日~330日 | 90日~150日 |
受給条件 |
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退職理由 |
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会社都合退職とは、主に会社側の事情により従業員が退職することをいい、自己都合退職とは、主に会社とは無関係な従業員側の事情により退職することをいいます。
会社都合退職と自己都合退職とでは、失業保険の待機期間や給付日数等、受給条件に違いが生じます。それぞれの違いを知りたい方は、上の表をご覧ください。
経営危機などによって整理解雇が行われた場合等には、会社都合退職となります。一方で、労働者が業務上横領などを行ったことにより懲戒解雇した場合には自己都合退職となります。
解雇と退職勧奨の違い
解雇と退職勧奨の違いとして、解雇は従業員の意思にかかわらず可能であり、退職勧奨は従業員が合意した場合にのみ可能である点が挙げられます。
これは、解雇は使用者が一方的に従業員を辞めさせる行為であるのに対して、退職勧奨は「退職するように促す」行為だからです。
退職勧奨を受けた従業員は、退職するか否かを自由に選べるので、会社の提示する条件で合意することができないと判断した場合には、会社に残ることができます。退職を強要すると、事実上の解雇であるとして有効性を争われてしまうおそれがあります。
また、従業員が退職願を提出したとしても、退職勧奨を行った結果であれば、基本的には会社都合退職として扱われます。自己都合退職として扱うと、失業保険の受給などで労働者が不利益を受けてしまい、トラブルに発展するおそれがあるので注意しましょう。
なお、退職勧奨について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
退職の種類
退職は、「自主退職」「合意退職」「自然退職」の3つに区別することができます。以下で、それぞれ解説します。
自主退職
自主退職とは、労働者の意思のみによる退職のことをいいます。具体的には、転職希望による退職や、結婚や妊娠による退職等が挙げられます。
なお、似た言葉に「辞職」があります。「辞職」は、取締役や管理職が退職するときに使われるのが一般であり、平社員等については「退職」というのが一般的です。
合意退職
合意退職とは、労働者と使用者の意思表示の合致によって労働契約が終了することをいいます。具体的には、希望退職募集制度による早期退職や、退職勧奨による退職等です。労働者側の都合によるケースもあれば、使用者都合に近いものもあります。
なお、「依願退職」という退職方法もありますが、これは従業員が退職を申し出て、使用者側と合意するものです。
自然退職
自然退職とは、ある条件に該当したときに、労働者または使用者の意思にかかわらず、労働契約を終了させるものをいいます。
自然退職に至る条件としては、契約期間の満了、定年、休職期間の満了、本人の死亡等があります。
定年制度について
定年制度とは、労働者が、あらかじめ定められた年齢に達したときに労働契約が終了する制度です。
かつては55歳を定年とするのが一般的でしたが、その後の法改正によって、定年になる年齢は基本的に60歳以上とされました。さらに、近年の法改正により、希望者は65歳まで働けるようにするための措置が義務付けられたことにより、使用者は以下の3種類の中から措置を選ぶことになりました。
- ①定年制の廃止
- ②定年の65歳以上への引上げ
- ③継続雇用制度の導入
さらに、70歳までの定年延長についても努力義務が規定されています。
定年制についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
解雇の種類
解雇は、主に「普通解雇」「懲戒解雇」「整理解雇」の3種類に分けられます。
これらについて、就業規則において解雇事由や解雇ができる条件をそれぞれ定める必要があるでしょう。なぜなら、懲戒解雇については懲戒解雇事由等を就業規則で定めなければそもそも無効となってしまいますし、3種の解雇について明確に区別ができないケースもあることから、解雇の種類について使用者と労働者とで理解がズレてしまうといった事態を防止する必要があるからです。
普通解雇
普通解雇とは、従業員の能力不足や協調性の欠如等の事由があるときに、使用者が一方的に労働契約を解約することをいいます。
普通解雇が可能となる要件として、正当な解雇理由があること等が挙げられます。正当な解雇理由には能力不足等が該当すると考えられますが、「営業成績が部署で一番低い」といった理由があれば、すぐに能力不足と断定できるわけではありません。
明確な基準はありませんが、どれだけ指導しても改善されず、今後も改善する見込みがなく、他の部署に異動できる可能性もない等、解雇の有効性は極めて厳格に判断されます。
懲戒解雇
懲戒解雇とは、会社がルール違反行為をした従業員に対するペナルティとして解雇する処分です。従業員が業務上横領等の重大な背信行為をした場合や、繰り返し指導してもセクハラやパワハラを繰り返す場合等、会社の秩序を乱す行為をしたときに懲戒解雇となります。
この処分は、懲戒処分の中でも最も重い処分とされているため、有効性について極めて厳しく判断されます。会社のお金を盗む等の行為であれば有効とされるケースが多いですが、そうでなければ軽い懲戒処分を行って指導する等の対応が必要となるケースも少なくありません。
懲戒解雇についてより詳しい解説は以下のページに譲ります。
整理解雇
整理解雇とは、会社の経営が苦しくなったこと等により、人員削減のために行う解雇のことです。
使用者側の事情による解雇となるため、裁判例において、有効になる要件が挙げられています。
- ①人員削減の必要性
- ②解雇回避の努力
- ③人選の合理性
- ④解雇手続の妥当性
以上の要件等を踏まえて、整理解雇の有効性について、厳しく判断されています。
なお、整理解雇についてより詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
退職の申し出に関する民法上の定め
退職の申し出に関する民法の規定は、契約期間の定めがあるか否かによって異なります。契約期間の定めがない場合には、退職する2週間前に申告すれば退職が可能となっています。一方で、6ヶ月以上の契約期間の定めがある場合には、退職の申し出は3ヶ月前までにしなければなりません。
なお、有期労働契約の従業員の解雇や、有期労働契約の解除について知りたい方は、以下のページをご覧ください。
解雇権濫用法理について
解雇権濫用法理とは、解雇権を濫用した場合には解雇が無効とされるという法理です。解雇権を濫用していないと認められるためには、次の2つの要件を満たさなければなりません。
- 客観的に合理的な理由があること
- 社会通念上相当と認められること
これは、裁判例によって形成されてきた法理であり、裁判所においても非常に重要なものとして位置付けられています。そして、現在では法律の条文に取り入れられています(労契法16条)。
労働契約法
(解雇)第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
解雇が有効となる事由
有効に解雇するためには、解雇の要件(客観的に合理的な理由と社会的相当性)を満たしている必要があります。
分かりやすく言い換えると、「客観的に合理的な理由がある」とは、第三者から見ても解雇はやむを得ないと言える理由があるということです。また、「社会的相当性がある」とは、労働者の事情や解雇を回避できる他の方法の有無などを考えても、解雇をすることが常識的に妥当であるということです。
要件が欠けていると、不当解雇となります。不当解雇をすると、労働者から訴えられるリスクや、多額の金銭を支払って解決する必要が生じるリスク等が生じます。
具体的な解雇事由については、以下のページをご覧ください。
退職・解雇に関する就業規則の規定
就業規則には、退職に関する事項や解雇の事由について、必ず明記する必要があります。
労働基準法では、会社に対して「絶対的必要記載事項」という、就業規則に絶対に記載しなければならない事項を明記するよう定めています。
「絶対的必要記載事項」には、労働時間、賃金、退職(解雇事由を含む)に関する内容等、労働条件として特に重要な内容が含まれています。退職を有効に成立させるためには、理論上当然に労働契約が終了すると判断できるような場合を除き、就業規則において、絶対的必要記載事項として、これを明記しておくことが必要といえます(労基法89条)。
労働基準法
(作成及び届出の義務)第89条
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
3 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
具体的な退職成立事由・解雇事由についての詳細は、下記のページをご覧ください。
退職・解雇時に使用者が負う義務
使用者が従業員を解雇するときに負う義務として、次のものが挙げられます。
- 解雇予告をすること
- 解雇予告手当を支払うこと
解雇する際の義務を怠ると、解雇の有効性に影響が生じるので注意が必要です。解雇する際の義務について、以下で解説します。
解雇予告・解雇予告手当支払の義務
解雇予告とは、労働者を解雇する場合に、使用者(会社側)は、少なくとも30日前にその予告をする義務をいいます(労基法20条)。
労働基準法
(解雇の予告)第20条
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
また、解雇予告手当とは、解雇予告から解雇するまでの期間が30日未満である場合に支払いが必要となる、満たなかった日数分の平均賃金のことをいいます。
解雇の予告をしない場合は、解雇と同時に30日分以上の解雇予告手当を支払わなければなりません。ただし、除外認定を受ければ、解雇予告手当を支払う必要はなくなります。
除外認定も含めて、解雇予告についての詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
退職金の支給義務
従業員を解雇する場合であっても、退職金を支給する義務は基本的に消滅しません。しかし、就業規則に特別な規定があり、従業員に周知されていれば、退職金を支給する義務が免除される可能性があります。
例えば、就業規則に「退職金は、懲戒解雇された従業員には支給しない」と明記してある場合には、懲戒解雇した従業員には支給せずに済む可能性があります。ただし、その場合であっても、退職金の全額を不支給にするためには、これまでの功績を打ち消すような重大な行為をしたことが要件となります。
なお、退職金制度が就業規則に記載されておらず、社長等の独断で報奨金等として支払っていたケースでは、退職金を支払わない従業員がいても問題ないと考えられます。
退職金制度について、さらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
退職証明書・解雇理由証明書の交付義務
退職証明書とは、従業員が会社等を退職したことを証明する書類です。また、解雇理由証明書とは、会社等が当該従業員を解雇した理由を記載した書面です。
労働者が退職する際には退職証明書を、労働者を解雇する際には解雇理由証明書を交付するように求められることがあり、請求された場合には、遅滞なく交付する必要があります(労基法22条)。
労働基準法
(退職時等の証明)第22条
1 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
2 労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。
退職証明書は、労働者が退職した後のみ請求できますが、解雇理由証明書は、解雇予告をした時点で請求されることが多いです。そのため、解雇を伝える前に事前準備をしておくことが望ましいでしょう。
なお、退職証明書や解雇事由証明書の詳細については、以下のページをご覧ください。
退職・解雇時に労働者が負う義務
退職した労働者や解雇された従業員について、退職後も負担させることが望ましい義務があります。
具体的には、以下のような義務が挙げられます。
- 業務引継義務
- 貸与品等の返却義務
- 競業避止義務
- 秘密保持義務
会社としては、労働者が行っていた業務内容や、顧客の情報等を共有してもらう必要がありますし、備品は返却してもらいたいでしょう。また、労働者の退職後の行動によって、会社の不利益になることは避けたいところです。
しかし、根拠となる規定が存在しなければ、退職者に一定の行動を義務付けるのは難しくなってしまいます。
そのため、あらかじめ退職者にこれらの義務を課す旨を就業規則や誓約書等に定めることで、会社に対する不利益な行動等を一定程度制限することが期待できます。
詳しい退職者の義務については、以下のページをご覧ください。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある