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賃金を構成する要素

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

賃金とは、使用者から労働者に対して支払われる、労働の対償のすべてを指します。このことからわかるように、賃金は様々な構成要素で成り立つものですから、自社の賃金制度を正しく作り上げるためにも、賃金体系(賃金がどのような構成要素で成り立っているかを表したもの)を正確に理解することが重要です。

そこで、今回は、賃金体系の基礎知識についてしっかりと解説していきます。

賃金の構成を明示する必要性

賃金体系(賃金がどのような構成要素で成り立っているかを表したもの)について、労働者に明示しておくことは極めて重要です。なぜなら、賃金体系を明示することで、基本給や手当等の賃金の構成要素(支払項目)の定義が明確になり、給与計算の根拠が示されることになるので、支給額に関するトラブルの発生防止に繋がるからです。

具体的に、どのようにして労働者に賃金体系を明示するのかというと、社内のルールについて定める就業規則に規定を設けたり、別途賃金規定を設けたりする方法が挙げられます。賃金体系と併せて、就業規則等に客観的な昇給の評価基準を定めておくと、労働者の勤務評価についての不信感を払しょくできるとともに、モチベーションの向上にも繋がると考えられます。

就業規則に規定を設ける際のポイントや賃金計算の詳細に関しては、下記の各記事をご覧ください。

給与規程
給与の計算

一般的な賃金体系

一般的な日本の賃金体系は、基準内賃金基準外賃金とに大きく分けられます(詳細については後述します)。賃金体系の特徴としては、(1)多種多様な支払項目があり、算定方法が複雑であること、(2)生活給体系(労働者の最低生活費の保障を目的とした賃金体系)が主流であること、(3)年功序列型であることが挙げられます。

しかし、高齢者の継続雇用問題が提起される等、近年の社会情勢・経済情勢の変化に伴い、生活給体系から職務給体系・職能給体系(職務や能率に応じた賃金体系)への移行が課題とされつつあります。

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賃金の定義について

労働基準法11条によると、「賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定義されています。労働の対償とは、労働の対価を意味します。

この点、次の3つは労働の対償とはいえないとされています。

  • (1)任意的恩恵的給付(結婚祝金、病気見舞金等の慶弔禍福の給付で、使用者が任意的かつ恩恵的に支給するもの)
  • (2)福利厚生給付(個人に対する資金貸付等、福利厚生として支給するもの)
  • (3)企業設備・業務費(出張旅費等、業務のために支給するもの)

もっとも、使用者が任意に支給するもの(任意的恩恵的給付)であっても、労働協約や就業規則等で支給の有無や条件が明記されており、使用者に支払義務が認められるものは、労働の対償と認められ、「賃金」として取り扱われます(昭和22年9月13日基発17号)。

賃金の構成要素

企業によって異なる部分もありますが、一般的に、賃金は(1)月例賃金(2)賞与・一時金(3)退職金から構成されます。

月例賃金以外の賞与・一時金と退職金については、下記の各記事をご覧ください。

賞与
退職金制度

月例賃金の構成要素

賃金を構成する3要素のうち、(1)月例賃金は、さらに基本給各種手当割増賃金等に分けられる例が多くみられます。

そのうち、基本給には、さらに複数の構成要素(①年齢給・勤続給、②職能給、③職務給、④役割給、⑤業績給・成果給)があり、キャリアに応じてこれらを組み合わせて支給している企業もあります。なお、各種賃金の呼称も企業によって様々です。

基本給については後述しますが、各種手当や割増賃金についての解説は、下記の各記事をご覧ください。

会社が支給する給与の諸手当について
割増賃金請求

賃金の種類

賃金は、基準内賃金基準外賃金に大別できます。

ただし、どちらも法律上の用語ではないため、明確な定義はなく、サイトによっては異なる分類がなされる場合があることにご留意ください。本記事とは異なる分類の例としては、所定内労働時間に対する賃金か否かで分類するものがあります。

基準内賃金

基準内賃金とは、毎月固定額で支給される賃金をいい、基本給のほか、毎月固定額で支給される各種手当が含まれます。基準内賃金の性質上、労働者は、毎月ほぼ定額を賃金として受け取ることができます。

なお、基準内賃金は、残業代等、割増賃金を計算する際の基礎となる賃金です。しかし、基準内賃金のうち次の7つの手当に関しては、個人的事情に基づいて支給されるものであり、労働の内容や量との関連性が弱い、計算技術上困難があるといった理由から、計算の基礎から除外することが認められています(労基法37条5項、労規則21条)。

  • ①家族手当
  • ②通勤手当
  • ③別居手当
  • ④子女教育手当
  • ⑤住宅手当
  • ⑥臨時に支払われた賃金
  • ⑦1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

各種手当や割増賃金の詳細については、下記の各記事をご覧ください。

会社が支給する給与の諸手当について
割増賃金請求

基準外賃金

基準外賃金とは、毎月異なる金額で支給される賃金をいいます。例えば、勤務の状況によって毎月金額が変動する、時間外労働割増賃金や休日労働割増賃金、深夜労働割増賃金等の割増賃金、その他業績等に連動する職能手当等が含まれます。

なお、基準外賃金は、基準内賃金とは異なり、残業代計算の基礎には含まれません。

各種手当や割増賃金の詳細については、下記の各記事をご覧ください。

会社が支給する給与の諸手当について
割増賃金請求

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基本給の定義

基本給とは、賃金のうち、各種手当や歩合給等を含まない基本となる部分のことをいいます。基本給は、金額的な面でも、賃金のうちの最も根本的な部分を占める賃金です。勤務状況等によって支給される金額が異なる手当とは異なり、毎月定額が支給されます。また、一般的に、経験や能力、年齢、社歴、業務内容等に応じて金額が決められるケースが多く、企業が独自に「基本給表」を定めていれば、これに従い決められることになるでしょう。

なお、残業代は月によって金額が異なるケースが多いため、基本給に含まれることはほぼありませんが、稀に一定時間残業することを想定し、あらかじめ基本給に残業代を含めている企業もあります(みなし残業)。

基本給の種類

一口に基本給といっても、仕事給型属人給型総合給型の3つの類型に分けられ、それぞれ性質が異なります。次項より説明します。

仕事給型

仕事給型とは、職務・職種等の内容や職務遂行能力、業績、成果等、仕事に関する要素によって基本給を決定する類型です。さらに、職種給・職務給・職能給等に分けられます。

職種給

職種給とは、対象となる労働者の職種と熟練度を基準としたうえで、労働市場等での相場を受けて決定される賃金のことです。「労働の対価としての賃金」であるといえます。

企業の外に賃金の相場がある、特定の技能と経験が必要とされる特定の職種の労働者については、企業内においても他の職種や年齢・勤続年数等から受ける影響が小さいため、職種給が支給されることが多いようです。かつては大工や左官工等、職種が限定されていましたが、近年、企業が即戦力を求める傾向を強めていくなか、企業の外に賃金の相場がある職種が増えてきており、企業にも対応が求められるようになってきています。

職務給

職務給とは、従事する職務そのものの難易度や責任の度合い、重要性等を評価要素として、職務の相対的価値の評価によって決められる賃金のことです。業務を一人分の職務に分割・再編したものと仮定し、類似した職務ごとに一定の基準で評価していくつかの職務等級に分けたうえで、それぞれに賃金の金額を設定します。同一労働同一賃金の原則に基づいたもので、「労働の対価としての賃金」であるといえるでしょう。

職務に直結した賃金評価であるため、労働者の不公平感等が解消されるといったメリットがある一方、一度職務が価値づけられてしまうと、評価基準が固定化してしまったり、個人間の能力差が考慮されなかったりする点で、不満に感じる労働者が出てきてしまうおそれがあります。

職能給

職能給とは、職能(職務を遂行するうえで必要となる能力)に基づいた等級区分を設け、労働者の職務遂行能力がいずれの区分に該当するかにより決められる賃金のことです。職能給制度を導入するにあたっては、職務・職能分析、職能資格制度等が設計されている等、労働者の職務遂行能力の格付け等を行うことができる環境が整備されている必要があります。労働者の能力レベルをいくつかの等級区分に振り分ける職能資格制度を基礎とするため、職能資格給と呼称されることもあります。

なお、職能給は「労働力の対価としての賃金」ではありますが、「労働の対価としての賃金」ではありません。

属人給型

属人給型とは、年齢や勤続年数、学歴等、個人に関する要素によって基本給を決定する類型です。さらに、年齢給・勤続給等に分けられます。

年齢給

年齢給とは、労働者の年齢を指標にして決められる賃金のことです。その裏には、年齢が上がるにつれて能力が高まるという考えや、加齢によって生計費が増加するといった考え、賃金の評価基準について客観性と安心感等を持たせるといった賃金管理上の考えがあります。

学歴や勤続年数等の要素を併せても客観的な基準に足り得るとして、日本において広く導入されてきました。

勤続給

勤続給とは、勤続年数を指標にして決められる賃金のことです。中長期的な人材の育成・活用のために長期の勤続を促進し、勤続による功労に報いるとともに、勤続年数に応じて職務遂行能力が向上すると考え、能力加給的な役割を持たせるといった考えの下で導入されてきました。

なお、他の基本給項目と組み合わせて導入するものであるため、単体で基本給を構成することはありません。

総合給型

総合給型とは、仕事的要素および個人的要素を総合的に考慮して基本給を決定する類型です。この類型としては、総合決定給が挙げられます。

総合決定給

総合決定給とは、年齢・勤続年数・学歴・経験・能力といった仕事的要素および個人的要素のうち、複数のものを総合的に勘案して決定する賃金のことです。

事業規模が小さく労働者も少ない企業では、職務を限定することが困難であり、また労働者の能力や性格も多様性が高いと考えられるため、総合決定給を導入するところが多いです。もっとも、考慮する要素が多くなるほど、運用方法は曖昧にならざるを得ません。さらに、総合決定給を採用している企業は、即戦力となる人材の中途採用を積極的に行ううえで不利になりがちです。

そこで、労働者にとってより魅力的である、合理的な基本給体系への転換が求められているといえます。

その他の基本給

その他、経験給や成果給といった基本給の種類があります。

経験給とは、特定または類似の職種に従事した経験年数を基準に決められる賃金のことです。勤続給を導入するにあたって、他企業や社会における経験年数を賃金に反映するのが適当だと判断される場合に、併せて導入されるケースがあります。経験給も、勤続給と同様、単独で基本給を構成することはありません。

一方、成果給とは、難易度や責任の度合い等によって、企業が期待する業績のレベルを複数に区分けして、該当する業績の区分に応じて決められる賃金のことです。労働の対償として金銭を支払う賃金形態には、定額給と出来高給の2種類がありますが、成果給は、本人の業績・成果に基づき金額が決められる出来高給に当たります。企業・労働者どちらにとっても合理的な制度であるといわれますが、勤務状況によって金額が変動するものであるため、単独で基本給を構成することはできません。しっかりと生活保障をしたうえで、個々人の業績が上がるよう刺激を与える目的で導入するのが適当だと考えられます。

基本給の体系について

基本給は、単一型体系併存型体系の2つの体系にも分類できます。

前者は、基本給を構成する賃金項目が1つまたは2つ以上であっても、すべてが同一の類型で形成される体系のことをいい、後者は、基本給項目が2つ以上あり、いずれもが異なった種類の類型で形成されている体系のことをいいます。

後者の併存型体系は、賃金項目の組み合わせにより、さらに次の4つのケースに分けられます。

  • 1 仕事給+総合給
  • 2 属人給+総合給
  • 3 仕事給+属人給
  • 4 仕事給+属人給+総合給

賃金における諸手当

手当とは、基本給と併せて、諸費用として支給する賃金をいいます。労働基準法や就業規則等で支給要件を定めたうえで、生活や労働にかかる経費について補填することを目的として支給することが多いです。主な手当としては、交通費や家族手当、役職手当、時間外手当等が挙げられます。

なお、時間外手当や休日手当の割増賃金を計算するにあたっては、家族手当等、労働者の個人的な事情に応じて支給される手当は差し引かれます。詳細については下記の各記事をご覧ください。

会社が支給する給与の諸手当について
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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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