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出張時の日当とは|相場や規定について詳しく解説

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

日当は、労働者が出張したときに支給する「手当」のことです。労働者にとって魅力的な制度ですが、導入するかどうかは会社が自由に決定できます。また、支給ルールにきまりはないため、柔軟に取り決めることが可能です。

ただし、日当は通常の出張経費とは処理の仕方が異なりますし、デメリットもあります。導入前にしっかり特徴を理解し、適切に運用することがポイントです。

本記事では、出張時の日当のメリット・デメリット、導入の流れなどを解説します。ぜひ参考になさってください。

日当とは

日当とは、出張にかかる食費や通信費などの諸雑費のことです。労働者の慰労や労いを目的に、会社から支給する「手当」となります。そのため、実費精算ではなく、一律の金額を事前に支給するのが一般的です。

また、宿泊費や交通費などの出張経費と違い、諸経費はあらかじめ申請することができません。出張前に日当を支給することで、労働者の経済的負担を軽減することができます。

ただし、日当の支給は法律上の義務ではないため、支給するかどうかは会社が判断します。
支給する場合、「出張旅費規程」を作成し、支給要件や支給額を明示しておくことが重要です。

出張旅費規程の作成

出張旅費規程に定めがあり、規定どおりに支給されている場合、日当は所得税が非課税になります。
ただし、必要以上に高額だと、不正に収入を増やしているとみなされ、課税対象になるおそれがあるため注意が必要です。

出張旅費規程は、就業規則の項目のひとつとして定めるのが基本です。日当出張経費支給要件、支給方法、支給額などを明記しておきましょう。

就業規則の作成ルールは、以下のページをご覧ください。

就業規則について

出張旅費規程に定める内容

出張旅費規程で定めるのは、以下のような内容です。

目的 「どんな場合に規程が適用されるのか」を記載します。例えば、「役員や社員が業務命令によって出張する場合の旅費規程とする」などと記載されます。
適用範囲 適用対象は、全社員とするのが基本です。パートや非正規雇用者も出張する場合、その旨も記載しておきます。
出張の定義 出張にあたるかは、移動距離で判断するのが一般的です。「勤務地から出張先までの距離が〇km以上の場合」などと記載します。
支給額・条件 日当・交通費・宿泊費など、項目ごとに支給ルールを記載します。支給額に上限がある場合や、役職によって金額を変える場合、その旨も記載します。
手続方法 申請方法や支給のタイミング、支給方法などを記載します。

日当の支給による企業のメリット・デメリット

メリット

日当のメリットは、「節税対策になる」ということです。

  • 【法人税】
    出張時に支払う日当は、出張経費と同じく損益算入することができます。そのため、会社の支出が増えても法人税は節税することができます。
  • 【消費税】
    日当は、経営に必要な商品やサービスの購入費として課税仕入れとみなされます。消費税の計算上、課税仕入れは課税売上から控除されるため、消費税を節税できます。
  • 【社会保険料】
    日当は「手当」であり、社会保険料の算定基礎となる「賃金」には含まれません。そのため、社会保険料を安く抑えることができます。

デメリット

日当のデメリットは、「コストの増加」です。
日当は基本的に全社員が支給対象になるため、出張の頻度や支給額によってはいきなり支出が増えてしまうおそれがあります。

また、役職によって支給額を変えている場合、1回の出張で相当な金額になる可能性もあります。
あらかじめコストを計算し、適切な金額を検討したうえで導入するのが良いでしょう。

また、「出張旅費規程の作成」には手間や時間がかかります。就業規則の変更にあたるため、労働者の意見聴取や変更届の提出など、さまざまな手続きが必要となります。

日当の相場と定め方

日当の相場は、役職によって以下のように異なります(参照:産労総合研究所「2019年度国内・海外出張旅費に関する調査」)。

役職 日当の相場
社長 4458円
専務 3781円
常務 3716円
取締役 3613円
部長クラス 2666円
課長クラス 2479円
係長クラス 2224円
一般社員 2094円

もっとも、日当の金額にきまりはないため、会社が自由に決めることができます。相場を参考に、自社の状況に合った金額を定めるのが良いでしょう。

ただし、相場を大きく外れた金額にする際は注意が必要です。
高額すぎると、コストがかさみ経営状況が悪化するおそれがあるためです。また、税務署から指摘が入り、課税対象となるリスクもあります。

一方、低額すぎると、日当の意味をなさず労働者の不満やモチベーション低下を招く可能性があります。

日当が非課税として認められるための条件

出張に対する日当のうち、“通常認められるもの”については、所得税が非課税となります(所得税法9条4号)。非課税対象と認められるための条件は、以下の2点です。

(ア)「出張旅費規程」が作成されており、【日当】の支給についてルール化されていること
(イ)「出張旅費規程」に沿った運用で【日当】が支給されていること

支給額の設定が必要以上に高額であると、税務署に、不正に収入を増やそうとしているものとみなされ、課税対象となるおそれがあります。この点、“高額”の判定に明確な基準はないものの、万が一指摘が入った場合に正当な支出であることを主張できるよう、「出張報告書」等を作成し、記録を残しておくことが望ましいでしょう。

トラブルを回避するためには出張報告書が重要

税務署に「納税逃れのための“カラ出張”だ」と疑われないよう、出張が生じた際は、労働者に「出張報告書」を記録してもらいましょう。

「出張報告書」には、出張の日程、出張先、出張の目的などを記載し、より説得力をもたせるためのものです。規程に領収書添付を定めている場合は、原本を添付のうえ提出してもらいます。

派遣労働者の日当について

派遣労働者が出張した場合、日当は派遣元会社が支払います。また、支給額も派遣元の規定に従うのが基本です。
もっとも、日当を派遣料金に上乗せするかは、派遣元と派遣先の契約によって決定します。上乗せする旨の規定がなければ、派遣先が日当を支払う必要はありません。

トラブルになりやすいのは、派遣先の社員と派遣労働者が一緒に出張したケースです。この場合、派遣先の日当の方が高額だと、派遣労働者が不公平感を抱きやすいためです。
派遣労働者の待遇を決める際は、派遣先の社員の水準も考慮したうえで決めるのが望ましいでしょう。

海外出張の日当について

地域別の一般社員の平均日当支給額は、以下のとおりです(参照:産労総合研究所「2019年度国内・海外出張旅費に関する調査」)。なお、データには8つの地域ごとの金額が示されていますが、最も低額な中国地域、平均的な北米地域、最も高額なロシア地域を抜粋しました。

出張先 平均日当支給額
中国地域 4514円
北米地域 4913円
ロシア地域 4791円

国内日帰り出張の一般社員の平均支給額が2094円だったのに対し、宿泊が伴う海外出張では2倍以上の金額が設定されていることがわかります。
これは、国内出張に比べて心身の負担が増大すること国内出張には生じない諸雑費・金額が発生する可能性などを考慮し、設定されているものと考えられます。

また、渡航先によって予防接種や各種検査を要したり、海外旅行傷害保険に加入したりする場合には、別途“支度金”の支給をすることも可能です。

このように、海外出張の場合は支出額が大きくなるため、節税効果もより大きくなりますが、それに伴って税務調査も厳しくなることが予想されます。国内用とは別に、海外出張用の「出張旅費規程」をしっかり作成することも有用です。

出張期間中に休日がある場合の日当

出張が長期に及ぶなどして、期間中に休日をはさむケースもあります。
出張期間中の休日に日当を支給するかどうかは「出張旅費規程」で自由に設定できますが、休日は業務を行わないため、支給する際は業務との関連性補填の必要性などが問われるでしょう。

また、課税対象か、非課税対象か争われるおそれもあります。非課税対象となるのは、出張中の諸雑費として“通常認められるもの”に限られるためです。

以下のページでは、“休日”の定義や、“休日”にまつわる諸問題について解説しています。ぜひこちらもご覧ください。

休日について

日当の不正取得に対する懲戒処分の可否

実際に出張していないにもかかわらず、労働者が出張申請を行い、日当を不正に取得したことが当事者の証言や具体的・客観的な証拠によって判明したときには、就業規則等の懲戒規程に照らして相当と認められる処分を行うことができます(労契法15条)。

故意か過失か、また、不正取得した金額や不正を行った回数、期間、当該労働者の会社への貢献度等が、処分の程度を決定する要素となります。

懲戒処分に関する詳しい解説は、以下のページに譲ります。

懲戒処分について
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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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