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高齢者雇用

定年後再雇用において給与や賞与の格差が問題となった最高裁判決についてYouTubeで配信しています。

最高裁は、正社員と嘱託社員である被上告人らとの間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違について、各基本給の性質やこれを支給することとされた目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法があるとして、破棄し、原審に差し戻しました。

動画では、定年後再雇用の問題がなぜ旧労働契約法20条の問題になるのかも含め、基本給に関する最高裁判決の内容を解説しています。

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弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

高年齢者雇用安定法は、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の略称であり、定年の引き上げ、継続雇用制度の導入により高齢者の安定的な雇用や再就職を促進し、定年退職者その他の高齢者の就業の機会を確保することを目的としています。

少子化のために、労働者として若年層を確保することは難しくなっています。企業は、従来ならば定年により退職していた高齢者であっても、労働者として確保することが必要となっているため、どのように雇用を継続するのかを検討するようにしましょう。

この記事では、高年齢者雇用安定法の概要や近年の改正内容などについて解説します。

高年齢者雇用安定法とは

高年齢者雇用安定法とはわかりやすくいうと、働く意欲のある高年齢者が能力を発揮して活躍できる環境を整備するための法律です。
そのために、高年齢者雇用安定法9条によって、定年年齢を65歳未満としている企業は、65歳以上になるまで希望する場合には、雇用を継続する措置などを取ることを求めています。

就労の意欲が十分な高齢者の労働力を活用するとともに、公的年金の支給年齢の引き上げなどに対応するためにも、高齢者が働く機会を確保する必要性は高まってきています。そのため、70歳までの雇用の維持に努めることも求められています。

高年齢者雇用安定法の改正

2012年改正(2013年施行) 2020年改正(2021年施行)
名称 高年齢者雇用確保措置 高年齢者就業確保措置
年齢 65歳までの雇用機会の確保 70歳までの就労機会の確保
義務 義務 努力義務
定年の引き上げ
  • 60歳未満の定年の禁止
  • 65歳以上までの引き上げを選択できる
70歳以上までの引き上げを選択できる
継続雇用制度の導入 65歳までの継続雇用を選択できる 70歳までの継続雇用を選択できる
定年廃止 選択できる 選択できる
創業支援措置 選択できない 選択できる

高年齢者雇用安定法は、2012年と2020年に改正されて、それぞれ2013年と2021年に施行されています。
2012年改正では、65歳までの雇用機会を確保する義務が課せられましたが、2020年改正では、70歳までの就労機会を確保する努力義務が課せられています。

2012年改正

高年齢者雇用安定法が2012年に改正されて、65歳までの労働者について雇用確保措置をとることを企業に義務づける内容の改正法が施行されました。

改正の中心は、企業に対して雇用確保措置をとることを義務化したことです。
具体的には、企業は①定年の延長、②継続雇用制度、③定年制の廃止のいずれかを選択しなければなりません。

さらに、継続雇用制度を採用する場合に対象者を限定できる仕組みを廃止し、義務違反があった場合の制裁措置として企業名の公表がなされることが規定されました。

2020年改正、2021年4月施行

高年齢者雇用安定法が2020年に改正されて、2021年4月に施行されました。この改正では、70歳までの労働者について就労確保措置をとることの努力義務が企業に課せられています。

企業が自ら雇用する努力義務ではないため、70歳以上への定年年齢の引き上げや継続雇用制度の導入、定年の廃止だけでなく、創業支援措置を選択することもできるようになりました。

高年齢者雇用安定法(2021年4月施行)のポイント

2021年4月に施行された高年齢者雇用安定法により、次のような就業機会確保措置を行うことが努力義務とされています。

  • ①70歳までの定年引上げ
  • ②定年制の廃止
  • ③70歳までの継続雇用制度の導入
  • ④創業支援等措置

これらの措置について、以下で解説します。

70歳までの定年引上げ

定年とは、労働者が一定の年齢に到達すると労働契約を終了させる企業の定めです。60歳未満の年齢を定年とすることは、2012年の高年齢者雇用安定法の改正によって禁止されました。

また、2012年の改正により、高年齢者雇用確保措置の選択肢として65歳までの定年年齢の引き上げが含まれるようになり、2020年の改正により、高年齢者就業確保措置の選択肢として70歳までの定年年齢の引き上げが含まれるようになりました。

70歳を定年にする場合、就業規則には定年について次のように定めます。

就業規則(例)
(定年)第〇条

労働者は満70歳に達した日の属する月の末日をもって、定年により退職とする。

詳細については以下のリンク先にてご確認ください。

高年齢者雇用安定法改正による「定年の引き上げ」について

定年制の廃止

定年制の廃止とは、企業が定年制を廃止して、高齢になっても労働契約を継続することです。
その結果、高齢の労働者との労働契約を終了させるためには、合意による解消又は解雇措置のいずれかが必要となります。

定年を廃止するメリットとしては、次のものが挙げられます。

  • ①高い技術を有する労働者を継続して雇用できるため、安定的な業務運営が可能となる
  • ②新しい人材を採用する費用や育成する費用を削減できる

他方、デメリットとしては、次のものが挙げられます。

  • ①年功序列型の人事体系では、高齢者の賃金が増大し、人件費が上昇してしまう
  • ②高齢労働者を解雇するときには、解雇権濫用法理により規制がかかってしまう
  • ③労働力の中心が高齢者に傾いてしまい、人材の新陳代謝が遅くなる

なお、定年制について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

定年制とは

70歳までの継続雇用制度の導入

継続雇用制度とは、次の2つの制度に分けられるものです。

  • 再雇用制度
  • 勤務延長制度

「再雇用制度」であれば、労働者に一旦退職してもらい、新しく労働契約を締結しなおすことになります。一方で、「勤務延長制度」であれば、労働者は退職しないまま働き続けることになります。

継続雇用制度について、さらに詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

高齢者の継続雇用制度

創業支援等措置

創業支援等措置とは、労働者が70歳まで就業する機会を確保するために、業務委託契約を締結する等して働く仕組みを整えるための措置です。
具体的には、次のような措置をとります。

  • 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  • 70歳まで継続的に社会貢献事業などに従事できる制度の導入

これらの制度により、労働者はフリーランスの立場になって、自社又は事業主が委託等をする団体と契約して働き続けることができるようになります。

義務違反の企業に対する公表規定

高年齢者雇用安定法9条1項各号に定める高年齢者雇用確保措置を実施しない企業は、厚生労働大臣による勧告と指導を受けることがあります(同法10条1項)。

当該助言又は指導がされたにもかかわらず、なお当該企業に同項違反の事実が認められる場合には勧告を受けることがあり、それに従わないときは企業名が公表されることがあります。

もしも企業名が公表されてしまうと、企業のイメージが低下してしまうおそれがあります。違反の是正は、企業が直ちに実施する必要がありますのでご注意ください。

高年齢者雇用安定法第9条の私法的効力

高年齢者雇用安定法9条は、私法上の効力を有しておらず、労働者の権利を生み出すものではないため、労働者から企業に対して「定年の廃止」や「継続雇用制度の導入」を請求することは基本的に認められないと考えられます。

ただし、企業名の公表などによってイメージが悪化してしまうと、採用が難しくなったり、労働者のモチベーションが低下して退職につながったりするおそれがあります。
決して安易に考えず、義務を果たすようにしましょう。

高年齢社雇用安定法9条の私法的効力が争点となった判例

過去の裁判例においては、以下のような判断がなされています。

通信会社の労働者が、当該会社が定年後の雇用継続措置を取らなかったことが、高年齢者雇用安定法9条に違反し不法行為責任を生じさせると主張した事例において、当該法律は私法上の効果を認めたものではないとして、その請求を棄却する判断がなされました(大阪高等裁判所平成21年11月21日判決)。

その他、労働者が、会社に対し、会社が定年後の再雇用における現役時代よりも賃金を減額したことが、高年齢者雇用安定法の趣旨に反すると主張して、現役時代との差額を請求した事例において、裁判所は、高年齢者雇用安定法の私法上の効力を否定して、当該請求を棄却する判断を行ったこともありました(平成22年3月22日高松高等裁判所判決)。

なお、後者の事例については、今後は、正社員と定年後の嘱託社員(有期雇用)との間の同一労働同一賃金の問題になっていくと考えられます。

高年齢者の再就職の援助

企業には、高年齢者雇用安定法11条に基づき、同法9条1項の定年等の事由により退職することとなる高齢者が再就職できるようにするために、再雇用の機会付与、そのための職業訓練又は求人の開拓等を行うように努める義務が課されています。

詳細は下記のリンク先にてご確認ください。

事業主が講ずるべき高齢者に対する再就職支援

高年齢者雇用に関する届出

常時雇用する従業員が31人以上の企業では、「高年齢者雇用状況等報告書」を毎年7月15日までに、管轄のハローワークに提出しなければなりません。

また、65歳以上70歳未満で事業主の事情により離職する労働者が、70歳未満で解雇される労働者などと合わせて5人以上になるときには、「多数離職届」を管轄のハローワークに提出しなければなりません。

高年齢者の雇用管理に関する措置

「高年齢者等職業安定対策基本方針」では、企業には、高年齢者がその意欲と能力に応じて65歳まで働くことができる環境の整備を図るため、できるだけ早く、必要な措置を講ずる努力義務があると規定されました。

特に、企業が継続雇用制度を導入する場合には、原則として希望者全員を対象とする制度としなければならない旨が定められています。

事業主に給付される「65歳超雇用推進助成金」

制度の概要として、65歳超雇用推進助成金(以下「本助成金」といいます)は、65歳以上への定年引き上げや高年齢者の雇用管理制度の整備等、高年齢の有期契約労働者の無期雇用への転換を行う事業主に対して助成するものです。

意欲と能力のある高年齢者が、年齢に関係なく働くことができる「生涯現役社会」の実現を目的としています。

本助成金は、次の3コースで構成されています。

  • ①65歳超継続雇用促進コース
  • ②高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
  • ③高年齢者無期雇用転換コース

なお、以下の内容は2020年2月時点の内容をもとに記載していますが、助成金の支給内容については、年度ごとに見直されることがありますのでご注意ください。

65歳超継続雇用促進コース

実施した措置の内容や定年等の年齢の引き上げ幅、60歳以上の雇用保険被保険者数に応じて支給するコースです。

受給要件

【積極要件】
  • 労働協約又は就業規則により、①65歳以上への定年引き上げ②希望者全員を66歳以上まで雇用する継続雇用制度の導入③定年の定めの廃止のいずれかに該当する制度を実施したこと
  • Aの制度を規定した際に経費を要したこと
  • Aの制度を規定した労働協約又は就業規則を整備していること
  • 高年齢者雇用推進員の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置を実施している事業主であること
  • 支給申請日の前日において、当該事業主に1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者(例外あり)が1人以上いること
【消極要件】

Aの制度の実施日から起算して1年前の日から支給申請日までの間に、高年齢者雇用安定法8条又は9条1項の規定に違反していないこと。

高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

以下の要件を満たした場合には、支出経費の最大75%まで助成するというコースです。

受給要件

  • 高年齢者の雇用管理制度の整備等に係る措置を労働協約又は就業規則に定めていること
  • 次の(A)~(B)によって実施した場合に受給することができます。
(A)雇用管理整備計画の認定

高年齢者のための雇用管理制度の整備等のため、次の取組に係る「雇用管理整備計画」を作成し、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の理事長に提出してその認定を受けること

※「雇用管理整備計画」
高年齢者の雇用の機会を増大するための能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入または医師もしくは歯科医師による健康診断を実施するための制度の導入

(B)高年齢者雇用管理整備の措置の実施

(A)の雇用管理整備計画に基づき、同計画の実施期間内に高年齢者雇用管理整備の措置を実施すること

高年齢者無期雇用転換コース

50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者の無期雇用労働者への転換を実施した場合に受給することができるコースです。

受給要件

  • 50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者に対し
  • Aの労働者を無期雇用労働者への転換を実施し、
  • その際に以下の(A)及び’(B)の要件を満たすこと
(A)無期雇用転換計画の認定

「無期雇用転換計画」を作成し、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長に提出してその認定を受けること。

(B)無期雇用転換措置の実施

(A)の無期雇用転換計画に基づき、当該計画の実施期間中に、高年齢の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換すること。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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