障害者雇用の届出
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
毎年6月1日の時点で1人以上の障害者を雇う義務のある事業者は、障害者雇用促進法において「障害者雇用状況報告書」を提出する義務が定められています。この報告書は、毎年7月15日までに、管轄のハローワークに対して届け出なければなりません。
届出に必要な情報を収集するときには、自社の環境が障害者にとって働きやすくなっているかを確認し、必要な取り組みを進めていくようにすることが望ましいでしょう。
このページでは、届出を行うことの意義や、報告書に記載するべき内容等について解説します。
目次
障害者雇用状況報告の届出の意義
一定数(現在、民間の事業者は43.5人以上)の常用雇用労働者を擁する事業主には、毎年6月1日時点で、雇用している障害者の人数など、障害者の雇用に関する状況を、ハローワークに報告しなければなりません(障害者雇用促進法43条7項)。
この報告は、「障害者雇用状況報告書」を届け出ることによって行います。
障害者の雇用状況や、法定雇用率の達成状況の確認が「障害者雇用状況報告書」の届出の主な目的です。
報告書の内容は、障害者雇用の促進に関する施策づくりや、ハローワーク等から企業への助言・指導などに活用されます。
届出が必要となる事業主
「障害者雇用状況報告書」の届出が必要になるのは、常用雇用労働者を43.5人以上使用している企業です。
民間企業の事業主は、常用雇用労働者における障害者の雇用割合を、法定雇用率2.3%以上にしなければならないと義務付けられています。
そのため、障害者を1人以上雇用し、障害者の雇用について届け出なければならないのは以下の式により43.5人以上を雇っている企業ということになります。
1人÷2.3%=43.5人
なお、現時点で、43.5人に満たない常用雇用労働者を使用する企業は、届出の義務はありません。法定雇用率については、今後も変更される可能性が大いにありますので、最新の数値を確認することも重要になります。
障害者雇用状況報告書の記載内容
「障害者雇用状況報告書」は、基本的に厚生労働省が定めた様式の用紙がハローワークから送られてくるので、郵送や持参、電子申請によって提出します。主な記載内容は、以下のとおりです。
- 事業主等の基本情報
- 雇用の状況
(常用雇用労働者の人数、対象障害者の人数、除外率、実雇用率等) - 事業所別の内訳
- 障害者雇用推進者
詳しくは、厚生労働省のホームページからダウンロードできる書式をご覧ください。
障害者雇用状況報告書及び記入要領等 | 厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaisha-koyou_00002.html
では、上記の中からいくつかピックアップして、具体的に記載すべき内容を見ていきましょう。
事業主等の基本情報
「障害者雇用状況報告書」の上部には、事業主にかかわる基本情報の記載欄があります。具体的には、次のような項目について記載する必要があります。
- 法人名称または代表者氏名
- 住所(法人の場合、主たる事業所の所在地)
- 事業の種類
- 産業分類番号
- 事業所の数
障害者雇用率
常用雇用労働者を43.5人以上雇用している企業では、対象障害者の雇用割合、すなわち障害者雇用率を、法定雇用率以上にしなければなりません。
「障害者雇用状況報告書」には、当該企業における障害者雇用率が法定雇用率を上回っているかどうか、あるいは下回っている場合に、何人分の雇用が不足しているのかを確認できる項目が設けられています。
企業の障害者雇用率の計算方法などが知りたい方は、以下のページで詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
障害者雇用納付金の申告
常用雇用労働者の総数が100人を超える月が、年度内に5回以上ある企業の事業主は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構に「障害者雇用納付金」の申告を行わなければなりません(障害者雇用促進法56条1項)。
併せて、法定雇用障害者数を下回る場合は納付金の納付を、反対に上回る場合は調整金や報奨金の支給申請を行います。
以下のページでは、「障害者納付金」制度の仕組みや、納付金、調整金、報奨金の金額などについて、さらに詳しく解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。
報告を怠った場合の罰則
対象障害者の雇用義務を負う事業主が、ハローワークへの雇用状況の報告を怠った、あるいは虚偽の報告をした場合には、事業主に30万円以下の罰金が科せられます(障害者雇用促進法86条1号)。
障害者雇用状況報告以外の届出
障害者雇用状況報告以外にも、雇っている障害者の人数が増えたときや障害者を解雇するときには、届け出る必要が生じることがあります。
届出を行うべき状況について、以下で解説します。
障害者職業生活相談員の選任の届出
事業主は、事業所における対象障害者の雇用が5人以上になった日から3ヶ月以内に「障害者職業生活相談員」を選任し(障害者雇用促進法79条1項)、その旨をハローワークに届け出なければなりません。
障害者の仕事や生活面などの相談に乗ったり、指導を行ったりする役割を担う「障害者職業生活相談員」についての詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
障害者を解雇する場合の届出
労働者に責任がある場合の解雇や、天災地変、そのほかのやむを得ない理由により事業継続ができなくなった場合の解雇を除き、障害者を解雇しようとする場合、事業主はその旨を速やかにハローワークへ届け出なければなりません(障害者雇用促進法81条1項)。
一般に、障害者は次の就職先が見つからず、就職活動が難航するケースが見られます。そのため、この届出を受けたハローワークがいち早く、個々の障害の特性に応じた適当な求人の開拓や職業指導など、再就職に向けた支援を行うことを目的としています。
以下のページでは、障害者の解雇を検討する際の留意事項や、障害者解雇届の記載内容などについて解説していますので、ぜひこちらも併せてご覧ください。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある