障害者トライアル雇用とは|助成金や申請の流れ
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
このページでは、障害がある方の社会参加を後押しする「障害者トライアル雇用」制度について、その概要や手続きの流れ、積極的な活用により得られる助成金などをメインに解説していきます。
障害者雇用の拡大を目指す会社にとって、「障害者トライアル雇用」制度を利用することで、障害の特性ごとに、自社のどんな業務に携わってもらうのが有益か検討することができ、また、障害者雇用促進の一助となることが期待されます。
目次
障害者トライアル雇用とは
障害者トライアル雇用とは、就職が困難な障害者を原則3ヶ月間、「試しに」雇用することにより、継続雇用のきっかけを作ることを目的とした制度です。この間に、企業側は適性やスキルを見極め、障害のある労働者は就職のチャンスを得られます。
障害者トライアル雇用制度の利用により、障害者雇用の実績が少なく不安がある企業は、理解を深めるための機会を得ることができます。また、障害をもつ求職者は、携わる業務の内容や職場環境をあらかじめ確認することができるため、双方にメリットがある制度といえるでしょう。
トライアル雇用期間中は、労働の対価として給料を支払う必要があります。また、一定の要件を満たした場合は、社会保険(健康保険・厚生年金)や雇用保険に加入させなければなりません。
その他のトライアル雇用についても知りたい方は、以下のページをご参照下さい。
障害者トライアル雇用の対象者
「障害者トライアル雇用」の対象者は、障害者雇用促進法2条で定められた「障害者」であり、障害の原因や種類は問いません。また、以下の①②の要件をいずれも満たすことが必要です。
- ①継続雇用する労働者としての雇入れを希望している者であって、障害者トライアル雇用制度を理解し、障害者トライアル雇用による雇入れについても希望している者
- ②障害者雇用促進法で定める障害者のうち、次の(ア)~(エ)のいずれかにあてはまる者
- (ア)紹介日の時点で、就労経験がない職業に就くことを希望する者
- (イ)紹介日の前日時点で、過去2年以内に2回以上離職や転職を繰り返している者
- (ウ)紹介日の前日時点で、離職している期間が6ヶ月を超えている者
- (エ)重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者
以下のページでは、障害者雇用促進法2条で定められている「障害者」について詳しく解説しています。こちらも併せてご覧ください。
障害者トライアル雇用の雇入れ条件
対象者を雇入れ、「障害者トライアル雇用」を行うためには、次の2つの条件を満たす必要があります。
- ①ハローワークや民間の職業紹介事業者などの紹介による雇入れであること。
- ②「障害者トライアル雇用」期間について、雇用保険被保険者資格取得を届け出ること。
助成金の受給額
「障害者トライアル雇用」を利用して、障害者を雇入れた場合は、対象者1人あたり月額最大4万円、最長3ヶ月間、助成金を受け取ることができます。これにより、企業が障害者雇用へ積極的に取り組むことが期待されています。
また、制度を利用して精神障害者を雇用した場合は、最初の3ヶ月は1人あたり月額最大8万円、その後3ヶ月は最大4万円の支給になります。精神障害者のトライアル雇用期間は6~12ヶ月とすることが原則ですが、助成金支給の対象期間は最長6ヶ月であることがポイントです。
なお、令和3年4月より、障害者がテレワーク勤務を行う場合は、原則3ヶ月のトライアル雇用期間を最長6ヶ月まで延長することが可能となりました。ただし、助成金の受給額の変更はなく、期間延長分の支給はありません。
障害者の在宅勤務については、以下のページで詳しく解説しています。
障害者短時間トライアル雇用とは
精神障害あるいは発達障害がある方の中には、週20時間以上の勤務をすることは難しいというケースもあります。
この場合、短時間勤務(週10時間以上20時間未満)から始め、職場への適応状況や当該労働者の体調などに応じて、トライアル雇用期間中に20時間以上の就労を目指す「障害者短時間トライアル雇用」制度もあります。
障害者短時間トライアル雇用の対象者
精神障害、あるいは発達障害がある者のなかで、継続して雇用される労働者として雇入れられることを希望し、また、「障害者短時間トライアル雇用」制度を理解したうえで、当該制度を利用した雇入れを希望している者が対象となります。
障害者短時間トライアル雇用の雇入れ条件
対象者を「障害者短時間トライアル雇用」によって雇入れるには、次の2つが条件となります。
- ①ハローワークや民間の職業紹介事業者等の紹介による雇入れであること
- ②3ヶ月以上12ヶ月以内の範囲で雇用期間を設定すること。
助成金の受給額
「障害者短時間トライアル雇用」を活用した場合に企業に支給される助成金支給額は、対象者1人あたり月額最大4万円で、支給対象期間は最大12ヶ月となっています。
障害者トライアル雇用するメリット・デメリット
障害者トライアル雇用を行う、企業側のメリット・デメリットとして以下が挙げられます。
【メリット】
- 業務の適正やスキル、受け入れに必要な支援措置などをあらかじめ確認できる
- ミスマッチを早期に発見し、早期離職を防げる
- 求職者の勤務への不安を解消できるため、就職率アップにつながる
- 任期満了後の契約解除が容易にできる
- 助成金によって、雇用にかかるコストを削減できる
- 離職率の高い精神障害者を低リスクで雇用することができる
【デメリット】
- 仕事にブランクのある者が多いため、現場での仕事に慣れさせるまでに時間がかかる
- 障害者に教育担当者を付ける必要があるため、人的労力がかかる
- 助成金を受給するための書類作成やスケジュール管理に手間がかかる
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障害者トライアル雇用の流れ
- ハローワークへの求人の申し込み
- 求職者の面接・採用
- 実施計画書の提出
- 常用雇用への移行
- 結果報告書兼支給申請書の提出
以下で、それぞれの詳細について見ていきましょう。
①ハローワークへ求人の申し込み
ハローワークに「障害者トライアル雇用求人」を申し込みましょう。
ハローワークには障害者窓口があり、専門的な支援体制が整っているため、障害者が求職活動に利用しています。また、求人情報を地方自治体や職業紹介事業者に提供してもらえるサービスもあります。
ハローワークに求人を申し込むためには、あらかじめ事業所登録が必要です。2回目以降の申し込みはネットから可能な場合もありますが、初めて申し込む場合には、窓口での手続きが必要です。
なお、「障害者トライアル雇用併用求人」とは、正規雇用とトライアル雇用を併用した求人のことです。
応募者に十分な経験やスキルがある場合は、最初から正規雇用で採用し、未経験などのため適正を見極めたい場合は、トライアル雇用でお試し期間を設けるという形になります。
②求職者の面接・採用
「障害者トライアル雇用」は、書類選考ではなく面接によって選考するというルールがあります。
そのため、ハローワーク等から求職者を紹介してもらったら、面接をして求職者をトライアル雇用するかどうかを決めます。
なお、求人数を超えた障害者トライアル雇用は認められておらず、求人数が3名に対して、4名以上のトライアル雇用を行って、その中から3名を選んで継続雇用するといった適用は禁止されています。
③実施計画書の提出
企業は、「障害者トライアル雇用」を開始した日から2週間以内に、雇用契約書などの労働条件が確認できる書類を添付した「実施計画書」を提出しなければなりません。
なお、対象者を紹介してくれたのがハローワークかほかの機関かによって、提出先が異なります。
《提出先》
●ハローワークからの紹介 ➡ 対象者を紹介してくれたハローワーク
●地方運輸局からの紹介 ➡ 対象者を紹介してくれた地方運輸局
●民間の職業紹介事業者等からの紹介 ➡ 障害者トライアル雇用を実施する雇用保険適用事業所の所轄の都道府県労働局または事業所所轄のハローワーク(※労働局がハローワークに業務を行わせる場合)
④常用雇用への移行
トライアル雇用期間が終了する前に、常用雇用に移行するか、雇用期間満了にするかを判断しなければなりません。
「障害者トライアル雇用」の対象者との契約を常用雇用に切り替えたい場合は、会社側と対象者との間で本採用後の労働条件について改めて確認したうえで、トライアル雇用期間終了後に、新たに雇用契約を結びます。
これに対し、対象者について残念ながら雇用を継続しないと決めたならば、トライアル雇用期間で雇用契約を終了させることを本人に通知する必要があります。
⑤結果報告書兼支給申請書の提出
トライアル雇用期間が終了した日の翌日から2ヶ月以内に、事業所を管轄するハローワークまたは労働局に障害者トライアル雇用の「結果報告書兼支給申請」を提出すれば、会社は「障害者トライアル雇用の助成金」を受けとることができます。
なお、以下のページでは、トライアル雇用助成金の申請に必要な「実施計画書」や「結果報告書兼支給申請書」の書式をダウンロードすることが可能です。ぜひご活用ください。
トライアル期間中の退職・解雇
労働者が退職を希望する場合
労働者がトライアル雇用期間中に退職を希望する場合は、通常の退職手続きと同じ方法を取り、契約解除となります。
なお、退職を希望する旨(契約解除)の申出は、基本的に、就業規則で定めた期日(定めがなければ退職希望日の2週間前)までになされる必要があるため、申出の後、双方で退職日を調整することになります。もっとも、退職の理由があらかじめ提示された労働条件と実態が異なる場合は、即時解除となることも考えられます(労基法15条2項)。
労働者都合による退職があった場合でも、トライアル雇用助成金の対象になります。ただし、当初予定していた雇用期間よりも短くなるため、助成金も減額されます。具体的には「実際に働いた日数÷勤務を予定していた日数」に応じて支給額が計算されます。
また、途中退職の場合は、助成金の申請期限も繰り上がり、退職日から2ヶ月以内に「結果報告書兼支給申請書」をハローワークまたは労働局へ提出する必要があります。
途中で解雇する場合
トライアル雇用は、本採用を前提にしていなくても、有期労働契約に該当します。
そのため、基本的にやむを得ない事由がなければ、契約期間の満了までに労働者を解雇することができません(労契法17条)。
「やむを得ない事由」の例として、以下が挙げられます。
- 勤務態度が極めて悪い
- 著しい能力不足
- 正当な理由なく無断欠勤や遅刻を繰り返している
- 履歴書等に重大な虚偽の記載があった
- ハラスメントを行った
- 会社の資金を横領した
実際に解雇する場合は、解雇日の30日前までに予告するか、30日分の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。
なお、トライアル期間中に解雇した場合は、たとえ労働者に責任があったとしても、助成金の支給額は減額されます。また、助成金の申請期限も前倒しされ、退職日から2ヶ月以内となります。
もっとも、労働者都合による退職ではなく、会社都合で解雇した場合は、助成金は支給されません。
障害者の解雇について詳しく知りたい方は、以下のページをご参照ください。
障害者トライアル雇用に関する注意点
助成金が減額になるケース
次のいずれかにあてはまる場合には、就労日数に応じた割合で支給額が減額となることが考えられます。
- 「障害者トライアル雇用」における就労が1ヶ月未満の間に離職した場合
- 対象者に責任がある解雇
- 対象者の都合による退職、死亡
- 対象者の死亡
- 天災などやむを得ない事情で事業継続が不可能となった
- トライアル期間中に常用雇用に移行した
- トライアル期間中に休暇の取得や企業の休業があった場合
助成金の支給対象外となる事業主
次に該当する事業主は、助成金の支給対象にならないケースもあります。
1.「障害者トライアル雇用」等を始めた日の前日を起算日とした6ヶ月前の日から終了の日までの間(=基準期間)に、当該制度を行う事業所で、事業主都合により雇用保険被保険者を離職させたことがある。
2.基準期間に、当該制度を行う事業所において、特定受給資格者となる離職理由の中でも、雇用保険離職票の離職区分コード1A(事業所の倒産等)または3A(自己都合退職等)によって離職した人数を、雇用保険被保険者数で除した割合が6%を超える(※離職した人数が3人以下であれば除外)。
3.高年齢者雇用確保措置をとっていなかったために、厚生労働省から高年齢者雇用安定法10条2項に基づく勧告を受けたものの、助成金の支給申請日になっても是正されていない。
4.継続支援事業A型(就職が難しい障害者が事業所と雇用契約を結び、生産活動・職業訓練の提供といった支援をするサービス)を行う事業所である(※対象労働者を施設利用者以外の者として雇用する場合は除外)。
5.障害者トライアル雇用を開始した日の前日から起算して過去3年間に、障害者トライアル雇用等を行ったことがあり、その後継続雇用としなかった障害者(※自己都合退職、障害者本人責任のある解雇等は除外)の数と、助成金支給申請書を届け出ていない対象障害者の数の合計が3人を超え、かつその数が継続雇用とした障害者の数を上回る。
ジョブコーチ支援の併用が可能
ジョブコーチとは、別称を「職場適応援助者」というように、障害者が障害の特性に応じた業務ができるよう、また、職場に定着できるよう、職場適応について支援する者のことをいいます。対象障害者に対してだけでなく、事業主やほかの労働者、対象障害者のご家族に対する支援も行っています。
ジョブコーチと「障害者トライアル雇用」は併用して活用できるため、特に障害者の雇用管理や社内啓発の方法などについて悩みがある事業主にとって非常に有用といえるでしょう。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある