監視・断続的労働従事者
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
監視・断続的業務とは、機器の監視や夜間巡回などを行う特殊な業務を指します。これらの業務は作業等をするために待っている時間が多いため、労働時間が規制されないなど、一般労働者とは異なる労務管理がなされます。
しかし、監視・断続的業務従事者への措置は限定的ですので、必ず認められるとは限りません。また、正しい手順を踏んだうえで適用する必要があります。
本記事では、監視・断続的業務従事者の特徴や具体例、労働時間規制の適用外とするために必要な手続き等を解説します。
目次
監視・断続的労働従事者とは
監視・断続的労働従事者とは、労働基準監督署長の許可を受けて、労働基準法に定められている労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用を除外されている労働者のことです。
つまり、時間外労働の上限や休日という概念がなく、時間外労働や休日労働に対する割増賃金を支給しなくても違法ではなくなります。
これは、監視・断続的業務は労働密度が低く、心身への負担も少ないことから、労働時間を規制しなくても健康上問題ないと考えられるためです。
ただし、監視・断続的業務であるかについては明確な判断が存在しているわけでもないにもかかわらず、適用の有無で労働条件が大きく変わるものであるため、労働基準監督署長の許可を受けなければ適用することはできないこととされています。
監視・断続的業務の内容について、次項より解説します。
監視労働
監視労働とは、以下の2点に該当するものをいいます。
- 一定部署で監視するのが、本来的な業務であること
- 常態的に身体的又は精神的緊張が少ないこと
例えば、門番や座ってメーターを監視する業務などが挙げられます。
これらの業務は、異常が発生しない限り特段作業を必要としないため、一般労働者よりも体力的・精神的負担が少ないといえます。
そのため、通常よりも労働時間を長くしたり、休日を減らしたりしても健康上害はないと考えられています。
断続的労働
断続的労働者とは、以下の3点に該当するものをいいます。
- 実作業が間欠的で、手待時間が多いこと
- 手待時間が実作業時間以上であること
- 実作業時間の合計が8時間を超えないこと
言い換えると、基本的に閑散だが、事故発生に備えて待機しているケースや、勤務時間の半分以上が待機時間というケースがあてはまります。
ここで、「そもそも手待時間に給与は発生するのか」と思われる方もいるでしょう。この点、手待時間は労働時間に含まれるため、賃金も発生するのが基本です。
詳しくは以下のページをご覧ください。
監視・断続的労働従事者に対する労働時間規制の適用除外
労働基準監督署長の許可を得れば、監視・断続的業務従事者について、労働基準法上の労働時間・休憩・休日規定の適用除外とすることができます(労働基準法41条3号)。
よって、1日8時間を超えて働いても残業代は発生しませんし、休日を与えなくても違法ではありません。
ただし、労働基準監督署長の許可を得るときに定めた所定労働時間を超えて勤務した場合、その分の賃金は支払う必要があります。
このとき、所定労働時間超過分の賃金ルールは、労使間で自由に決定することができます(1倍、独自の割増率など)。
なお、監視・断続的業務従事者も、深夜労働(同法37条4項)と有給休暇(同法39条)の規定は適用されます。よって、深夜(22時~5時)に働いた場合は1.25倍以上の割増賃金を支払い、また、勤続年数に応じて有給休暇を付与しなければなりません。
労働基準法の適用除外となる労働者には、他にも「管理監督者」と「機密事務取扱者」がいます。それぞれの詳細は、以下の各ページをご覧ください。
適用除外の対象
労働時間規制等の適用除外となる対象業務について、次項より解説します。
適用除外となる監視・断続的労働従事者の例
ここで、監視・断続的業務の具体例を確認します。
以下の業務に就く場合、労働時間規制等の適用除外にできる可能性があります。
- 守衛や門番
- 学校の用務員
- 重役の専属運転手
- 集合住宅の管理人(住み込みの場合)
- ホテルや寄宿舎の炊事係
- 隔日勤務のビル警備員
ただし、学校の用務員等については労働の実態により、適用除外にできるのかを個別に判断されます。
※その他、以下の要件が定められています。
- 1勤務の拘束時間は24時間以内であること
- 夜間に4時間以上継続した睡眠時間が付与されていること
- 巡回の回数は1勤務10回まで(1回につき1時間・合計6時間以内)であること
- 勤務と勤務の間に20時間以上の休息時間があること
- 月2日以上の休日があること
- 常勤であること
適用除外とならない監視・断続的労働従事者の例
一見すると監視・断続的労働に該当するように思える業務であっても、事故等に巻き込まれるリスクがある業務は、心身への負担が大きいことから除外されています。
また、危険な作業を伴うケースについては、たとえ手待時間が長くても除外されています。
具体的には、次のような業務は監視・断続的労働に該当しません。
- 犯罪人の看視員
- 高価な物品がある場所の監視員
- 交通関係の監視員
- 車両誘導を伴う駐車場の監視員
- プラントにおける計器類の監視員
- ボイラー技士
- 新聞配達員
- タクシー運転手
- 常備消防職員
なお、業務の途中に休憩を何度も挟むなど、人為的に断続性を持たせたとしても監視・断続的労働にはなりません。
部分的な監視・断続的業務の場合
監視・断続的業務従事者は極めて限定的ですので、部分的にこれらの業務を行うだけでは該当しません。
具体的には、1日の中で通常業務と監視・断続的業務をどちらも行う場合、労働基準法の適用除外を受けることはできません。例えば、午前中はデスクワークを行い、午後から監視業務を行うといったケースです。
なお、日又は週単位で通常業務と監視・断続的業務が入れ替わる場合、該当する日や週のみ対象とすることができます。ただし、業務内容や勤務状況をしっかり記録する必要があるでしょう。
最低賃金の減額の特例許可
断続的労働において実作業時間と手待時間が交互に繰り返されている業務については、最低賃金の減額の特例許可を受けることによって、所定労働時間と手待時間の割合に比例して最低賃金を減額することができます。
ただし、最低賃金の減額措置を受けるためには、都道府県労働局長の許可を受けることが必要です。許可を受けずに独断で減額すると違法となるため注意しましょう。
最低賃金制度について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
適用除外許可の申請方法
監視・断続的業務従事者を労働時間規制の適用外とするには、労働基準監督署長の許可を得なければなりません。
許可を受けるためには、労働基準監督署へ適用除外許可申請書を提出しなければなりません。この申請書には、次のような記載項目が設けられています。
- 事業の種類(機械製造業、運輸サービス業など)
- 事業の名称(会社名)
- 事業の所在地(会社の住所)
- 業務の種類(守衛、ビル警備員など)
- 対象人数
- 労働の態様(始業・終業時刻、休憩時間、業務内容、実作業時間など)
また、適用除外申請書には以下の書類も添付する必要があります。
- 労働態様に関する資料(所定労働時間のタイムスケジュール、勤務マニュアル、業務日報、巡回経路図、業務対応件数の統計資料、出勤簿など)
- 対象労働者の労働条件に関する資料(雇用契約書、就業規則、賃金規程など)
※これらの書類を各2部揃え、管轄の労働基準監督署に提出します。
※審査では書類審査の他、労働者個人への聞き取り調査が行われることもあります。
監視・断続的労働従事者と宿日直勤務者の違い
監視・断続的労働従事者と宿日直勤務者の違いとして、次のような通常業務の違いが挙げられます。
- 監視・断続的労働従事者:通常業務が負担の軽いものである
- 宿日直勤務者:通常業務は負担のある業務であり、時間外や休日に負担の軽い宿日直を行っている
宿直や日直で断続的業務を行う労働者についても、行政官庁の許可を得ることで、労働時間規制の適用対象外とすることができます(労働基準法施行規則23条)。
ただし、宿日直の断続的業務は「ほとんど労働する必要がない」ことが前提ですので、かなり限定的に解釈されています。よって、通常業務の延長といえるような内容は認められません。
例えば、次のような業務が断続的業務にあたります。
- 定時的巡回
- 緊急時の電話対応
- 非常事態に備えての待機
詳しくは以下のページで解説していますので、併せてご覧ください。
監視・断続的労働における36協定の必要性
監視・断続的労働について労働基準監督署長の許可を得た場合には、36協定を締結する必要がありません。なぜなら、労働時間や休日に関する規定が適用されないからです。
36協定とは、労働基準法36条に定められている協定であり、法定労働時間を超えた労働や休日労働を可能にするためのものです。
36協定について詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
労働基準法違反に対する罰則
監視・断続的業務従事者についても、労働基準法に違反すれば罰則の対象となります。
【深夜労働の割増賃金や年次有給休暇を与えない場合】
6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金(労働基準法119条)
【行政官庁の許可なく残業代や休日労働手当を不支給にした場合】
6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金(同法119条)
【行政官庁の許可なく週1日の法定休日を与えない場合】
6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金(同法119条)
【付与日から起算して年5日以上の有給休暇を取得させなかった場合】
該当者1人につき30万円以下の罰金(同法120条)
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある