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労働委員会とは|4つの役割・種類・構成について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

使用者と労働者の間で発生した労働トラブルは、公平・中立の立場から解決案を導いてくれる労働委員会を挟むことによってスムーズに解決できる可能性があります。

このページでは、労働委員会とはどのような組織なのか、具体的にどのような手続きを行ってくれるのか等についてわかりやすく解説していきます。

労働委員会とは

労働委員会は、労働者が団結することを擁護し、労働関係の公正な調整を図ることを目的と設置された機関です。
労働組合法に基づいて設置されています。

労使交渉が決裂してしまった場合等、当事者だけで解決することが難しいときには、公平で中立な第三者として設置された労働委員会が利用されます。

例えば、次のようなときに労働委員会を利用すると良いでしょう。

  • 経営状況の悪化により賃金の引き下げを求めたいが、労働組合が拒否を続けている
  • 巨額の赤字によりボーナスを支給できないが、労働組合は増額して支給せよという要求を続けている
  • 希望退職者を募るために団体交渉を申し入れたところ、交渉を拒否されてしまった

労働委員会には、次の2種類があります。

  • 中央労働委員会(国の機関)
  • 都道府県労働委員会(都道府県の期間)

なお、労働委員会は基本的に無料で利用することができます。

中央労働委員会

中央労働委員会は、国が主体となって運営する機関です。主に以下のような業務を担っています。

  • 複数県にまたぐ紛争や、全国的に重要な紛争の調整又は審査
  • 特定独立行政法人等の職員に係る労働紛争の調整又は審査
  • 都道府県労働局が下した不当労働行為の判定・労働組合資格審査の決定・救済命令の再審査(不服申立てがあった場合)
  • 労働委員会規則の制定といった事務手続き

一方、賃金の未払いや不当な時間外労働などの労働基準法違反については、労働委員会ではなく労働基準監督署の管轄となります。したがって、労働委員会から企業に監督指導することはできません。

都道府県労働委員会

都道府県労働委員会は、各都道府県に設けられた機関です。主に以下のような業務を担っています。

  • 都道府県内で発生した労働紛争の調整
  • 労働組合に対する不当労働行為の審査・判定
  • 不当労働行為の救済命令
  • 労働組合の資格審査

なお、労働委員会の手続きを利用できるのは、労使間の話し合いが行き詰まり、自主的な解決が難しい場合に限られます。よって、まずは労使だけで話し合い、解決を試みる必要があります。

また、中央労働委員会と同じく、労働基準法違反に関する事案は取り扱っていません。法令違反がある場合、使用者を管轄する労働基準監督署にご相談ください。

労働委員会の構成

労働委員会は、公益委員・労働者委員・使用者委員による合議制がとられており、それぞれ同人数で構成されています。
それぞれの立場を代表する三者によって構成することで、当事者全員の事情を汲み取った解決策を考案することが可能となります。

なお、委員の人数は労働委員会によって異なりますが、それぞれ5~10名というのが一般的です。
各委員に選ばれる者については、表でご確認ください。

公益委員 弁護士や大学教授など、労働問題に詳しい第三者
労働者委員 労働組合役員など、労働者を代表する委員
使用者委員 企業経営者や使用者団体の役員など、使用者を代表する委員

労働委員会の役割

労働委員会の役割は、次の5つに分けられます。

  • 労働争議の調整(あっせん・調停・仲裁)
  • 不当労働行為の審査
  • 労働組合の資格審査
  • 争議行為の予告通知
  • 個別労働関係紛争の解決

労働委員会は、基本的にこれらの手続きをすべて無料で行っています。それぞれの詳細について、次項からみていきましょう。

労働争議の調整 (あっせん・調停・仲裁)

労働委員会は、主に「集団的労働紛争」に対応し、あっせん・調停・仲裁という3つの手続きによって解決を図ります。したがって、個々の労働者は基本的に申請することができません。

ただし、「個別労働紛争」でも、あっせん手続きであれば利用できる可能性があります。もっとも、都道府県によって利用条件や申請方法が異なるため、事前に確認が必要です。

労働委員会の手続きの対象となる事例として、次のものが挙げられます。

  • 賃金の引き下げ
  • 賞与の不支給
  • 労働者の解雇
  • 労働組合の事務所の移転
  • 団体交渉の方法や日程が決まらない

集団的労働紛争を解決するための手続きについては、表でご確認ください。

あっせん
  • あっせん員が当事者の間に立ち、話し合いによる解決をサポートする
  • あっせん員が当事者の主張を聞き、あっせん案を提示する
  • 当事者いずれかの申請によって開始できる
  • あっせん案を受諾するかは当事者に委ねられている
調停
  • 調停委員が双方の主張を踏まえたうえで調停案を作成し、合意を促す
  • 基本的には当事者双方からの申請により開始する
  • 合意することを勧められるが、合意しなければ調停不成立で終わる
仲裁
  • 紛争の解決を仲裁委員の判断に委ねる
  • 仲裁委員が当事者双方の意見を聴き、妥当な解決策を検討する
  • 仲裁委員が仲裁裁定書を作成し、当事者に交付する
  • 仲裁裁定書は当事者を拘束し、当事者が異議や不服を申し立てることはできない
  • 当事者双方からの申請により開始する

不当労働行為の審査・救済命令

不当労働行為とは、簡単にいうと労働組合の活動を妨害する行為です。
次のような言動は、不当労働行為として禁止されています。

  • 不利益取扱い(組合員であることを理由に賃下げする等)
  • 団体交渉拒否(団体交渉の申入れを正当な理由なく拒否する等)
  • 支配介入(労働組合の結成を非難する等)
  • 経費援助(労働組合に多額の金銭を支給する等)
  • 黄犬契約(労働組合に加入しないことを条件に労働者を採用する等)
  • 報復的不利益取扱い(労働委員会への申立てを行ったことを理由に解雇する等)

使用者による不当労働行為の審査は、労働者からの申立てによって行われます。
審査では、公開の場で証人に尋問を行って、事実確認や証拠調べも行います。

結果として、不当労働行為があったと判断された場合には救済命令が発せられ、権利が回復されます。一方で、不当労働行為がなかったと判断された場合には棄却命令が発せられます。
解決が見込める場合には、途中で和解を勧められることもあります。

命令に不服がある場合には、中央委員会に再審査申し立てができます。申立ては命令の交付日の翌日から数えて15日以内に行います。
再審査の結果や当初の命令に不服がある場合には、地方裁判所において取消訴訟をすることも可能です。

不当労働行為について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

不当労働行為とは

労働組合の資格審査

労働組合の資格審査とは、労働組合が法定の資格要件を満たしているか審査することです。

通常、労働組合は自由に組織・運営できるため、設立しても届出義務はありません。しかし、労働組合が一定の手続きを行う場合、その都度労働委員会による資格審査を受ける必要があります。

審査の申請が必要な“一定の手続き”については、労働組合法で以下のとおり定められています。

  • 不当労働行為の救済を申し立てるとき
  • 労働委員会の労働者委員候補者を推薦するとき
  • 法人登記をするため、資格証明書の交付を受けるとき
  • 労働協約の拡張適用を申し立てるとき
  • 労働者供給事業の許可申請を行うとき

また、資格要件としては、労働組合の自主性(使用者からの資金援助がない等)と民主性(役員の選出方法等)が定められています。

 

実際の資格審査では、労働委員会が事業所へ出向いて調査を行うのが一般的です。使用者に聴き取り調査を行う場合もあるため、しっかり対応しましょう。

調査の結果、労働組合が資格要件を満たしていれば資格証明書が交付されます。一方、要件を満たさない場合、改善を求める「補正勧告」や「不適合決定」が行われます。

個別労働関係紛争のあっせん

個別労働紛争のあっせんとは、使用者と労働者(個人)との間に発生した労働条件などのトラブルについて、解決を手伝うための手続きです。
個別労働紛争のあっせんでは、基本的に公益委員・労働者委員・使用者委員が1名ずつあっせん員として指名され、あっせん案を提示してもらえます。

使用者があっせん個別労働紛争のあっせんを利用できるのは、次のようなケースです。

  • 労働者に配転命令を出したが、引っ越すのが嫌だという理由で拒否された
  • 労働者から退職金の引き上げを繰り返し要求されている
  • 労働者の重大なミスについて、発生した損害の一部を請求したが拒否された

なお、労働委員会以外の機関でも、個別労働紛争を解決するために協力してくれる機関があります。例えば、次に挙げる組織です。

  • 都道府県弁護士会
  • 都道府県社会保険労務士会
  • 都道府県司法書士会
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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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