人事・労務・労働問題を法律事務所へ相談するなら会社側・経営者側専門の弁護士法人ALGへ

医師による面接指導の強化の改正要点

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

働き方改革により労働安全衛生法が改正された結果、「産業医・産業保健機能」とともに、「長時間労働者に対する面接指導等」が強化されました。前者についての解説は他の記事に譲るので、ここでは、今回の法改正により、事業者がどのような責務を負うのか、罰則はあるのか、面接指導を実施する際にどのような点に気をつけるべきか等、事業者に課せられた長時間労働者に対する面接指導の実施義務に関する改正の要点をまとめていきます。

働き方改革による面接指導の強化に関する改正の要点

働き方改革では、事業者が行う労働者の健康管理をより強力なものにするために、以下のとおり、医師による面接指導を実施する事業者の義務が強化されました。なお、かかる改正の内容は、産業医の選任義務がない一定の規模以下の事業場にも適用されます。

  • ・面接指導の対象となる労働者の要件の拡大
  • ・一定の研究開発事業者、及び高度プロフェッショナル制度適用者に対する面接指導の実施義務化
  • ・対象外の労働者に対する面接指導要件の緩和
  • ・労働者の労働時間の状況を把握することの義務化
  • ・面接指導対象者への労働時間に関する情報通知の義務化

面接指導の対象となる労働者の要件の拡大

今回の法改正により、面接指導の対象となる労働者の要件は、「1ヶ月当たりの時間外・休日労働時間が80時間を超過しており、かつ疲労の蓄積が認められる者」に拡大されました(労安衛法66条の8第1項、労安衛則52条の2第1項)。事業者は、当該要件を満たす労働者からの申出に応じて医師による面接指導を実施します。

なお、1週間当たりの所定労働時間が40時間に満たない事業場では、所定労働時間ではなく、法定労働時間(1週間当たり40時間)を基準に超過した時間を算定し、要件を充足するか否かを判断します。

長時間労働・高ストレス者への面接指導の意義

労働力不足が問題となりつつある昨今の日本では、生産性の向上が課題です。しかし、常態化した長時間労働により、労働者に過度なストレスが加わり心身の健康が損なわれてしまえば、労働意欲やパフォーマンスの低下、欠勤や休職といった生産性の低下を招くだけでなく、最悪の場合には過労死といった問題につながるおそれがあります。

この点、職場において、適切な労働者の健康管理が行われれば、労働者のパフォーマンスの発揮を阻害する大きな要因のひとつを排除することができます。こうした労働者の健康管理の手段として、長時間労働・高ストレス者に対して医師による面接指導を実施することは、健康被害を事前に察知し対策を講じるうえで非常に有用です。

労働者の安全衛生管理の観点からみた面接指導について解説しているので、ぜひ下記の記事も併せてご覧ください。

面接指導について

研究開発業務従事者に対する医師による面接指導

労働安全衛生法66条の8(医師による面接指導に関する原則となる規定)は、時間外労働時間数の算定が特殊な高度プロフェッショナル制度適用者を除き、すべての労働者に適用されます。

このうち、研究開発業務に従事する労働者に関しては、1ヶ月当たりの時間外・休日労働時間数が100時間を超えた場合に、当該労働者からの申出の有無にかかわらず面接指導を行わなければなりません(労安衛法66条の8の2第1項、第2項、労安衛則52条の7の2第1項)。そのため、事業者がかかる労働者に労働時間数に関する情報を通知する際には、併せて面接指導の実施方法についても案内する必要があります。

研究開発業務従事者に対する経過措置

研究開発業務従事者に対する経過措置

研究開発業務に従事する労働者に対する面接指導の実施に関しては、経過措置が設けられています。そのため、建設業・一部の製造業を除き、2019年3月31日まで(中小企業は2020年3月31日まで)に36協定を締結した場合、36協定の有効期間である1年間は、面接指導に関する規定の適用が猶予されます。つまり、最大で2020年3月31日まで(中小企業は2021年3月31日まで)適用が猶予されることになります。

他方、建設業・一部の製造業の場合、改正後の労働基準法36条の適用が5年間猶予されるため(通常の事業・業務については2019年4月1日に適用されました)、2024年3月31日までに締結した36協定については、当該協定の有効期間である1年間は面接指導に関する規定の適用が猶予、つまり最大で2025年3月31日までは適用が猶予されます。

高度プロフェッショナル制度適用者に対する面接指導

事業者は、1週間当たりの健康管理時間が40時間を超過するとともに、超過時間が1ヶ月当たり100時間を超える高度プロフェッショナル制度の適用労働者に対しては、当該労働者からの申出がなくとも、医師による面接指導を行わなければなりません(労安衛法66条の4の2第1項、第2項、労安衛則第52条の7の4第1項、第2項)。

仮に健康管理時間の算定期間中に、労働者が高度プロフェッショナル制度の適用対象外になった、あるいは適用者になった場合には、(1)高度プロフェッショナル制度の適用対象期間について算定した健康管理時間と(2)適用対象外の期間について算定した労働時間の状況を分けて考えます。具体的には、それぞれの状況ごとに医師による面接指導の必要性の有無を判断し、適切な措置を講じることになります。

なお、(1)(2)のいずれに該当しない場合も、(1)(2)を通算した時間に基づき、面接指導の要否を検討する必要があります。

※健康管理時間…労働者が「事業場内にいた時間」と「事業場外で働いた時間」の合計

面接指導実施義務の対象でない労働者に対して必要な措置

事業者は、医師による面接指導の実施義務の対象でない労働者であっても、健康への配慮が必要な者に対しては、面接指導又は面接指導に準じる措置等、必要な措置を講じる努力義務を負います(労安衛法66条の9、労安衛則52条の8第1項)。

面接指導に準じる措置とは、下記のような措置をいいます。

  • ・保健師等による保険指導を実施すること
  • ・疲労蓄積度に関するチェックリストを活用した結果、面接指導の必要性が認められる者に対して、産業医等が面接指導を実施すること
  • ・事業場の健康管理について、事業者自身が産業医等から助言指導を受けること

労働者の労働時間の状況把握

事業者が、医師による面接指導の実施義務を果たすためには、当該面接指導の対象となる労働者を見極める必要があります。そのためにも、事業者は、タイムカードの記録やパーソナルコンピュータ等の使用時間の記録といった客観的な方法、又はその他適切な方法によって、労働者の労働時間の状況を把握しなければなりません(労安衛法66条の8の3、労安衛則52条の7の3第1項)。

加えて、これらの状況に関して作成した記録を3年間保存するために必要な措置を講じる義務も負います(労安衛則52条の7の3第2項)。

労働時間の状況を把握しなければならない対象者

なぜ事業者が労働者の労働時間の状況を把握しなければならないのかというと、労働者の健康を適切に確保しなければならないからです。状況を把握すべき対象の範囲には、できる限り多くの労働者を含める必要があります。

具体的には、労働時間数の管理が特殊な高度プロフェッショナル制度適用者を除いた、すべての労働者(研究開発業務従事者、管理監督者、裁量労働制の適用者、派遣労働者、短時間労働者、有期契約労働者等)の労働時間の状況について、把握する義務があります。

事業者が把握すべき「労働時間の状況」とは

事業者が把握すべき「労働時間の状況」とは、当該労働者が労務を提供し得る状態にあった、時間帯と時間の長さです。

具体的には、タイムカードの打刻内容やパーソナルコンピュータの使用記録(ログインからログアウトまでの時間)、事業者や労務管理者の現認といった客観的な記録により、労働者の各労働日の出退勤時刻・入退室時刻の記録等を把握する必要があります。

なお、管理監督者等や事業場外労働のみなし労働時間制の適用者、裁量労働制の適用者以外の労働者に関しては、賃金台帳に記入した労働時間数の把握をもって、労働時間の状況を把握する代わりとすることができます。

労働者への労働時間に関する情報の通知

事業者は、1ヶ月当たりの時間外・休日労働時間数の算定後、これが80時間を超えた労働者に対して、速やかに労働時間に関する情報を通知しなければならないほか、自主的な面接指導の申出を促すべく、併せて面接指導の実施方法や時期等を案内することが求められます(労安衛則52条の2第3項)。

事業者には、毎月1回以上、一定の期日において、これらの労働時間数を算定する義務が課せられているので、対象者がいる場合、月に1度は書面や電子メール、給与明細への記載等によって、かかる情報を通知することになります。

また、仮に対象外の労働者から労働時間に関する情報の開示を求められた場合には、労働者自身でも健康管理を行うよう動機づけるため、開示に応じることが望ましいでしょう。

改正の目的

長時間労働は、労働者の心身にとって過度なストレスとなるので、身体的・精神的な健康障害を引き起こすおそれがあります。そこで、かかる健康障害が発生するリスクの高い労働者を見逃さないため、長時間労働を行う労働者に対する医師の面接指導が確実に行われるようにするべく、医師による面接指導の実施が義務化されました。

その背景には、諸外国に比べて平均的な労働時間が長いこと、過労死等の健康リスクが高いこと、労働生産性が低いにもかかわらず労働力が不足しつつあることといった、日本における労働問題の存在があります。

こうした労働問題を解決するために、一億総活躍社会の実現を目指す働き方改革の一環として、今回の法改正が行われたものと考えられます。

事業者の責務

事業者は、各月1回以上、時間外・休日労働時間を算定する必要があり、面接指導の対象となる労働者がいれば、面接指導の申出を促すべく、労働時間に関する情報や面接指導の案内について通知しなければなりません。しかし、労働者が面接指導を拒否する場合には、当該労働者に面接指導を受ける必要がある旨を説明したうえで、面接指導を受ける機会を設けるといった働きかけが必要です。なお労働者が拒む場合には、面接指導を受けるよう業務命令を下すことを検討します。

面接指導をスムーズに実施するためには、労働者が面接指導を受けやすい事業場の環境の整備が不可欠です。そこで、事業者には、個々の労働者の業務量を適正なものにする、労働者の健康管理に関する意識を啓発するといった対策が望まれるでしょう。

違反した場合の罰則

研究開発業務に従事する労働者や高度プロフェッショナル制度適用者に対して、事業者が面接指導義務を果たさない場合、50万円以下の罰金に処せられるおそれがあります(労安衛法120条1号)。

なお、上記に該当しない労働者に面接指導を行わなかった場合の罰則規定はありません。しかし、労働基準監督署による行政指導を受け得るので、適切に面接指導を行うことが望ましいでしょう。

面接を実施する際の注意点

海外派遣された労働者への面接指導

海外派遣のうち、短期の海外出張等、日本における労働基準法が適用されるケースを想定して解説します。

海外派遣された労働者が面接指導の対象となった場合には、平成27年9月15日基発915第5号(情報通信機器を用いた、医師による面接指導の実施に関する留意事項等)に則り、パーソナルコンピュータや電話等の情報通信機器を使い、面接指導を行うべきでしょう。

情報通信機器による面接指導の実施が難しい場合には、書面や電子メールのやり取りといった方法により、当該労働者の健康状態をできる限り確認したうえで、必要な措置を講じるべきです。そして帰国後、面接指導が実施できる状況となった段階で迅速に実施することになります。

労働時間の状況を自己申告により把握する場合

労働者の労働時間の状況を把握するにあたって、労働者の自己申告に任せる方法を採る場合には、原則として、1日の労働時間の状況を翌労働日までに自己申告させ、日々の状況を把握することが望ましいといえます。

もっとも、労働者が泊りがけの出張をしている等、労働日ごとに自己申告させることが難しいケースも考えられます。このようなケースでは、それぞれの労働時間の状況について、帰社後一括して自己申告させることにしても問題ありません。

ただし、事業者には、毎月1回以上、一定の期日に時間外・休日労働時間の算定を行う義務があるので、たとえ労働者が出張をしている途中であっても、労働時間の状況を自己申告させなければならないケースがあり得ます。適切に労働時間を把握することを心がけましょう。

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます