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フレックスタイム制|仕組みや導入要件、運用の注意点など

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

働き方の多様性が尊重される昨今、労働者のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方を実現できる「フレックスタイム制」を導入する企業が増えています。

しかしながら、フレックスタイム制は通常の労働時間制とは異なったルールに沿って実施する必要があるため、知識がないまま、又は法律上のルールを確認せずに行うと、違法、無効となるリスクがあるため注意が必要です。

そこで、本記事ではフレックスタイムの導入を検討中の企業担当者の方に向けて、フレックスタイムの概要や残業の取り扱い、導入によるメリット・デメリット、運用するうえで注意するべきポイントなどについて解説していきます。

フレックスタイム制とは

フレックスタイム制とは、3ヶ月を上限とした一定期間(清算期間)において、あらかじめ決めた総労働時間の範囲内で、毎日の出退勤時間や働く長さを労働者が自由に決定できる制度です。

例えば、1ヶ月に働く時間が160時間と決まっていた場合、1ヶ月間の合計が160時間以内に収まれば、1日11時間働こうが、6時間で仕事を終えようが、残業にも早退にもならないということになります。

ただし、24時間いつでも自由に出退勤できるというわけではなく、企業によってコアタイムが定められている場合には、その範囲内で出退勤することになります。

フレックスタイム制の導入目的は、ワークライフバランスの実現、業務効率の向上、通勤ラッシュの緩和などが挙げられます。

フレックスタイム制は大企業での導入が多く、企画職、事務職、エンジニア職、デザイナー職など、外部との接触が少なく、自分のペースで働いた方が成果の上がりやすい職種に適しているといえます。

一方、取引先に都合を合わせる必要のある営業職や、営業時間が決まっている接客業等では導入が難しいといえるでしょう。

フレックスタイム制の仕組み

フレックスタイム制を導入する際、企業は下図のように、1日の中で必ず勤務しなければならない「コアタイム」という時間帯と、自由に出退社できる「フレキシブルタイム」という時間帯を設けて運用するのが一般的です。

フレックスタイム制とは

コアタイム

コアタイムとは、フレックスタイム制において、1日の中で「この時間は必ず勤務していなければならない」と決められた時間帯のことです。

例えば、コアタイムを11時~15時とした場合、この4時間は必ず働く必要がありますが、それ以外の時間の出退社は自由となります。また、コアタイムの設定方法についても、労使間で合意しているなら、自由に決めることが可能です。例えば、曜日によってコアタイムの時間帯を変更したり、1日の中で分割したりすることもできます。

コアタイムを設けるべき義務はありませんが、全員が揃う時間を作ることで、社員の労働状況の管理や必要な情報の共有、会議の設定などを容易にするという目的のもと、コアタイムを導入する企業が多いようです。

ただし、1日の労働時間のほとんどをコアタイムとするなど、あまり長時間のコアタイムを定めると、フレックスタイム制を導入しているとは認められない場合があるためご注意下さい。

フレキシブルタイム

フレキシブルタイムとは、労働者が出社や退社を自由に決められる時間帯のことをいいます。
コアタイムを間に挟んで設けられることが多く、フレキシブルタイム内であるなら、出社、退社の時間を調整したり、中抜けや早退したりすることも可能です。

例えば、フレキシブルタイムが7時~10時、16時~21時に設定されている場合、7時~10時の間であればいつでも出社が可能で、16時~21時の間であればいつでも退社が可能ということになります。

なかには、すべての労働時間をフレキシブルタイムとして、いつでも労働者の都合のよい時間に出退勤できるよう、完全に労働者の裁量に任せている企業もあります。このようなコアタイムのない働き方は「スーパーフレックスタイム制」と呼ばれています。

フレックスタイム制のメリット

フレックスタイム制を導入するメリットとして、以下が挙げられます。

  • ①残業時間の削減
  • ②ワークライフバランスの実現と生産性の向上
  • ③優秀な人材の確保

これらのメリットについて、以下で解説します。

残業時間の削減

フレックスタイム制の下では、無駄な残業や休日出勤を削減できる可能性があります。

一般的な労働時間制では、たとえ仕事が終わっても定時まで働かなければなりません。しかし、フレックスタイム制が導入されれば、仕事が少ない日は早めに退社して、仕事量が多い日は長めに働くなどの効率的な働き方が可能となります。結果として、無駄な残業が削減され、残業代を抑制することが可能となります。

ワークライフバランスの実現と生産性の向上

フレックスタイム制の下では、労働者が出退勤の時刻を自由に調整できるため、自分の生活スタイルに合わせた働き方ができるようになります。

例えば、保育園の送迎や家族の介護、役所への手続きや通院、資格取得のための勉強、習い事がしやすくなるなど、プライベートな時間を確保しやすくなります。
また、電車が混雑する時間帯を避けて出勤すれば、通勤ラッシュを回避することも可能です。

これらの結果、ワークライフバランスの実現に近づくため、労働者の作業効率や生産性の向上を期待できます。

優秀な人材の確保

フレックスタイム制が導入されている会社は、労働者にとって働きやすいため、離職を抑止し、優秀な人材を定着させる効果が期待できます。
また、労働者を採用するときに、フレックスタイム制を導入していることを会社の魅力としてアピールできます。

そのため、募集されている業務について十分なスキルがあるにもかかわらず、一般的な労働時間では働けない等の事情を抱える労働者も採用することができるので、優秀な人材を確保できる可能性が高まります。

フレックスタイム制のデメリット

一方、フレックスタイム制を導入するデメリットとして、以下が挙げられます。

  • ①労働者同士のコミュニケーション不足
  • ②急な業務に対応できないおそれがある
  • ③勤怠管理の煩雑化

これらのデメリットについて、以下で解説します。

労働者同士のコミュニケーション不足

フレックスタイム制のデメリットとして、労働者が顔を合わせる機会が少なくなり、コミュニケーション不足に陥るおそれが挙げられます。その結果、労働者間で信頼関係が低下し、必要な情報共有が行われない等、業務に支障が生じるおそれがあります。

このような状況を防ぐためには、オンラインのコミュニケーションツールを利用する等の対策を講じる必要があるでしょう。

急な業務に対応できないおそれ

フレックスタイム制のデメリットとして、突発的な会議や緊急の電話等があっても、労働者が応じられないおそれが挙げられます。
例えば、取引先からの問い合わせ時に担当者がまだ出社していない、あるいはすでに帰宅してしまった等の状況が生じることがあるでしょう。

そのため、フレックスタイム制を導入する場合には、取引先等の信頼を損ねないよう、社内でほかの労働者が代わりに対応できるような体制を整備しておく必要があります。

勤怠管理の煩雑化

フレックスタイム制のデメリットとして、勤怠管理が複雑で負担が大きいことが挙げられます。

フレックスタイム制では、労働者ごとに、毎日異なる出退勤時間を管理しなければなりません。また、それぞれの労働者について、労働時間が長すぎないか、短すぎないかを確認し、何か問題があれば個別に対応をする必要があります。

賃金計算を誤り、支払うべき賃金の過不足を生じさせないためにも、労働時間管理をしっかり行うことは非常に重要です。

フレックスタイム制における残業時間・残業代の取り扱い

フレックスタイム制の場合、法定労働時間(1⽇8時間・週40時間)を超えただけでは、時間外労働とみなされません。フレックスタイム制では、清算期間を終えた時点で、清算期間内で実際に働いた労働時間(実労働時間)のうち、以下の「法定労働時間の総枠」を超えた時間数が時間外労働となります。

(清算期間1ヶ月以内)
法定労働時間の総枠 = 1週間の法定労働時間(40時間)× 清算期間の暦日数 ÷ 7日

ただし、清算期間の長さによって時間外労働の計算方法が異なるため注意が必要です。詳しくは後述します。

フレックスタイム制で時間外労働をさせる場合であっても、36協定の締結が必要であり、時間外労働を行った労働者には、割増賃金の支給が必要となります。支払いを怠ると、労働基準法37条1項違反により、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられるおそれがあります(労基法119条1号)。

フレックスタイム下での残業時間の計算方法は、一般的な労働時間制の場合と異なります。詳しくは以下の記事をご覧ください。

フレックスタイム制における時間外労働の取り扱い

清算期間と総労働時間

清算期間とは、フレックスタイム制の下で、労働時間を決める際の単位となる期間のことです。

そして、清算期間内に労働者が働く必要のある所定の時間を総労働時間(所定労働時間)といいます。
総労働時間は、法定労働時間の範囲内で設ける必要があるため、週平均が40時間を超えないよう設定する必要があります。

なお、下表のとおり、月の日数によって法定労働時間は変動します。

月の日数(清算期間の歴日数) 法定労働時間
28日 160.0時間
29日 165.7時間
30日 171.4時間
31日 177.1時間

例えば、清算期間が1ヶ月(暦日数28日)で総労働時間が155時間、実労働時間が170時間であるとしましょう。法定労働時間の総枠が160時間であるため、法定内残業は5時間、時間外労働は10時間となります。法定内残業分は、通常の賃金を支払い、時間外労働分は割増賃金を支払う必要があります。

清算期間の延長

2019年より、フレックスの清算期間が最長「1ヶ月」から「3ヵ月」まで延長されました。もちろん、以前のとおり清算期間を1ヶ月とすることも可能です。

子育てや介護等を行う労働者にとっては、清算期間が長くなることで、自身の都合に合わせたより柔軟な働き方が可能となるというメリットがあります。

清算期間が1ヶ月を超える場合は、以下の①②それぞれが時間外労働としてカウントされ、割増賃金の支給が必要となります。

(清算期間1ヶ月超え、3ヶ月以内)
①1ヶ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えた分
②①を除いて、清算期間全体の労働時間が週平均40時間を超えた分

清算期間1ヶ月以内のフレックスを設ける場合は、就業規則等への規定と労使協定の締結が必要ですが、清算期間1ヶ月超えのフレックスを設ける場合は、この2つに加えて、労使協定を労働基準監督署に届け出る必要があるためご注意下さい。

清算期間の延長によるフレックスタイムへの影響については、以下の記事をご覧下さい。

フレックスタイムの清算期間

フレックスタイム制の導入要件

フレックスタイム制を導入するためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

  • フレックスタイム制を導入する旨を就業規則等に記載し、従業員に周知する
  • 労使協定で以下のようなフレックスの具体的内容を規定する
    • 対象となる労働者の範囲
    • 清算期間
    • 清算期間における総労働時間
    • 標準となる1日の労働時間
    • コアタイム、フレキシブルタイム

就業規則、労使協定などの有効要件を満たさないフレックスタイム制は、違法であり無効となるため注意が必要です。

ただし、上記2つの要件を満たしていても、18歳未満の労働者にはフレックスタイム制を適用できません(労基法60条)。

フレックスタイム制の導入手順の詳細については、以下の記事をご覧ください。

フレックスタイム制の導入手順と注意点

就業規則等への規定

フレックスタイム制の導入にあたっては、就業規則又は就業規則に準じる文書に「始業・終業の時刻の決定を労働者に委ねる旨」を記載します。
また、コアタイムやフレキシブルタイムを設定する場合は、その時間帯も併せて記載する必要があります。

なお、就業規則の作成・変更が終わったら、管轄の労働基準監督署に届け出ます。届出を怠ると30万円以下の罰金の対象になる可能性があるので、気をつけましょう。

労使協定の締結

フレックスタイム制の導入には、労働組合(ない場合は労働者の代表者)との労使協定が欠かせません。
具体的には、以下の事項を定める必要があります。

  • 制度の対象者となる労働者の範囲
  • 清算期間とその起算日
  • 清算期間内の総労働時間(所定の労働時間)
  • 1日の標準労働時間
  • コアタイム、フレキシブルタイムの時間帯(任意)

なお、清算期間を1ヶ月を超えて設定する場合は、管轄の労働基準監督署に労使協定を提出しなければなりません。

裁量労働制・変形労働時間制との違い

フレックスタイム制と変形労働時間制、裁量労働制との大きな違いは、日々の労働時間を自分で決めて働けるか否かという点です。

フレックスタイムは日々の労働時間を労働者自身で決めることが可能ですが、変形労働時間と裁量労働は、基本的に会社側が1日の労働時間を定めるため、労働者が決めることはできません。詳細な違いについては、下表をご確認下さい。

フレックスタイム制 変形労働時間制 裁量労働制
労働時間 清算期間内に定められた総労働時間の枠の範囲内で、労働者自身が日々の労働時間(出社・退社時間)を自分で決めて働く。 1週単位、1ヶ月単位、年単位の総労働時間の枠の範囲内で、会社側が決めた日々の労働時間(出社・退社時間)に従って働く。 労使協定や労使委員会の決議で定めた時間を労働時間とみなす。(1日8時間をみなし労働時間と定めたら、1時間働こうが、9時間働こうが、8時間働いたものとみなす)
目的 労働者の都合に合わせた柔軟な働き方を提供し、ワークライフバランスを実現する 閑散期や繁忙期など、会社の都合に合わせて労働力を効率的に投入し、残業時間を削減する 時間にとらわれない働き方によって、生産性を向上させる
対象者 職種や業種問わず、すべての労働者 職種や業種問わず、すべての労働者(ただし、1週単位の場合は業種等の要件あり) ・専門性の高い業務を行う労働者:SE、プログラマー、研究開発者、編集者、建築士など
・企画、立案、調査や分析を行う労働者

裁量労働制、変形労働時間制、各詳細については、以下の記事をご確認ください。

裁量労働制
変形労働時間制

フレックスタイム制の勤怠管理の注意点

フレックスタイム制を導入したときに、勤怠管理について特に注意するべき点を解説します。

遅刻・早退

フレックスタイム制は出退社の時間を自由に決められるため、基本的に遅刻や早退は発生しません。ただし、コアタイムが設けられている場合は別です。

【コアタイムがある場合】

コアタイムは必ず働く必要のある時間帯ですので、コアタイムに遅れれば遅刻、コアタイム中に退社すれば早退として扱うことが可能です。

ただし、コアタイム中の遅刻や早退でも、清算期間の総労働時間を満たしている限りは、賃金カットができません。よって、コアタイム中の遅刻や早退について就業規則等にペナルティを規定したり、人事評価の査定対象としたりする方法が挙げられます。

【コアタイムがない場合】

コアタイムがない場合は、すべての労働時間が、労働者の裁量で決められるフレキシブルタイムとなりますので、遅刻や早退は発生しないことになります。

欠勤

就業規則等で、労働日と休日が定められている場合は、コアタイムのないフレックスタイムであっても、労働者は労働日について出勤義務を有します。よって、労働日に出勤しない場合は欠勤として取り扱うことが可能です。

ただし、実労働時間が清算期間の総労働時間(所定労働時間)を超えているならば、欠勤控除(賃金カット)することができません。

もっとも、実労働時間が総労働時間より少ない場合は、欠勤控除することが可能です。この場合は、以下のいずれかの措置をとることになります。

  • 不足時間分の賃金をカットする。
  • 次の清算期間中の総労働時間に不足時間分を上積みする(ただし、結果的に法定労働時間を超えた場合、時間外労働として割増賃金を支払う必要あり)

休憩時間

フレックスタイムにおける休憩時間については、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を「労働時間の途中に」「一斉に」与えて、「自由に」利用させることが必要です。そのため、フレックスタイム制では、コアタイムの間に休憩時間を設ける企業が多いようです。

ただし、労使協定を締結すれば、一斉休憩は適用除外となります。また、以下の業種では、休憩時間を一斉に与える必要はありません。

  • 運輸交通業
  • 商業、金融・広告業
  • 映画・演劇業
  • 通信業
  • 保健衛生業
  • 接客・娯楽業など

休日出勤

使用者は、少なくとも毎週1日の休日か、4週を通じて4日以上の休日を労働者に与える必要があり(労基法35条1項)、これを法定休日といいます。完全フレックスであっても、このルールを守る必要があります。

フレックスタイムにおける休日出勤については、次のように、法定休日の出勤と法定外休日の出勤とで取り扱いが異なります。

法定休日に出勤した場合(土曜が法定外休日、日曜が法定休日で日曜に出勤したようなケース)

法定休日に出勤した場合は、実際の労働時間が総労働時間の枠内におさまっていたとしても、法定休日出勤の時間数分については、3割5分増しの割増賃金を別枠で支払う必要があります。

法定外休日に出勤した場合(土曜が法定外休日、日曜が法定休日で土曜に出勤したようなケース)

法定外休日に出勤した場合は、通常の労働時間と合わせて集計し、法定労働時間を超えた時間分について、2割5分増しの割増賃金を支払います。

年次有給休暇

フレックスタイム制を導入した会社・事業場で労働者が年次有給休暇を取得した場合には、労使協定に定めた「標準となる1日の労働時間」を実労働時間に加算し、この労働時間を基礎として賃金の計算を行います。

例えば、フレックスタイム制の下で労働者が年次有給休暇を1日取得した場合は、その1⽇については、「標準となる1⽇の労働時間」を労働したものとして取り扱う必要があります。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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