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運送業・物流業におけるドライバーの労働時間の上限と超過のリスク

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

2024年4月1日から、トラック運転手など自動車運転の業務に主として従事する者にも残業時間(法定時間外労働時間)の上限規制が適用されます。これに伴い自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)も改正され、同日から適用されます。

この記事では、日本の物流を担うトラックドライバーに適用される残業時間(法定時間外労働時間)の上限規制や上限規制に違反した場合のリスク、今後の対応策について説明します。

物流・運輸業のドライバーの労働時間の実態

トラック運転者の有効求人倍率
出典:統計からみるトラック運転者の仕事(厚生労働省)

トラックドライバーの年間労働時間は、全産業平均と比較すると、中小型トラックドライバーで372時間、大型トラックドライバーで432時間多く、月平均してみると、それぞれ31時間、36時間多くなっています。

物流・運送業の時間外労働の上限(2024年4月適用)

働き方改革の一環として、労働基準法が改正され、2019年4月1日から(中小企業は2020年4月1日から)残業時間(法定時間外労働時間)の上限規制がスタートしていましたが、自動車運転の業務については、業務の特性や取引慣行を改善するのに時間を要することから、その適用が5年間猶予されていたところ、とうとう自動車運転の業務についても2024年4月1日からスタートします。

残業時間(法定時間外労働時間)は、原則月45時間、年360時間以内とし、臨時的にこれを超えて労働させる必要がある場合に36協定の特別条項を設けることによって、年960時間(法定休日労働を含みません。)までは延長ができます。

これに違反した場合には労働基準法違反として罰則の対象となります。2~6月平均80時間以内、月45時間を超えるのは最大6ヶ月まで、単月100時間未満といった規制は適用されません。

なお、自動車運転の業務に主として従事する労働者(実態として、物品又は人を運搬するために自動車を運転する時間が現に労働時間の半分を超えており、かつ、当該業務に従事する時間が年間総労働時間の半分を超えることが見込まれる労働者)が猶予の対象であって、物流・運輸業界の労働者であっても、事務員や運行管理者等については、すでに上限規制はスタートしていることに注意してください。

運送業における36協定

労働基準法では、法定時間外労働は原則禁止とされていて、違反すると刑事責任が生じるところ、労使協定締結することで刑事責任が免除される仕組みとなっています。

この労使協定のことを36協定といいます。36協定を締結したとしても原則月45時間、年360時間が上限であり、月45時間、年間360時間を超えて法定時間外労働を命じるには、36協定に特別条項を付さなければなりません。

時間外労働の上限規制による2024年問題

自動者運転の業務に従事する労働者に対して法定時間外労働の上限規制が適用されることによって運送業界の売り上げ減少、賃金の減少による離職や採用難、運賃の値上げといった問題が発生することが予想されており、2024年問題などといわれています。

上限規制を守ることによって労働時間が減れば売り上げが減少しかねません。労働時間が減れば、基本的にはドライバーの収入が減少します。収入が減少すれば、離職、採用難を招く可能性があります。人材確保のためには、賃金を上げるためのコスト増が、運賃の値上げにつながると考えられています。

簡単に運賃の値上げをすれば済むという単純な問題ではなく、効率的な業務運営の実現が必須であるなか、業務の特性や昔ながらの取引慣行、労働環境の変革を迫られています。

運送業・物流業における2024年問題とは|影響と事前に行うべき対策

トラックドライバーの改善基準告示による労働時間の上限

改正前 改正後
(2024年4月1日~適用)
1年の拘束時間 3,516時間 原則:3,300時間
最大:3,400時間
1ヶ月の拘束時間 原則:293時間
最大:320時間
原則:284時間
最大:310時間
1日の拘束時間 原則:13時間
最大:16時間
※1週2回以内15時間超可
原則:13時間
最大:15時間
※14時間超は目安週2回まで
1日の休息期間 継続8時間以上を原則とし、一定の場合特例あり 継続11時間以上(最低9時間)を原則とし、一定の場合に特例あり
1日の最大運転時間 2日平均1日:9時間以内
2週平均1週:44時間以内
変更なし
連続運転時間 4時間以内

※運転の中断時は、原則として休憩を与える(1回連続10分以上、合計30分以上)

原則:4時間以内

例外:SA・PA等に駐停車できないことにより、やむを得ず4時間を超過する場合には4時間30分まで延長可
※運転の中断時は、原則として休憩を与える(1回概ね連続10分以上、合計30分以上)

上限規制の適用に併せて、自動車運転者の労働時間等の基準(改善基準告示)も改正され、2024年4月1日から適用されます。

労働基準法の上限規制に違反した場合には罰則がありますが、改善基準告示違反に罰則はありません。もっとも、行政指導、行政処分の対象となりえるため、改正基準告示を無視することはできず、遵守するよう労働環境の改善が必要です。

拘束時間

拘束時間とは、労働時間と休憩時間(仮眠時間を含む)の合計時間をいい、始業時刻から就業時刻までの合計時間と考えればよいでしょう。

(原則)
年間3300時間以内、かつ、1か月284時間以内

(例外)

  • 労使協定により、1年のうち6ヶ月までは、年間3400時間を超えない範囲で、1ヶ月310時間まで延長可能。
  • 1ヶ月の拘束時間が284時間を超える月は連続3ヶ月まで
  • 1ヶ月の法定時間外労働と休日労働の合計が100時間未満となるよう努める

1日の休息期間

休息期間とは、使用者の拘束を受けない期間のことをいい、勤務と次の勤務との間のことです。

(原則)
1日の休息期間は、勤務終了後、継続11時間以上与えるよう努め、9時間を下回ってはいけません。

(例外)

  • 宿泊を伴う長距離貨物運送の場合、1週について2回に限り、継続8時間以上とできる。
  • 運行終了後、継続12時間以上の休息期間を与える場合には、継続9時間を下回ることができる。
  • 継続9時間の休息期間を与えることが困難な場合は、分割して休息を与えることが可能(分割休息は1回3時間以上などの制限あり。)。
  • 自動車運転者が同時に1台の自動車に2人以上乗務する場合(2人乗務)では、休息期間を4時間まで短縮可能。
  • 業務上やむを得ない場合の隔日勤務では、2暦日の拘束時間21時間、休息期間20時間とすることが可能。
  • フェリー乗船時間は、原則として休息期間とすることが可能(フェリー下船時刻から勤務終了時刻までの時間の1/2を下回らないことが必要。)。

1日の最大運転時間

運転時間とは、運転している時間のことをいい、最大で2日平均で1日9時間以内、2週平均で1週44時間内でなければなりません。最大運転時間については、改正前と同じで変更ありません。

2日平均は、特定日を基準に、特定日の前日との平均と特定日の翌日との1日平均がいずれも9時間を超えた場合に改善基準告示違反となります。
2週平均は、特定の日を起算日として、その週と翌週の2週間の合計を2で割って算出し、これが44時間を超える場合に、改善基準告示違反となります。

連続運転時間

連続運転時間とは、連続して運転する時間をいいます。

(原則)
連続運転時間は、4時間以内でなければなりません。また、運転を開始したあと4時間以内に30分以上の運転の中断をさせるか、4時間経過後に30分以上の運転の中断をさせなければなりません(原則として中断時は休憩を与えないといけません。)。

なお、運転の中断は、1回おおむね10分以上として分割して与えることは可能です(10分未満の分割は3回以内。)。
改正前とおおむね変更はありませんが、休憩でないと「中断」とは認められないとなったことには注意してください。

(例外)
SA・PAなどが満車であったなど駐車または停車できないため、やむを得ない場合には、4時間30分まで延長することが可能。

 

物流・運送業の時間外労働の上限を超過するリスク

未払い残業代の請求

運送業界は、これまでの業界慣行や労務管理のややこしさから、労務管理が不正確であることが多く、適正に労働時間を算定した場合には長時間のサービス残業が判明することも少なくありません。消滅時効が3年なので、過去3年分を翻って支払わなければならず、その額が多額になることが多い業界だといえます。

また、2023年4月1日からは、中小企業であっても月60時間を超える法定時間外労働の割り増し率が50%となっており、60時間を超えて残業させている会社はさらに未払い賃金が増えてしまうという状況です。

労働基準法違反による罰則

これまで残業時間の上限は、改善基準告示で制限されていただけで、労働基準法の適用はなく、改善基準告示に違反したとしても罰則はありませんでした。

労働基準法の上限規制が適用される以降は、36協定なく残業させた場合はもとより、特別条項付き36協定があったとしても960時間の上限規制に違反した場合には罰則(6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金)が適用されます。

なお、少しでも違反したら罰則が適用されるとはないと思いますが、労基署からの指導や改善勧告に従わないような悪質な場合には罰則が適用されることもあるでしょう。

労災リスク

運送業界は、運んだ荷物量に応じた歩合制を採用しているところも多いですし、卸地の次の荷待ち、渋滞回避のための長時間運転、長時間労働を前提とした給与体系、タイトな運行スケジュール、コスト削減のための下道走行の強制などにより、長時間労働を前提とした不規則な仕事となっており、脳虚血性疾患や精神疾患による労災が生じるリスクが高いといえます。また、事故時の怪我など仕事自体の危険性も高い仕事ですから、そもそも死亡労災が発生しやすい業界だといえます。

労災が発生した場合に、上限規制や改善基準告示を遵守していないことは、使用者の安全配慮義務違反となりますので、労災リスク回避の意味でも上限規制や改善基準告示を遵守することは必須です。

厚労省の統計によると(令和4年)、死亡労災に関し、全体774人のうち、90人が陸上貨物運送事業となっています。

物流・運送業における時間外労働の上限規制への対策

上限規制や改善基準告示を守ることは簡単ではないですが、そのために猶予期間が設けられていたのですから、まったなしです。一から取り組むとなれば相当な覚悟が必要だといえます。専門家の手を借りないとなかなか難しいでしょう。

もっとも、これまで取り組んできた企業のノウハウやアプリの開発が進んでいることから、方向性は比較的決めやすくなっています。一番のハードルは、経営者の意識改革ではないでしょうか。

36協定の締結・就業規則の見直し

法定時間外労働を適法に命じるには、36協定の締結が必須です。36協定自体を締結していない企業は少ないと思いますが、月45時間、年360時間を超える場合には、特別条項付きの36協定の締結が必要です。

適切に36協定が作成されていないと、上限規制違反となってしまいますので注意してください。厚労省から36協定の記載方法について例示を含めて詳しく紹介されていますので、参考にされるか、専門家へ作成を依頼されるのがよいでしょう。

トラックドライバーの労働時間管理の改善

運送業界の労働時間管理は複雑です。もっとも、労働時間管理を適切に行えれば、半分は対策が済んだといっても過言ではないでしょう。労働時間管理は、上限規制対応の第1歩であり、最重要課題だと考えてください。

業務の見直し・IT導入による業務の効率化

運送業界向けの労務管理アプリやシステムが様々提供されており、IT技術の導入により、適切な労務管理も可能となっているといえます。

逆にいえば、IT技術なく運送業界の労務管理は不可能だといっても過言ではありません。IT技術といっても、難しいものではなく、業者からのレクチャーも丁寧に行われますので、担当者を決め、業者と打ち合わせを行って進めていけば導入自体は難しくありません。

慣れるまで時間がかかるかもしれませんが、経営者や現場の意識改革を行いつつ、積極的に導入していくことをお勧めします。

人員の増強

労働時間の管理ができれば、おそらくは、トラックを運行できる時間が短くなってしまいます。また、トラックドライバーの給与も下がるでしょう。そうすると、売り上げ減少を受け入れるか、人員増強、運賃の値上げをして売り上げを維持しなければなりません。

また、総支給額が低い業界となれば、離職や採用難に直面することでしょうから、労働条件の見直しや多様な人材の活用も必要となります。どれかを対応すればよいというものではなく、すべてについて並行して対応することが必要になります。

簡単ではないですが、会社の存続がかかった問題だととらえて、専門家の手を借りながら進めるというのが現実的だと思われます。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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