かとく(過重労働撲滅特別対策班)の権限や役割|労働基準監督署との違い
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
長時間労働などの過重労働を取り締まる機関として、過重労働撲滅特別対策班(かとく)があります。
かとくは、特に悪質な長時間労働を行う会社をターゲットにしているのが特徴です。また、会社への立入調査や捜査権限も認められているため、違法な会社を効率よく取り締まることができます。
本記事では、「かとく」の概要や役割、権限について解説していきます。取締りの対象にならないよう、事業主の方はしっかり確認しておきましょう。
目次
過重労働撲滅特別対策班「かとく」
「かとく」とは、過重労働撲滅特別対策班の通称です。労働基準法に違反した、又は違反するおそれのある会社を取り締まるための行政機関として、平成27年4月に厚生労働省の「労働基準局監督課」に新設されました。
かとくの特徴は、労働基準法違反の中でも悪質で大規模な事案を扱う組織だということです。
例えば、一向に長時間労働を是正しない会社や、意図的にデータを改ざんした会社などを専門的に取り締まっています。また、かとくは労働基準監督官で構成されており、悪質な事業主を捜査・送検する権限も認められています。
かとくの組織構成や業務の詳細について、以下で説明していきます。
かとく設立の目的
かとくの設立には、以下のような目的があります。
会社の違法な長時間労働を取り締まり、是正すること
長時間労働の取締りは、各都道府県の労働基準監督署も実施しています。
しかし、全国に支社を展開している大企業などは、各地で個別に是正勧告を行っても過重労働が是正されませんでした。
そこで、各労基署の管轄を超え、大規模な調査・勧告を行うための組織として「かとく」が設置されました。
過重労働による健康障害を防止すること
長時間労働などの過重労働は、労働者の健康やメンタルヘルスに支障をきたすおそれがあります。例えば、脳や心臓疾患、精神疾患、過労死などを招くと言われています。
違法な長時間労働を厳しく取り締まり、労働者の心身の健康を守ることも「かとく」の大きな役割です。
労働者の健康障害やメンタルヘルス管理については、以下のページで解説しています。
かとくの送検事例
かとくは労働基準監督官で構成されており、違法行為を行った事業主を検察庁へ送検する権限が認められています。
また、全国規模の事案を取扱うため、取締りの対象も大企業が多くなっています。実際にかとくによって送検された事案を2つご紹介します。
・ドン・キホーテ(平成28年1月)
36協定では「時間外労働は120時間以内」と定められていましたが、複数の店舗でこれを上回る残業が行われていました。さらに、3ヶ月で415時間という過労死ラインを大きく上回る残業も行われていました。
かとくは、是正勧告を繰り返しても改善されなかったとして、同社の支社長や支店長を東京地検へ書類送検しました。
・コノミヤ(平成28年10月)
本社に勤める経理社員などに対し、36協定の上限時間を超える月105時間以上の残業を行わせていた事案です。また、時間外手当(残業代)の未払いも発生していました。
かとくは、労働基準法違反にあたるとして、同社の取締役などを大阪地検へ書類送検しました。
過重労働対策の組織体制
過重労働撲滅特別対策班(かとく)
かとくは、東京労働局と大阪労働局の2ヶ所に設置されています(東京かとく、大阪かとく)。それぞれのかとくは、違法な事業所への立入調査・指導・捜査などを行う“実働部隊”の役割を担っています。
また、かとくの本部は厚生労働省に設置されており、本省かとくと呼ばれます。
本省かとくは、全国の労働局を束ねるいわば“司令塔”の役割があります。具体的には、労働局が会社への監督・指導や広域捜査活動をスムーズに行えるよう、様々な指導調整を行っています。
過重労働特別監督監理官
全都道府県の労働局に、過重労働特別監督監理官を1名ずつ配置しています。
過重労働特別監督監理官とは、労働局の中でも長時間労働に関する取締りを専門的に行う者のことです。例えば、本社監督を総括したり、夜間の臨検を実施したりするのが主な仕事です。
これにより、各都道府県労働局における監督・指導体制や捜査体制が強化されたといえます。
過重労働特別対策室
平成29年4月には、本省に過重労働特別対策室が設置されました。
過重労働特別対策室は、本省かとくを格上げした省令組織で、東京かとくと大阪かとくを指揮する役割を担っています。
これにより、全国規模の取締りをさらに強化できると期待されています。
労働基準監督署との相違点
労働問題を取り締まる機関には、かとくの他にも「労働基準監督署」があります。
それぞれ違法な会社を摘発し、是正するという点は同じです。また、労働基準監督署も、かとくと同じく違法な会社を捜査・送検する権限を有しています。
ただし、かとくはより大規模な事案に対処するための組織であり、主に全国に展開する大企業をターゲットにしています。
また、かとくはIT技術に精通したメンバーで構成されているため、より調査困難で専門的なケースにも対応可能です。例えば、パソコンを解析して不正なデータ改ざんを暴いたり、削除されたデータを復元したりする技術を備えています。
労働基準監督署の詳細は、以下のページをご覧ください。
かとくの権限と役割
かとくは労働基準監督官で構成されており、違法な会社への立入調査をすることができます。また、違法な会社を摘発・指導することも可能です。
また、労働基準監督官には、違法な会社を捜査・逮捕・送検する権限も与えられています(労働基準法101条1項)。
これは特別司法警察員と呼ばれ、一般的な司法警察員(警察官など)と同等の権限が認められています。
また、厚生労働省に設置されている「本省かとく」は、全国の都道府県労働局を統括する“司令塔”としての役割を担っています。具体的には、労働局が行う広域捜査がスムーズに進むよう、必要な指導調整を行っています。
労働基準監督官の権限や立入調査の流れについては、以下のページで解説しています。
かとくの捜査対象
かとくが取り扱う事案には、以下のような特徴があります。
- 監督・指導において事実関係の確認・調査が広範囲におよぶもの
- 司法事件で捜査対象が多岐にわたるもの
- 被疑事実の立証に高度な捜査技術を要するもの
簡単に言うと、大規模で複雑な事案を取り締まるのがかとくの主な役割です。
例えば、全国に展開している大企業の場合、労基署から各支店へ個別に是正勧告をしても過重労働が改善されないことがあります。
この点、かとくは労基署の管轄エリアを超えた広域的な監督・指導ができるため、より効率的な取り締まりが可能です。
また、かとくはIT技術に精通したメンバーで構成されるため、より高度で専門的な捜査が可能です。具体的には、パソコンのデータ解析や削除されたデータの復元などを行い、会社の不正を見抜くことができます。
また、かとくは違法な会社を速やかに捜査・送検できるため、対象とならないよう注意が必要です。
重点監督対象の拡大
かとくの重点監督対象(積極的に監督指導を行う事案)は、平成28年4月より以下のとおり拡大されました。
- 改正前→月100時間超の残業が疑われるすべての事業場
- 改正後→月80時間超の残業を行うすべての事業場
残業時間が月80時間を超える会社は、全国で2万近くあるといわれています。そこで、より効率よく長時間労働を是正するため、上記の改正が行われました。
また、その中でも、過労ラインを超えて残業を行う悪質な会社を重点的に取り締まっています。
違法企業への司法処分
かとくが取り締まるのは、労働基準監督署の行政指導や是正勧告を受けても、一向に状況が改善しない会社です。例えば、是正報告書に虚偽の記載をした場合や、是正勧告に従わない場合、かとくの出番となります。
そのため、かとくは行政指導を行わず、いきなり捜査を行うのが一般的です。また、違法性が認められれば、直ちに検察庁へ送検します。
また、送検された会社は刑事罰の対象になり得るため注意が必要です。時間外労働の上限を超えて働かせた場合、「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」が科せられます(労働基準法119条)。
時間外労働の上限について知りたい方は、以下のページをご覧ください。
会社における長時間労働対策
長時間労働を防ぐため、会社は労働者の労働時間を正確に把握する必要があります。一般的なのは、タイムカードの打刻履歴を管理したり、パソコンのログイン・ログアウト時刻を記録したりする方法です。
また、36協定をきちんと作成し、社内で周知することも重要です。「36協定を超える残業が行われていないか」「過労死ラインに達していないか」などを定期的に調査することで、違法な長時間労働を防止することができるでしょう。
なお、長時間労働が続いている労働者に対しては、医師の面接指導などを行い、健康状態をチェックすることも必要です。医師の見解によっては、業務内容の変更や休職なども検討すべきでしょう。
時間外労働における注意点は、以下のページも参考にしてください。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある