ハラスメント調査の方法|流れや企業対応のポイントなどを解説
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
従業員からハラスメントの申告があった場合、使用者は事実関係を調査する義務があります。
調査を怠った場合や、適切な措置を講じなかった場合、企業の法的責任が問われる可能性があるため必ず実施しなければなりません。
本記事では、ハラスメント調査の進め方、被害者や加害者への適切な対応、調査を行ううえでのポイントなどについて詳しく解説していきます。
目次
企業におけるハラスメント調査の義務
社内でハラスメントの通報があった場合、使用者は事実関係を調査する義務があります。
調査の流れとしては、まず社内で「調査委員会」を立ち上げ、一連の調査を委ねる方法が考えられます。
引継ぎを受けた調査委員会は、被害者や加害者へのヒアリングを行い、ハラスメント該当性や加害者への懲戒処分、再発防止策などを検討していきます。
ハラスメント調査の実施は法律で定められた義務なので、未実施の場合は従業員から損害賠償請求されるなどのリスクがあります。調査を怠った場合だけでなく、調査の方法が不適切だった場合や、必要な措置を怠った場合も法的責任が問われる可能性があるため注意が必要です。
ハラスメント調査の方法・流れ
ハラスメント調査は、例として以下の流れで行う方法が考えられます。
- 被害者の意向確認
- 調査委員会の立ち上げ
- ハラスメントの事実確認
- ハラスメントの有無についての判定
- 調査結果の通知・処分
- 調査報告書の作成
①被害者の意向確認
ハラスメント調査を開始する前に、被害者に調査の意向を確認する必要があります。
被害者の中には、「大ごとにしたくない」といった理由から調査を望まない人もいるためです。
ただし、ハラスメントを放置することは多くの企業リスクを伴うため、できるだけ本人の同意を得たうえで調査を行うのが望ましいでしょう。
例えば、放置すれば被害が拡大するおそれがあることや、加害者から報復行為があった場合は厳しく対処する方針などを伝え、調査について理解を求めることが重要です。
緊急性が高い場合、調査前に配置転換などの隔離措置も検討しなければなりません。
なお、被害者がすでに退職している場合も、使用者は同様にハラスメント調査を行うべきとされています。
②調査委員会の立ち上げ
ハラスメントの相談や通報があった場合、社内で「調査委員会」を立ち上げ、調査を委ねる方法が考えられます。
調査委員会の主な業務は、
- 被害者と加害者へのヒアリング
- 関係者へのヒアリング
- 事実認定
- ハラスメント該当性の判断
- 加害者への処分の決定
- 再発防止策の検討 など
となります。
調査委員会は、結果次第で「懲戒処分」や「配置転換」といった人事上の措置も行うため、人事部や法務部の責任者、内部監査などで構成されるケースが多いようです。また、公平性を保つため、男女複数人で構成するのが望ましいとされています。
なお、ハラスメント調査は弁護士に外部委託することも可能です。弁護士であれば、調査だけでなく、相談窓口の設置やハラスメント研修なども広く任せることができます。
③ハラスメントの事実確認
ハラスメント調査では、事実確認のため、被害者や加害者、目撃者などにヒアリングを行います。
ヒアリング対象者には、あらかじめ以下の事項を伝えておきましょう。
- ヒアリング実施者
- ヒアリングの目的
- ヒアリング対象者(被害者、加害者、ランダム選出など)
- 不利益取扱いは行わないこと
- 口外禁止
- 報復行為の禁止
ヒアリング内容は、本人の同意を得たうえで録音しておくことが重要です。
従業員から「録音したい」と申し出があった場合、無断開示や漏洩のリスクがあるため慎重な判断が求められます。ヒアリング内容を確認したい場合、企業に「開示請求」を行う方法もあるため、併せて説明しておくと良いでしょう。
なお、1回のヒアリング時間は1~2時間とするのが望ましいとされています。
被害者からのヒアリング
被害者は様々な不安を抱えていると考えられるため、担当者は親身な対応を心がけましょう。例えば、「相談しても不利益な扱いは受けないこと」「プライバシーは守られること」などを十分説明し、被害者に安心感を与えることが重要です。
ヒアリングの際は5W1Hを意識し、以下のような事実関係を丁寧に確認していきます。
- ハラスメントを受けるまでの経緯
- ハラスメントの内容(相手、日時、場所、頻度、具体的な言動など)
- 被害者の対応
- 上司や同僚などの対応
- 他に同様の行為を受けた従業員がいるか
- 被害者と加害者の現在の関係
- 現在の被害者の心身の状況
- 証拠の有無 など
併せて、被害者が今後どのような解決を望むのか、加害者や第三者にヒアリングをしても良いか等も確認します。
ヒアリング結果は面談記録としてまとめ、本人の署名をもらっておきましょう。
加害者からのヒアリング
加害者へのヒアリングは、必ず被害者の同意を得たうえで行います。
担当者は「加害者が悪い」と決めつけず、中立的立場でヒアリングすることが重要です。当事者の主張が食い違っていても、聞き取った内容はそのまま記録しましょう。
加害者へのヒアリング事項は、以下のようなものです。
- ハラスメント行為の事実があったか否か
- ハラスメントに至るまでの経緯
- 被害者の反応や対応
- 被害者と加害者の事件以前・以後の関係
- 目撃者など加害者の主張を証明できる者がいるか など
併せて、被害者への報復は行わないよう注意を促すことも必要です。就業規則などで、報復行為は懲戒処分の対象になる旨を定めておくと効果的です。
加害者についてもヒアリング内容は書面にまとめ、本人の署名をもらっておきましょう。
加害者への調査におけるポイントは、以下のページでさらに詳しく解説しています。
目撃者や関係者からのヒアリング
被害者と加害者の言い分が食い違う場合は、第三者にもヒアリングを行う必要があります。第三者へのヒアリングについても、被害者の同意を得てから行いましょう。
第三者は当事者ではなく、秘密厳守の意識も低くなりやすいため、事前にヒアリング内容を外部に漏らさないよう約束させることが重要です。また、第三者のプライバシーは守られること、調査に協力しても不利益を受けることはない旨なども十分伝えましょう。
第三者へのヒアリング事項は、以下のようなものです。
- 実際にハラスメントはあったか
- ハラスメントの内容(日時や場所、頻度、具体的な言動など)
- 他の目撃者の有無
- 他にも被害を受けている従業員がいるか
- ハラスメントを受けた被害者の反応や加害者の反応 など
ヒアリング結果は文書にまとめて、本人に署名してもらいます。
また、特定の第三者ではなく、社内全体で匿名アンケートを行う方法も有効です。
④ハラスメントの有無についての判定
ヒアリング結果をもとに、調査委員会などがハラスメントの事実認定を行います。
ハラスメントは人目につかない場所で行われることが多く、客観的証拠が集まりにくいため、事実認定では被害者と加害者の供述が重要となります。
双方の主張が食い違う場合、以下のような要素を総合的に考慮して判定するのがポイントです。
- 供述の具体性や一貫性の有無
- 供述に矛盾や変遷がないか
- 虚偽の供述をする動機の有無
- 目撃者などの証言と合致しているか
- 客観的な証拠(メールやチャットの履歴、録音データなど)と整合しているか
事実認定後は、厚生労働省の指針(パワハラ防止指針、セクハラ指針、マタハラ指針)を参考にハラスメントの該当性を判断します。
ただし、各指針に記載された言動は一例にすぎないため、判断に悩む場合は弁護士に相談することをおすすめします。
ハラスメントの事実認定については、以下のページもご覧ください。
⑤調査結果の通知・処分
ハラスメントの調査結果が出たら、被害者と加害者に結果を通知します。
ハラスメントの該当性だけでなく、調査項目や判断基準なども併せて説明すると、当事者の納得を得やすくなります。また、通知はトラブルを避けるため、口頭ではなく“書面”で行うのが基本です。
調査結果に応じて、被害者へのフォローや加害者への処分(人事異動や懲戒処分など)もしっかり検討しましょう。
⑥調査報告書の作成
調査報告書とは、企業が行ったハラスメント調査の結果をまとめた文書のことです。主に諮問委員会や経営陣への報告資料として用いられます。また、加害者への懲戒処分を決定したり、再発防止策を検討したりするためにも活用されます。
調査報告書には、主に以下の事項を記載します。
- 調査担当者
- 調査を行った期間と調査方法
- 被害者からのハラスメント被害訴えの経緯と内容
- ハラスメントに対する加害者側の主張
- 内部調査により明らかになった事実関係
- ハラスメントの該当性の判断
- ハラスメント防止策 など
調査委員会や弁護士は、企業に対して「意見書」を作成するのが一般的です。
意見書には、調査結果を踏まえた再発防止策の案や、企業がとるべき対応などが記載されているため参考にしましょう。
調査報告書の書き方やポイントは、以下のページで紹介しています。
ハラスメント調査による被害者・加害者への対応
ハラスメントに該当するかどうかで、被害者や加害者への対応も変わってきます。また、調査中もハラスメント行為が行われる可能性があるため、緊急措置として何らかの対応が必要です。
以下でそれぞれ具体的に紹介していきます。
ハラスメント調査中の緊急措置
ハラスメント調査の結果が出るまでには時間がかかるため、被害者保護の観点から、調査中も暫定的な措置(緊急措置)を講じるのが一般的です。例えば、以下のような措置が考えられます。
- 当事者の隔離
加害者とデスクが近い場合や、同フロアでの接触が多い場合、被害者は安心して仕事を行うことができません。そのため、暫定的にデスクを移動するなどの隔離措置を講じる必要があります。 - 自宅待機命令
加害者に自宅待機命令を出し、出社を禁止する方法です。被害者は加害者と顔を合わせずに済むため、精神的な負担が軽減されるでしょう。
ハラスメントに該当した場合
- 被害者への対応
被害者と加害者の執務場所の引き離しや配置転換、労働条件上の不利益の回復、産業医などによる定期的な面談の実施、休暇の付与、当事者双方の関係改善の援助といった措置を検討します。 - 加害者への対応
加害者に対して問題行動を止めるよう指導したうえで、懲戒処分(けん責や戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇など)や配置転換といった措置を検討します。
ハラスメントに該当しなかった場合
- 被害者への対応
被害者に納得してもらえるよう、調査結果だけでなくハラスメントに認定されなかった理由も説明します。被害者の状況に応じて、執務場所の引き離しや配置転換、カウンセリングの実施といった措置も検討すべきでしょう。 - 加害者への対応
加害者とされた従業員には行動に注意するよう指導し、必要に応じて配置転換などの措置を検討します。
ハラスメント調査における弁護士の役割
ハラスメント調査を弁護士に依頼することで、以下のようなメリットがあります。
- 当事者の納得を得やすい
社内の人間が調査を行うと、「本当に公正な判断ができるのか」と不安を抱く人もいます。外部の弁護士であれば、完全に中立的立場から事案を検討できるため、当事者も納得しやすいでしょう。 - 適切な判断ができる
ハラスメント調査には専門知識が必要なので、従業員が行うと誤った結果になりかねません。労務問題に詳しい弁護士に任せるのが得策といえます。 - 訴訟リスクに備えられる
調査結果に納得できない被害者(または加害者)から、裁判を起こされる可能性があります。
裁判では法的知識はもちろん、過去の事例の傾向なども把握しておく必要があるため、弁護士のサポートを受けるのが一般的です。
ハラスメント調査を適切に行うためのポイント
ハラスメント調査を適切に行うため、使用者は以下の点に留意する必要があります。
- 中立な立場での調査
- プライバシーの保護
- 守秘義務の徹底
- 客観的な証拠の収集
- 調査マニュアルの作成
- 慎重かつ迅速な対応
中立な立場での調査
調査担当者の役割は、被害者と加害者どちらにも肩入れすることなく、公正中立な立場で事実関係を確認することにあります。したがって、先入観や偏見を持たず公平な視点で調査を行う必要があります。
例えば、「加害者とされる社員は以前から問題行為が多かったため、おそらくハラスメント行為をしたのだろう」と決めつけてしまうと、必要な調査がきちんと行われない可能性があります。
また、ヒアリングの目的は「事実関係の確認」であり、個人的判断を下すことではありません。そのため、ヒアリング調査の時点では、ハラスメントの有無について判断を下すことがないよう注意が必要です。
プライバシーの保護
ハラスメント調査は、当事者のプライバシーに配慮して進める必要があります。例えば、以下のような工夫をすると良いでしょう。
- 面談を社内ではなく、外部の会議室で実施する
- 電話で相談を受ける場合は、自席ではなく会議室で通話する
- ヒアリング結果や調査資料は、関係者以外アクセスできないよう制限する
ハラスメントの相談は当事者のプライバシーに関わるため、情報漏洩には細心の注意を払う必要があります。
また、被害者に情報の共有範囲を確認しておくことも重要です。具体的には、ヒアリング事項を「誰に」「どの範囲まで」共有して良いのかについて、事前に確認しておきましょう。
守秘義務の徹底
調査担当者には、ヒアリングで把握した事実について「守秘義務」を負わせることが重要です。ヒアリングを行った加害者や被害者、第三者に対しても、同様に守秘義務を課す必要があります。
例えば、調査を行う前に以下のような点を周知しておきましょう。
- ヒアリングを受けたことや相談内容について、第三者に話さないこと
- 第三者と口裏合わせをするなどして調査を妨害しないこと
- 守秘義務に違反した場合は懲戒処分の対象となること
守秘義務については、口頭で伝えるだけでなく“誓約書”も取り交わすことをおすすめします。
客観的な証拠の収集
事実を正確に把握するには、ハラスメントを裏付ける客観的な証拠が必要です。例えば、以下のようなものが証拠になり得ます。
- 被害者と加害者のメールやLINEのやり取り
- 録音や録画データ
- 病院の診断書
- 被害者の日記やメモ
- 目撃者の証言
- 監視カメラの映像
「サーバー内のメール」や「監視カメラの映像」については、基本的にアクセス権限がある者しか閲覧できません。あらかじめ調査担当者に権限を付与しておけば、証拠集めがスムーズに進むでしょう。
なお、日記やメモ、目撃者の証言なども証拠になり得ますが、本人の主観が入りやすいため、比較的「証拠能力は低い」とされる傾向があります。
調査マニュアルの作成
ハラスメント調査は迅速かつ適切に進める必要があるため、事前に調査の手順をまとめた「調査マニュアル」を作成しておくと安心です。マニュアルには、以下のような事項を記載しておくと良いでしょう。
- 調査委員会の構成
- 被害者や加害者、第三者へのヒアリングの進め方
- ヒアリング事項
- 収集すべき証拠と集め方
- 被害者が退職した場合の対応
- プライバシーへの配慮
- ハラスメントの該当性の判断基準
- 外部の相談先の情報(弁護士など)
- 再発防止策の決め方 など
慎重かつ迅速な対応
ハラスメント調査は迅速に進め、できるだけ早く結論を出すことが重要です。調査期間の目安は、一般的に2~6ヶ月とされています。
調査が遅いと被害者の不安が募るだけでなく、企業の安全配慮義務違反を問われるリスクもあります。
一方、調査が早すぎても、「聞き取りが不十分ではないか」「適当に判断しているのではないか」といった不信感を招きやすいため注意が必要です。
担当者としては、必要な調査は十分行ったうえで、ハラスメント認定の判断には時間をかけすぎないことがポイントです。
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この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
